第8話 成長、出発、特異点もしくは正則点
魔王までの道のりというものは、長い。
もう私も一五歳になった。
両親に「冒険者になりたい」と言ったら、あまり興味なさそうに「いいんじゃない」と言われた。「まあ、冒険してないときは手伝いに来て」と母に言われて、父は「まあ、これでも持ってけ」と財産の一部を私にくれただけだった。
まあ、これはこれで愛情なのだろう。
元々、何にも興味の無さそうな両親だったのだ。むしろ、お金をくれたこと自体かなり意外だった。
しかしまあ、実家のパン屋は、両親も三〇代だし冒険が終わったら私が継いだ方がいいのかもしれない。
カイトの夢だって、「魔王を倒して、両親と一緒に冒険に出かける」ことなのだ。
彼とも一生付き合っていくわけではない。
ということで、私は「行ってきます」とだけ言って、家を出たのだった。
「カイトは、なんて言って家を出たの?」
すでに、私たちは魔王討伐へ向けて歩を進めていた。
カバンに荷物を詰め込み、父からもらったお金をパンツのポケットやらカバンやらに分割して入れて、リスクを分散した。
まあこれで十分だろう。
「俺は、乳母さんに「冒険に行ってきます」って言ったら、どうぞって言われたから」
まあ、乳母なんてそんなものだろう。
今まで知らなかったことだが、どうやら両親に直接育てられるというのは、どちらかと言うと少数派らしい。
世界は、まだまだ私の知らないことだらけだ。
「そんなもんなんだね」
カイトも私と同じように、大きな荷物を背負っている。
腰には、私は杖、カイトは剣を装備している。
一〇歳の時だったか。練習がめんどくさくなって一時的に教室を休む、といって二人で遊んでいた。
結局、教室に戻ってそれぞれ戦い方を教わることにしたのだが。
とはいっても、教室なんていうのは基礎的なことを教わる場所であって、実力の研鑽をする場所ではないのだ。
しかし、私たちは無理を言って何年も教わっていたのだ。
カイトは、長くいるのだから当たり前ではあるのだが、教室の中では圧倒的な戦士となった。
私は、そもそも魔法使い自体が少ないのであのお姉さん、あ、アルカナム先生から魔法を教わった。
魔法の知識に関する文言は必死に暗記したので覚えているが、やはりそれを人に説明できるか、と言われればイマイチなのだが、実力が向上したのは確かだ。
「これからさ、どうする?」
魔王までの道のりは長い。
それと、今までこれまたイマイチ魔王に対しての解像度というものが低かったのだが、魔王というのはこの国にもちょくちょく侵略しに来ていたらしい。
ただ、潜伏場所がわからない、というか。
つまり、冒険者の皆さん頑張って見つけてください、ということなのだ。
そりゃ、高い懸賞金も出るだろう。
ただ、さすがに何年も手配状態が続いているので、目撃情報などは色々と出ているのだ。
「まあ、魔王だからね。その、目撃されていない場所を探すのがきっと一番いいよね。世界は広いんだから、見られた場所以外に隠れると思うんだよ」
・・・・・
まあ、どちらとも言えるだろうな。
途中で地道に魔王について聞くしかないだろう。
「それにしても、今日中に隣の村まで辿り着くかな?」
「ちょっと待って、これ、村につかなかったらや、・・・え、野営するの?」
私は隣を歩くカイトの方を見る。
カイトは笑顔で、「そうだよ」と言ってきた。
ちょっと待って、野営ってことはお風呂にも入れないし、着替えもトイレも、
って、
嘘でしょ?
「まあ、俺達仲間だし仕方ないよね。ほら、俺達だけの秘密ってやつだよ」
もう、一五歳だ。
この年で結婚する人だって普通にいる。
だがしかし、そんなものは冒険においては邪魔でしかないし、私はカイトのことを異性として見ているわけではないのだし。
「私、離れたところで寝るから、絶対に変なことしないでよね」
まあ、信頼していないわけではないが、いざというときは杖さえあれば、大丈夫だ。
それに、超至近距離なら杖すらいらない。
「俺は、一緒に寝てもいいんだけどな〜」
私はカイトの腕を思い切り殴った。
「痛っ、暴力駄目だよ、」
「そっちこそ、覗いたりしてきたら承知しないからね!!」
まあ、こういうのも冒険にはつきものなのだろうか。
細心の注意を払わなければなるまい。
そして、不運というか、然るべきというか、やはり一日中歩いても隣の村には到着することはなかったので、野営をすることになった。
早速だが、野営の準備となるわけだ。
「あのさ、」
私はテントを組み立てている。テントは、一人で使うには十分に大きいが、まあ、私は一応予備という名目で持ってきた自分のテントに泊まることにした。
テントの準備をしながら、私はカイトに話しかけた。
「昔の話だけどさ、・・・カイトが言ってたんだけど、」
「一緒に寝てくれるの?」
「違うって!!」
ホント、いつでもこんな調子なのに、魔王が倒せるのやら。
「覚えてないと思うんだけどさ、カイトが「ルナの作るパン、楽しみだな」って言ってくれたじゃん」
カイトは一度テントを組み立てる手を止めて、「あ〜、え〜、そうだっけ?」と言ったが、すぐに作業に戻っていった。
「だからさ、私材料持ってきたから、今日、その、作ってあげるから」
私は結構勇気を振り絞って彼に言ったのだが、彼は「それは楽しみだな〜」と適当に返事をするだけだった。
わかったわ。
見返してやるもの。
私はさっさと自分のテントの設置を終えて、カバンからパン作りに必要なものをすべて取り出す。
早速作ってあげようと思っていたので、家で生地の発酵は完了させてきた。
まあ、あとは焼くだけだ。
魔法を使って火を起こす。そして、その上にフライパンを置いて、あとは焼くだけだ。
カイトがテントの設営を終えたので、彼を隣に座らせて、焼き上がりを待ちながら彼と話していたら、ついに焼けた。
フライパンの蓋を開け、中身を確認する。
完璧だ!!
