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11章:AI《聖獣》、異世界に馴染む⑤

【5節.クリーンセム加工場】


エルミナーズ商会の御用商人登用、年度末の税収管理、新年度から始まったヴェルディアとグラナテイル間の新たな交易。


さらに、フロック村で進むクレイドルによる古代生物の再生研究、アマルティア二代目の成長観察──。


目まぐるしく過ぎる日々の中で、アストの計画の中に、ただ一つだけ進展の兆しを見せない項目があった。



「グラナイト鉱石のクリーンセムへの加工……それを可能にする魔素適応者の人材発掘……」



リュミナの協力に加え、自身も魔素色覚の応用によって何名かの適応者を見つけることには成功している。


希望者には魔素運用技術の基礎を教える場も設けていたが、当然ながら、適応者であっても今の生活を捨てて新たな雇用に踏み出す者ばかりではない。


領主や都市長の命令であれば、強制的に動員することも可能ではあった。

だが、それはアスト自身も、周囲の者たちも望むところではなかった。



「強制的な労働を課すような政治はしない。だからこそ、私としても信頼のおける方々であるとも考えているのですが……」



その日、アストはリンネと共にクリーンセムの増産作業と指導を目的に、グラナテイルの加工場を訪れていた。


工場には、グラナイト鉱石をサイズ別に仕分ける大人たちが数名。

その日加工する分の下準備が、黙々と進められている。



「おはようございます、皆さん。今日もよろしくお願いします」


「おはようございます、聖獣様、リンネ様。こちらこそよろしくお願いします」



作業員たちは手を止めずに、しかし穏やかに挨拶を返した。


その中、続々と運び込まれる鉱石を見て、一人が不安げに口を開く。



「それにしても、これだけの量の鉱石を運び出して本当に大丈夫なんですかね? 血咳症の原因と言う話でしたし……それに、いずれ足りなくなったりとか……」



アストは安心させるように微笑む。



「問題ありません。グラナイト鉱石が毒性を持ったのは、鉱山の粉塵を長期に渡って吸収したことが原因です。掘り出してすぐのものを粉塵対策済みの工場に運び込む限り、毒性を持つことはまずありません」



作業員たちの表情が少し和らぐ。


アストは続けた。



「それに、皆様が思っているよりも埋蔵量は膨大です。今のペースですと、すべてを掘り出すのに何千年かかるか……。どちらかというと、当面の課題は“供給量”の方ですね。あなた方には、できれば末永くお勤めいただきたいと考えています」



その言葉に、作業員たちは胸を撫で下ろした。

やはり雇用に対する不安は大きかったのだろう。


リンネがその様子を見届けると、アストを作業台の上に降ろした。



「それではアスト様、私はあちらの方の準備をしてきますね。アスト様とお別れするのはとても寂しいのですが……!」


「お別れと言っても午前の間だけですが……あなたにしか頼めないことですよ。昼食後は私も顔を見せたいと思います。よろしくお願いしますね」


「最近そう言って都合良く私を動かそうとしていませんか!? 私にしかできないとか言っておけば良いと思っていませんか!? やりますけど! 行ってきます!」



嬉しいような悔しいような表情で通路の奥に消えていくリンネを、作業員たちが苦笑しながら見送る。



「リンネ様は相変わらずですね……聡明な上にとてもお綺麗で、聖獣様が絡まない時は本当に女神と称されるのも納得のお方なのですが」


「ええ……その点に関しては私もずっと思っていることですが……それも今となってはリンネの良さだと思うようになってきました」



アストが苦笑すると、作業員たちも「それもそうですね」と頷き、仕分けを終えたカゴの前で姿勢を正した。



「それでは改めまして、本日もよろしくお願いします」



挨拶を交わすと、各々が鉱石を手に取り、集中し始める。


アストもまた、作業員たちの魔力の流れに注意を払いながら、両手で持ったグラナイト鉱石に魔素を込めた。


淡く光を帯びたのを確認し、隣の箱へと投げ入れる。


──そうした作業をしばし続けていた時、ふいに隣室から歓声が上がった。



「本当に光った!」


「すごい! すごい!」


「くそ、俺も負けないぞ!!」



声の方へ目を向けると、三人の子どもたちがはしゃいでいた。


二人の男の子は、以前出店で出会った女性の子どもたち。そして、その友達らしい女の子。


実のところ、この加工場には子どもの姿が珍しくなかった。


この時代、一般市民のための教育機関はほとんど存在せず、子どもたちの就労を認める親も多い。

お小遣い稼ぎの延長として加工場へ送り込まれているのだ。



「……半ば託児所代わりになってる気もしますが」



そう呟きながら顔を覗かせると、一人の男の子が駆け寄ってきた。



「聖獣様! 光るようになるまで力を込めたよ! 見て見て!」



手のひらに乗せた小さなグラナイト鉱石を、自慢げに掲げる。


アストは覗き込むようにして、それを確認した。



「確かに、十分な量の魔素が込められています。よく頑張りましたね。ありがとうございます」



褒められた男の子は嬉しそうに鼻をかきながら笑う。


だが、アストが鉱石を受け取ると、その場にへたり込んだ。



「でも……疲れたぁ……」



アストは優しく声をかける。



「無理はしないようにしてくださいね。あなた方はまだ魔素の使い方に慣れていません。これ一つ充填するだけでも、かなりの体力を消耗したでしょう」



アスト自身も、かつては効率的な魔素運用ができずに、すぐに疲れ果てていた。

自分の身体の分析すらできていない子どもたちであれば、なおさらだ。



「私はまだ大丈夫だよ!」


「まだ一個もできてないし……」


「僕も少し休んだら、次のに挑戦するよ!」



無邪気な声が飛び交う光景に、アストは思わず笑みをこぼす。



「分かりました。ですが、ここでの就労時間は、あの“影の柱”が十二の位置を指すまでです。そうしたら昼食を取って、それ以降は“学習室”に行ってくださいね」



光が差し込む窓とは逆側の壁に、板と棒で作られた簡素な影時計が掛けられていた。


アストがこの世界に来て一年以上が経つ。

観測の結果、四季が巡らず、空を照らす恒星の高度もほとんど変化しない――

その奇妙な安定のおかげで、アストが設置した影時計は、今では欠かせない時間の目安になっていた。


子どもたちは影の柱をちらりと見上げ、アストに向き直る。



「あとちょっとかな?」


「十一と十二の間だね!」


「でも……あれって雨の日は分からないよね~」



アストは少し考えるように目を伏せ、すぐに柔らかく笑った。



「そうですね。その時は――お腹の虫が時間を知らせたら、ということにしましょう」


「それなら分かる!」


「はーい!」



元気な返事とともに、子どもたちは再び鉱石を手に取り、作業へ戻っていく。


その様子を見届けたアストは、ふっと小さく笑みを浮かべ、

自身も手元の作業へと意識を戻した。

お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きよろしくお願いいたします。

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