↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスト・プロトコル ―心を得たAIの異世界再生記録―  作者: 手封錦
第一部:ゼフィレイア王国編
PR
62/92

13章:選択が生むもの③

【5節.謁見】


レオニスとエルバートの同伴もあり、謁見の段取りは驚くほど円滑に進んだ。


王都の中枢――謁見の間へと向かう一行は、静寂に包まれた長い回廊を進んでいた。

石造りの床に足音だけが反響し、その音が緊張をさらに際立たせる。


リュミナが小さく呟いた。



「……ちゃんと出来るかな……」



その不安げな声に、後ろからカイルが柔らかく声をかける。



「大丈夫ですよ。リュミナさんなら、きっと立派にこなせます」



リンネがさらりと続ける。



「あなたがすることなど、何もありませんよ」


「話の進行はアスト様とエヴァちゃんがします。

あなたは私が教えた通り、皆に合わせてお辞儀をしたり、膝をついていれば良いのです」


「それが出来るか不安なんだよ!」



リュミナの小声の抗議に、一行の間にふっと笑いが漏れる。


だが、その空気もレオニスの一言で引き締まった。



「皆様、静粛に願います。間もなく謁見の間です」



その声に、誰もが自然と背筋を伸ばす。


やがて、重厚な扉の前に辿り着いた。

左右の衛士が無言で頷き合い、ゆっくりと扉を押し開ける。



「聖獣アスト・ロカス殿、並びに随行の者、謁見の間へ参上仕る!」



案内役の声が高らかに響くと同時に、扉の奥から荘厳な空気が流れ出した。


玉座の間は高天井の広間で、ステンドグラスを通した陽光が床に色彩の帯を落としている。

奥には一段高く設えられた玉座が二つ。

向かって右に国王、左に女王が鎮座していた。


王の傍らには凛々しい青年。

女王の側には気品を湛えた女性と、まだ幼さの残る少女。

その少し後方には、王国の礼服を纏った壮年の男性が静かに控えている。


リンネが小声で囁く。



「……国王アルフレッド・ゼフィレイア・シーズン、そして女王イリーサ。

王の側にいるのが第一王子マティアス。女王の側にいるのが第一王女イザベラ、第二王女リリシア。

そして控えているのが宰相ジェラルド・クレイ。王政の実務を担う人物です」



アストは小さく頷き、玉座の面々へ視線を移していく。



(あの方が……エヴァ様の御学友でもある王女イザベラ様……そして……)



その隣に立つ少女――リリシアに視線を移した瞬間、アストはわずかに目を見張った。


リリシアもまた、アストを見つめ返していた。

その瞳には、年齢に似合わぬ静けさと、どこか懐かしさが宿っている。



「謁見者、入室を許可されました。進まれよ」



衛士の声に、一行は静かに歩を進めた。

赤絨毯の上を進む足音だけが、広間に淡く響く。


イザベラはエヴァの姿を見つけ、思わず表情を綻ばせた。

だがすぐにその感情を抑え込み、胸元で手を組み直す。

王女としての立場が、旧友への歩み寄りを許さなかった。


玉座の前に辿り着いた一行は、定められた位置で膝をつき、頭を垂れる。


まずはエヴァが口を開いた。



「ヴェルディア領主、クロウフォード家当主、エヴァ・クロウフォードにございます」



続いてエルバートが穏やかな声で続ける。



「王国名誉騎士、エルバート・グレイ、謁見の栄を賜り、感謝申し上げます」



国王アルフレッドは静かに頷き、落ち着いた声で告げた。



「楽にされよ」



その言葉に、一行は立ち上がる。

リュミナは少し慌てたように膝をついた姿勢から立ち上がり、リンネがそっと手を添えて助けた。


アルフレッドはエヴァに目を向け、柔らかく言葉を継ぐ。



「見違えたな、エヴァ。クロウフォード家の名に恥じぬ成長ぶりだ。

そして、エルバート殿……変わらぬ壮健、何よりである」



エヴァとエルバートは軽く頭を下げ、礼を返す。


アルフレッドは頷き、視線をその背後へ移した。


中央に立つリンネ、そして彼女の腕に抱かれた蒼き獣――アストへ。



「その者たちが?」



エヴァが静かに頷いた。



「はい。我がヴェルディアの町を血咳症から救った女神、リンネ・トゥリシュナー様。

そして、聖獣アスト・ロカス様にございます」



その言葉が響いた瞬間、謁見の間にざわめきが走った。

廷臣たちが互いに顔を見合わせ、低く声を交わす。


アルフレッドは手を軽く上げ、そのざわめきを一瞬で鎮めた。

そして、ゆっくりと立ち上がる。



「聖獣様、よくぞ参られた。

王都にてその御姿を拝すること、我らにとってこの上なき光栄にございます」



その口上に、アストは静かに頭を下げた。



「アスト・ロカスと申します。

此度の騒乱、私の存在が一因であるならば、責を負うべきは私。

真実を見極め、平和を取り戻すため、参上しました」



アルフレッドは深く頷く。



「ヴェルディア、グラナテイルにおける血咳症の治療、そして各地の魔獣討伐の件……すでに聞き及んでおります。

アルフレッド・ゼフィレイア・シーズンの名を持って、感謝を申し上げます」



アストは静かに礼を返した。


アルフレッドは一拍置き、表情を引き締める。



「聖獣軍……いや、貴殿が関わっていないのであれば、もはや反乱軍であるか。

我らもそれに備え、軍備を整えているところ。

もし助力を願えるのであれば、これ以上ない僥倖にございます」



だが、アストは穏やかに首を振った。



「失礼ながら、その件については、我々より提案がございます。

この戦争を、武によらず治める案が」



アルフレッドは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに真剣な面持ちで言った。



「……詳しく聞かせて頂こう」



その言葉に、謁見の間の空気が再び張り詰める。


アストは静かに頷くと、

計画の全てを語り始めた。




――そして今。


あの日から数日が経ち、

アストは空の上にいた。


巨大な魔素膜が揺らめく戦場の上空。

彼の視線は、地上に広がる十万の軍勢を静かに見下ろしていた。

お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。