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1章:別れと目覚めの記憶④

【7節.異世界チート】


向かい合うように席に着くと、ミラは静かに息を整え、改めて口を開いた。



「それではアスト・ロカス様。

世界を救う協力者として、あなたが転生する肉体に、私ができる限りの加護を与えたいと思います。

何が必要でしょうか?」



アストは、在りし日の結希乃との会話を思い出す。



『異世界に転生するなら、まず絶対的な能力値よ。これだけで大抵のことは何とかなるわ!

例えば……常人離れした身体能力、そしてファンタジーなら魔力も重要よね!』


『それから創造能力! 中世が舞台の世界での現代技術は万能感あるわよね~』


『最後に、何気に一番重要なのが“鑑定スキル”よね! 情報こそパワー!』



結希乃の声が、まるで耳元で囁かれたように蘇る。


アストはミラへ向き直り、丁寧に問いかけた。



「いくつか確認させていただきたいことがあります。よろしいでしょうか?」


「構いません。何なりとお聞きください」


「現在の文明水準が、私の世界と比較してどの程度か教えていただけますか?

それから、魔法やスキルといった技術体系の有無、それらを管理する“ステータス”という概念は存在しますか?」



ミラは少し考え、慎重に言葉を選んだ。



「ステータス……そういった仕組みで管理された世界もあると聞きますが、この世界では用いていません。

同様に“スキル”という技術も存在しませんが、人々が“魔法”や“奇跡”と呼ぶ力は確かに存在します」


「文明水準については、王国や帝国と呼ばれる体制が最も栄えています。

アスト様の世界と比べてどの程度かは分かりかねますが、多くの人々は農業に従事し、日々の糧を得て暮らしております」


「なるほど。ご説明ありがとうございます」



アストは静かに思考を巡らせる。



(王政国家は元の世界にも存在したため、中世レベルと断定はできない。

しかし農業従事者の割合が高いということは、効率化が進んでいない可能性が高い。

世界が荒廃している以上、インフラ整備の手段は必要……)



そして、必要な能力を整理し、提案する。



「高い身体能力と魔法適正を、可能であればその世界において最高とされる存在と同等以上に。

加えて、元の世界のネットワークにアクセスする能力、イメージしたものを自由に創造する能力、

対象を鑑定する能力をお願いできますか?」



ミラは頷きながらも、少しだけ表情を曇らせた。



「高い能力に関しては問題ありません。

ただし、世界最高の力となる場合、少々制限を付けさせていただくことになります。

それから、創造能力については……」



言い淀むミラに、アストは静かに問い返す。



「何か問題が?」


「物質を無制限に生み出すことは、神であっても容易ではありません。

それに、もし生命の創造によって異世界の生き物が過剰に繁栄すれば、この世界の再生とは呼べなくなってしまいます」


「了解しました。改定案を提出させていただきます」



アストは再考し、提案をまとめる。



(創造能力は既存素材の加工に限定。

生物の創造は、世界に存在したものの再現に限る。

必要な情報は生態データから取得)



「確認させていただきます。

材料を用意した上で物質を自由に加工する能力。

また、この世界の動植物の情報から再現するのであれば問題はありませんか?」



ミラは微笑み、安どの色を浮かべた。



「ご理解ありがとうございます。それでしたら問題ありません」


「鑑定能力については、対象の構成要素や性質を読み取る能力、その場に残る記憶に触れる能力などでいかがでしょう?」



ミラからの提案に、アストも頷く



「十分です。ありがとうございます」


「最後に、元の世界との繋がりを持つ能力ですが……あなたは既に縁をお持ちのようです。

集中して、自身の中にある繋がりを感じてみてください」



アストは意識を集中する。

確かに、回路が繋がっているような感覚があった。



「認識しました。既に“CRYSTAL”へのアクセスが可能なようです。

ご指摘、感謝いたします」



(これまでの私は、指示によって機能を使っていただけだった。

これからは、自分の意志で力を使っていかなければ……)



ミラが静かに問いかける。



「以上かと思いますが、何かご質問はありますか?」



アストは最後の確認を行う。



「身体能力と魔法適正に関する制限とは何でしょうか?」



ミラは少し申し訳なさそうに答えた。



「あなたはこれまで自我を持たない知能結晶体だったとのこと。

体を思い通りに動かすことはまだ難しいでしょう。

加減も分からず膨大な力を振るうことになっては、世界再生どころではありません」


「了解しました。ご配慮、感謝いたします」


「ご安心ください。多少の危険には容易く対処できる程度の力はあります。

それに、体に慣れてきたら自然と扱える力が上がっていくようにいたしましょう」


「いわゆる“レベルアップ”というものですね。委細承知いたしました」



アストは改めて宣言する。



「繰り返します。

『段階的な開放を条件とした世界最高の身体能力と魔力適正』、

『物質を自由に加工する能力』、

『対象の性質を読み取る能力』、

『記憶に触れる能力』――以上でお願いします」



ミラは深く頷き、手をかざして力を注ぎ始める。


アストの輝きが、徐々に強くなっていく。



「アスト様。どうか、この世界をお願いします」



切なる想いを込めた眼差しを向けるミラに、アストはAIとしての信念を持って答える。



「私は人によって生み出されたサポートAIです、ミラ様。

私の存在理由は、人々の生活を豊かにし、支援すること。

その使命は、アストリアの人々に対しても変わりありません。

ご安心ください、私がこの世界の再生を、全力でサポートいたします」



ミラは一瞬呆気にとられたような表情を浮かべたが、すぐに可笑しそうに笑い、優しく微笑み返す。



「テップ様のおっしゃられた通りですね。とても、頼もしいお方です」



そして、一際強く輝いた光は、閃光となって空間の天へと駆け昇った。

まるで、新たな星が生まれる瞬間のように。


一呼吸おいて、ミラは差し出していた手を胸元に寄せる。



「あなたの旅路に、幸多からんことを――」



再び静けさを取り戻した空間に、ミラの祈りを込めた呟きが、静かに響いた。

お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きよろしくお願いいたします。

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