第9話 泣いて流るる、涙は止まらぬ
(回想)
桜。は、もうすでに散った春。
あの頃、
普通の少年と少女。
「あのさ、」
私は、声の聞こえたほうを振り向く。
「ごめん、ちょっと距離を置いてもいいかな?」
なんで、そんなことを言うの?
「自分勝手でごめん」
いや、そんなことはないよ。私の方こそ、色々と謝りたいことはあるし。
「・・・あのさ、・・・もっと違う方法ってあったのかなって、俺思うんだよ」
違う方法?
「その、・・・もっと違う出会い方とか、そういうのがあったんじゃないのかなって思うんだ」
出会い方って、・・・なにそれ?
「いや、まあ俺のことだからさ、」
大丈夫。私にも、聞かせてよ。
「え、それはな〜、その、・・・いいや、ごめん」
・・・こっちこそ、無理に聞いちゃったよね。
「いや、いいんだよ」
・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・。」
・・・・・・・あのさ、
「・・・どうしたの?」
・・・・・・・・・また、明日ね。
「・・・そうだね。じゃあ、また明日」
(現在)
「・・・ごめん、・・・私、ごめっ、・・・グスッ・・・ゴホッ」
涙は、きっと、自分の気持ちよりも先に流れるものだ。
「ヒック、・・・ヒック、・・・・・っ」
私は、布団を抱きしめる。
なんで、なんなの?この気持ちは。
寂しい。悲しい。
歯を食いしばれば食いしばるほど、涙がこぼれ落ちてくる。
別に泣き止もうと思っていないからかもしれない。だから、涙がこぼれ落ちてくる。
「なんでっ、なんで!!ヒッ・・・うぅ・・っ・・・、!!」
何かを抱きしめていたい。
でも、何か足りないと思えてしまう。
酷い夢を見た気がする。
懐かしい夢を見た気がする。
何もわからないのに、なぜか泣けてくる。
嫌だ。
私は、とりあえず立ち上がった。
そして、ただこの震える身一つで
ハア、そうよね。私がバカだったもの。
トボトボと歩いた。私の、安心できる場所。
靴も履かずに、裸足のまま歩いていった。
テントだ。
すでに、寝息が聞こえてくる。
私は、彼のテントの中に入り込む。
「グスッ、ごめん、・・・ごめん、」
そして、私は彼の横に倒れ込んだ。
そして、ギュッと彼を抱きしめる。
カイトの寝息が一瞬考え込むみたいにぐっ、と止まる。
そして、カイトが「うわっ」という声を出した。
だが、私が彼のことを抱きしめているので彼は動けない。
「え、あ、なにこれ?サキュバスとかでも来たの?って、ルナか、」
と、カイトは一瞬眠りに落ちそうになったところで、私に気がついたようだ。
「えっ、ルナ?」
「・・・ごめん」
私は、彼の胸に顔を埋めた。
「いや、その、別に俺もそこまで怒ってるわけじゃないし、」
「ごめん、・・・」
私は、もっと強くカイトのことを抱きしめた。
「・・・・・いや、ご、・・・大丈夫だよ」
彼が、私のことを優しく抱き返す。
安心する。
彼がいてくれてよかった、と思う。
「・・・うぅ、グスッ、・・・うぅ、・・・」
「あれ、泣いてるの?え、」
そんなことを言いながらも、彼はずっと私の頭を撫でながら「大丈夫大丈夫」と言ってくれた。
「・・・ごめん」
私は、安心したのか、そのまま彼の腕の中で眠りについた。
翌朝
朝目が覚めて、気がついたのだ。
昨日は、かなりヤバいことをしてしまった。
テントの中にはカイトはおらず、すでに出発の準備を行っているみたいだった。
できればもう少し寝ていたかったけれども、さすがに今日は野営は嫌だ、と思った。
私は、なんとか布団から体を出す。
そして、テントの外に出た。
「あ、おはよう」
カイトだ。
あっちも照れているんじゃないかなんて思っていたけれども、彼はまったく気にするような素振りを見せていない。
どうしよう。
あまり思い出したくはないけれども、昨日彼の腕に潜り込んだときに謝った、ということにしておくべきか、それとも、
「あの、昨日さ、」
「昨日はごめん」
結局、私は彼に謝ることにした。
「あ、え?その、・・・」
彼は少し考えたあとに、「別に大丈夫だよ」と私に返した。
「でも、その、夜、あの、・・・」
「あ、あれのこと?あれは、まあ、」
カイトはどこか遠くを見ながら、「あれは、別にいいよ」と言った。
それにしても、これからもこんな感じになっていくのだろうか。
これから始まる冒険の旅は、もっとずっと続いていくわけだ。
「その、嫌だったらいいけどさ、どうしたかだけ聞いてもいい?」
カイトが出発するための支度をしていた手を止め、私の方に歩み寄ってくる。
「その、・・・申し訳なかったから、」
カイトは不服そうな顔で、「それだけ?」と聞いてきた。
しかし、私だって完璧に自分の感情がわかっているわけではないのだ。それだけ、と言われたらそりゃ違うだろうけど、その違う部分がどういうものかは説明することは出来ない。
「いや、その、怖い夢を見ちゃって、」
「え、あ、そうだったの?」
具体的な内容は覚えていないけれども、でも、私は怖かったのだ。
「その、でもちゃんと謝らせて」
私も一歩カイトの方に近づく。
そして、しっかりと腰から体を折り曲げて「ごめんなさい」と彼に伝えた。
なんか、前にもこんなことがあったような気がするのだけれども、
まあ、いい。
「でも、なんていうかさ、可愛かったよ」
「は!ちょっと、なにそれ、」
突然そんなセリフを言われて、私はかなり焦った。
え、どういうことなの?
