5章:幕間
【幕間:結希乃とミラ3】
結希乃とミラが滞在する高次元空間──そこは、かつてアストが転生者として訪れた時とは様相を変えていた。
以前は机と椅子、水晶が一つあるだけの簡素な空間だったが、今では本棚、テレビ、パソコン、ソファ、ベッドまで揃い、まるで居住空間のようになっていた。
それらはすべて、結希乃がミラに頼んで用意してもらったものである。
ソファに腰掛け、テレビに映るパルカ・アストリアの映像を眺めていたミラが、ふと結希乃に声をかける。
「……アスト様が村人と接触されました」
ベッドの上で漫画に埋もれながらすやすやと眠っていた結希乃が、その一言に目を開ける。
ミラは映像を巻き戻し、アストが村に到着した場面から再生を始めた。
興味深そうにミラの隣へと移動してきた結希乃は、村の石像を前に硬直するアストの姿を見て吹き出す。
「黒歴史ってこうやって出来上がるのよね。あの子も、私の気持ちがちょっとは分かったでしょ」
映像を眺めながら、結希乃はしみじみと呟く。
「それにしても、三ヶ月以上も様子見って……修行編にしても引き伸ばしすぎよ」
姿勢を崩してソファに背を預けると、机の上に芳醇な香りの紅茶が置かれていた。
ミラの前にも同じものが差し出され、無意識に受け取って礼を言いながら顔を向けると──
そこには、テップに付き従うメイドの少女、那琉の姿があった。
突然の訪問に驚くミラ。「テップ様もご一緒ですか?」と尋ねるが、那琉は静かに首を振る。
その仕草に、ミラは胸をなでおろした。
紅茶を「美味しい美味しい」と無邪気に飲む結希乃を横目に、ミラは那琉に用件を尋ねる。
那琉はどこからともなく一枚の手紙を取り出し、そっとミラに渡す。
内心「またですか……」と思いながらも、表情には出さず厳かに受け取り、内容を確認する。
『アストくんには言ってなかったけど、そう遠くないうちに“あれ”が起きるからね~。ミラなりに助けてあげてね!』
テップの声が聞こえてきそうなその文面に、ミラは青ざめる。
「アスト様には、すべて説明してあると仰っていたはずでは……」
苦笑する那琉は、続けて虹色に輝く光玉を差し出す。
ぎこちなくそれを受け取ったミラが光玉を見つめていると、那琉は手紙を指さした。
続きを読み進めたミラの目は、さらに見開かれる。
『ちょっと大変かもしれないから、これを那琉に持たせておくよ~。他の世界から融通してもらったエネルギーを、ミラの世界の法則に合わせて調整しておいたから、大事に使ってね~』
テップからの贈り物に、ミラは感動を覚える。
その様子を黙って見守っていた結希乃が、紅茶をすすりながら微笑む。
「私には何のことかさっぱり分からないけど……テップなりに気にしてるところもあったのかもね」
那琉に目配せすると、ふわりと笑顔が返ってくる。
ミラが落ち着いたのを見届けると、那琉は静かに頭を下げ、光に包まれながらゆっくりと消えていった。
二人は那琉を見送ったあと、光玉に目を落とす。
「ところでこれって何なの?」
結希乃が指をさして尋ねる。
「これは……パルカ・アストリアにおける力の一つ。アスト様が名付けた名称に合わせれば、魔素の塊……いえ、正確には“魔素の原型のようなもの”です。見たところ、これ一つに惑星規模のエネルギーが込められています……」
ミラの口から飛び出た光玉の正体に、結希乃は思わず仰け反った。
「惑星規模!? それだけの力があれば問題が解決したも同然じゃないの? てか大丈夫なのそれ?」
テンションが上がる結希乃とは逆に、憂鬱そうな顔を見せるミラ。
「ええ、ですが……」
ミラが力を込めると、光玉は虹色の輝きを放ち始める。
しかし──
「固すぎます! 私の力では、少しずつしかこの力を解いていけません……」
集中を解くと光玉の輝きは収まり、解かれた粒子がミラの周りにキラキラと留まった。
「ふーん……」
結希乃はひょいっと光玉を取り上げ、コロコロと転がす。
「これ一個で今すぐ解決できるわけでもない。どう扱うかはミラ次第ってことか。あんたも愛されてるねぇ~」
にやにやと笑いながら光玉を返すと、ミラはため息をつきながらそれを受け取る。
「星の命運をかけての試練など、重すぎます……。それにしても、本当にどうしましょう。星全体で枯渇してきているエネルギーの補填に使うべきでしょうか……それとも……」
その言葉に、結希乃は真面目な顔で答えた。
「少しずつしか使えないんでしょ? それで広く浅くなんて、効率悪すぎ! どうせなら“ここぞ”ってところにドーンと使うべきよ!」
立ち上がって勢いよく語った結希乃は、ミラの両肩に手を置く。
「というわけで、その力はうちのアストに使いましょう。きっとあの子なら、正しく使ってくれるはずよ!」
不敵な笑みを浮かべて圧力をかけてくる結希乃に、ミラは引き気味に呟いた。
「えぇ……」
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これにて第5章は終了となります。
次章も引き続きよろしくお願いいたします。