木製のトングでそれを取り出す。
「なんか、懐かしい香りがしてくるよ」
カイトがそういって、くんくんと鼻を動かす。
私だって、頑張ったのだ。
「ほら、食べて」
私は、皿の上に乗せたパンを、カイトに渡した。
「じゃあ、食べるよ」
私はカイトが食べる瞬間を、固唾をのんで見守っていたのだが、彼に「それじゃ、食べづらいよ」と言われてしまったので、私も同時に食べることにした。
普通のパンよりも、素材にもこだわっているし、完璧なはずだ。
だが、自分で確かめるよりも前にカイトの感想を聞かなければ。
やっぱり食べるのをやめて、私は彼が食べる姿を見ていた。
彼は、食べづらそうにしていたが、渋々なのか、結局私に見られながらパンを口に入れた。
「どう?どうだったの?」
「美味しいよ。その、やっぱり焼き立てだからかな、」
なんだか、あんまり満足しないような。
もっと、「感動したよ!!今までで一番美味しい!!」とか、そういうのを期待していたような。
私もパンを口に放り込む。
「ちょっと、」
カイトがこっちを見てくる。
「おいしいじゃん!!なんで、そんなリアクション薄いの!!」
私は隣に座っていたカイトに詰め寄った。
明らかに、というか当たり前かもしれないが、父と母が特に手心加えずに作っているあのパンでも十分美味しいのだから、私が手心くわえて作ったパンがそれの何倍もおいしいのは当たり前のことだ!!
それをよくもまあ、あんな「焼き立てだからかな?」とかいいやがって。
「いや、ごめんごめん。その、本当に美味しかったんだけど、ごめんって」
私は、彼に背を向けてうずくまった。
「いや、美味しいよ。その、俺あんまり食べるのとか興味ないっていうか、」
だが、うずくまっていると、「全然小さなことじゃん」という心の声と、「美味しいって言ってくれてるじゃん」という心の声が増幅してくる。
もう、そうじゃないじゃん!!
一生懸命やったんだから、私、もっと褒めてほしかったの!!
・・・・・
でも、確かに小さなことだよな。
「あの、そのさ、・・・それで嬉しいのかはわからないけど、俺がずっとパン屋の前で立ってたり時々パンを買いに行ってたのも、ルナに、・・・・・」
そう言って、カイトが立ち上がった。
私は、まだ半分くらいはやさぐれを残しつつも、彼の方を振り返った。
「俺、パンよりも一緒に冒険したくて誘ったからさ、その、俺覚えてないんだけど、多分そのときは適当なこと言ってたんだよ。喜んでもらいたかった、というか。だからごめん。でも、美味しかったよ」
・・・。
また、こんなに謝らせて。
本当に、めんどくさい女だわ。私。
「・・・じゃあ、さっきだってもっと喜んでくれればよかったじゃん。ウソでもいいからさ、」
私は拗ねたように、頬をぷくっと膨らませながら言った。
「いや、それはさ、」
ホント、馬鹿らしいわ。
「あの、」
しかし、このまま怒っていても仕方ない、と思い、私は顔を上げ彼の方を向こうと思い、顔を上げると、彼は思い切り残りのパンを頬張っていた。
そして、口にパンを詰めたまま彼は立ち上がった。
「あ、ちょっと、私だってまだ食べようと思ってたのにっ」
私も立ち上がり、彼に抗議した。
「ほら、全部食べました!!美味しかったですよ。別に、まずいって言ったわけじゃないんだから、いいじゃん!!俺が全部もらったから、はい、じゃあもう寝ましょうね!!」
そう言って、彼は自分のテントにどしどしと帰っていった。
私は、もう少しここで待っていれば彼が戻ってきて「さっきはごめん」「いや、こっちこそ」だなんてなると思っていたが、いくら時間が経っても、彼は出てくる様子を見せなかったので、私も自分のテントに戻ることにした。
本当に、私ってバカだわ。
私は、布団にくるまり、体を丸めて、泣いた。
ホント、自分が情けない。別に、そんなつもりはなかったのだ。
「ほんと、バカ、」