「わ、私すぐ準備するから、出発しよう。ね、」
私は急いで旅支度を済ませる。
すると、近くの地面からボコッと浮き出た木の根っこに座ってカイトが待っていたので、私は彼に「行こう」と声をかけて、そして冒険がまた始まった。
さすがに、今日は一日中歩いていれば隣の村まで辿り着くだろう。
村までの道は整備されているので、非常に歩きやすい。
ときたますれ違う人たちも、基本は鎧やら武器を持った冒険者たちだ。彼らも、私たちと同じように魔王の討伐を狙っているのだろうか。
「あのさ、そういえば他にも仲間とかいた方が心強いよね、」
隣を歩くカイトに喋りかける。
「え、俺は二人でもいいけどね」
「でも、また昨日みたいに喧嘩しちゃうかもしれないし、回復魔法も一応使えるけど、もっと専門の人がいた方がいいと思うんだよ、」
「俺は昨日みたいにご褒美があるなら、全然、というか、むしろ大歓迎だよ。このまま二人で旅をしようよ」
私は肘で、彼の腕を突く。
彼はいつものように「痛っ」と言って腕を押さえた。
私だって、気にしているんだから。
「ほら、あんまり街では見なかった木だよね。すごい、うねうねしてるっていうか、」
彼がそんなことを言うので、一応周りの木々を見てみるけど、昔から自然というものはあまり好きではなかったから、私は特になにも思わなかった。
とりあえず、「そうだね」とだけ言った。
だが、確かにあまり見かけないタイプの木ではある。
「魔王ってさ、ずっと逃げ回ってるんでしょ?どこにいるんだろうね、」
「わからないから、こうやって俺達が探しているんじゃん」
彼がおそらく彼のいつものペースで歩いているので、私は頑張って彼に歩調を合わせる。
なにせ魔法使いなので、基本は止まって戦うのだ。
地面から足が離れれば魔法だって使えなくなるし。
同じ地面を歩いているのだから、彼とつながっていられる。そんな気がする。
「途中途中でさ、魔獣とかこまめに捕まえていこうよ。きっと、どっかで売れるからさ、」
「そうね。そこは私に任せてよ!」
私はそう言って、腰に刺してある杖を撫でた。
「魔法はすごいからね」
彼はそんなことを言うが、別に魔法だって万能なものではない。
「私は、そんなにすごいとは思わないけどね。結構不便だもん。同じ技を連続で使えないとかさ。その、魔法が正の回転っていうか、回復魔法と普通の魔法は相手との繋がり方が一緒でも、魔力の回し方が違うんだって」
カイトは「へえ〜」といつものように相槌を打ってから、「俺にはできないの?」と聞いてきた。
「前やってみたじゃん。無理だよ、多分」
子供のときに、カイトにもやらせてみたが、彼はどんなに力を込めてもイメージしても何も起きなかった。やはり、才能というのが大事なのだろう。
「そっか、その、・・・一人で大変じゃないの?」
彼の歩調が少し早くなる。
私も、頑張っていることを悟られないように、必死に足を動かす。
「大丈夫だよ。ずっと、習ってきたからね」
そういって、試しに、といってはなんだが、近くにあった茂みに向かって、手のひらを向けて「アクア!!」と唱える。
すると、意味もなく茂みがびしょびしょになる。
ということは、次はウィンドだな。
こういうのは、マメに覚えておかなければならない。覚え間違いが一番危険なのだ。
「それ、役に立つの?」
「立たないよ」
そういって、二人で笑った。
まだ道は長く続いている。




