第5話 円環、魔法、そして
「ちょっと、魔法を見せてよ」
ここは街の外れ。
冒険者教室でひと通りのことを学んだ私たちは、もういいんじゃないか、そこからは自己流でいいや、と決して良い決断とは言えないが、二人別々で練習をするのに耐えられなかったので、そういって一旦教室には行かないことにしたのだ。
まあ、そんな自分勝手な私たちにもエヴァンズは「まあ、いいけど勝手に冒険に出かけるのはまだ駄目だぞ」と言ってくるだけで、特に止められたりすることはなかった。
「じゃあ、ちょっと待ってて、」
そして、無事魔法の才能ありと認められた私は魔法使いとなった(まだ正式とは言えないが)のだ。
教室で、あのお姉さんに教わったのだが、魔法というものは円環であると。まあ、私もよくはわかってないが、つまりぐるぐる回っているということらしい。
色々な魔法があり、それらはぐるぐると回っているから、同じ技を二度連続で使うことは出来ない。らしい。
そんな不便なものが魔法だというのか、と思ったが、仕方がない。
それに、魔力の流れ、みたいなのも円環になっているらしく、攻撃をするときは、自分と相手を繋ぐ大きな円があると思い、杖を向けることでその敵に自分の魔力をそのまま流し込むイメージをしろ、と言われたのだ。
まあ、私に才能があった、ということは、そういうのが得意だったということだ。
まあ、深く考えようが考えまいが、そういうことなのだろう。
「フレイ!」
私はカイトの前で、魔法を見せた。
私が杖を向けた先にあった草が燃え始めたので、すぐに「アクア」と呪文を唱えて、消火した。
「なんか、前より強くなってるんじゃない?」
「それ、本当に言ってるの?」
まあ、内心はすごい嬉しいのだけれども、素直に認めるのは照れくさいので、そう言ってみた。
「早く冒険行きたいよね〜」
カイトは、いつもそんなことを言う。
「大丈夫!私が連れてってあげるよ、」
魔法使いの才能がある、と言われたからなのか、私には「どうせできるだろう」という根拠の無い自信があった。
「俺だって負けないよ、」
そう言って、カイトは素振りを始めた。
彼は彼で、エヴァンズに一旦休むことを伝えに行くときに、「もしかしてキミの両親は冒険者かい?」と聞かれ、「はい、そうです」とカイトが答えると、エヴァンズは「俺、知り合いなんだよ。なんか聞いたことある名前だし、どうもキミ才能あるなって思ったんだよね」と言われていたのだ。
だから、きっと、私たちは優秀な冒険者になるはずだ。
そう、確信していた。
でも、たまたま隣同士だった私たちがこんなことになるなんて、偶然なのかな、と思うことはある。
「あのさ、私たち、才能もあってさ、偶然とは思えないよね」
なんとなく、私はカイトに尋ねた。
「別に、そういうこともあるんじゃない?」
それはそうなんだけど、でも、もっと記憶の外というか、
まあ、上手く説明出来ないのだ。
魔法だって、よくわからずに使っているし、まあそこのところは仕方ない、というかわかるけど説明は苦手、ということなのだろう。
「ちょっと戦ってみない?」
カイトが剣を振るのを止め、私にそう言ってきた。
「多分、普通に死ぬよ?大丈夫?」
冗談ではない。だって、魔法を避ける術なんてものはないのだから。
「その、カイトはわかってないと思うけど、魔法っていうのは飛んでくるんじゃなくて、私が「フレイ」って言えば燃えるの。「アクア」って言えば濡れて、「ウィンド」って言えば吹っ飛ぶの。だから、どうにもできないよ」
自分でも、仕組みはわかっていない。
ただ、相手が地面にくっついていないと通じないらしい。
そこは、かなりの難点だとは思うが、基本は空を飛んでいる敵なんてものはいないに等しいのだから、別に問題は無いだろう。
「でもさ、ちょっと使ってみてよ、」
カイトは、魔法に興味津々のようだ。
「あの、本当に死ぬよ?やばいよ」
「じゃあ、手加減はできないの?」
まあ、できなくないこともないけど、かなり高度な技術というか、気持ち程度の手加減しかできない仕組みになっているのだ。
「・・・いや、駄目だよ。危ないよ」
すると、カイトがニヤリとして「本当はできないんじゃないの?」と言ってきた。
「いや、できるもん!!」
といって、私はカイトに杖を構えた。
いやしかし、魔法を使うわけにはいかない。
魔獣には、火が効きにくいとか相性というものがあるけど、カイトに使えば「アクア」「ロック」以外はほぼ必殺となるだろう。
ていうか、アクアがいらなすぎる。これを六つの属性のある魔法のローテーションの中に組み込まなければいけないのは、苦痛でしかない。
まあ、上手く使えれば口の中に水を入れるとかもできるらしいけど、今のところ相手をビチョビチョにするというただの嫌がらせ魔法だ。
「来い!!いつでもいいぞ!!」
カイトが剣をおいて、手を広げている。
私はため息を吐き、「死んでも知らないからね!」とだけ言った。
アクアを使ったから、次はウィンドだ。
「行くよ!私、言ったからね!!知らないからね!!」
私は、まあどうにかなるだろう、と思っていた。
「ウィンド!」
と私が言ったときには、カイトは近くの木の幹に激突し、うなだれていた。
「ちょっと、大丈夫!」
そんなことを言ったはいいけど、私は、手が震え、足も震えて動くことが出来なかった。
あれ、なんか前にもこんなことがあったのかな。
私は、その場に座り込んだ。
「痛っ、・・・・・え、あれ?どうしたの?」
カイトの声だ。
あれ、なんだ。
「え、ちょっと待って、ごめん俺助けてほしいんだけど、その、痛くて、・・・・・え、どうしたの?」
彼の姿ははっきりと見えている。
彼は、背中をさすりながら立ち上がった。
ああ、良かった。
でも、なぜか私の方は、力を入れようと思ってもなかなか動かない。
「ちょっと、ルナ!!」
カイトが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
ああ、なんだろう、これ。
「その、ごめん、本当に、いや、俺元気ピンピンだからさ、大丈夫だって、ごめん!」
「いや、・・・その、」
なぜだか、悲しくてたまらなかった。何度泣いたって、この気持ちは収まらないと思った。
デジャヴだ。
どこかで、知っている感覚だった。
「ごめん!!無理してやらせた俺が悪かったよ。俺、大丈夫だからさ、」
私は彼の手を握った。
『魔法は、円環だ。ぐるぐると回り続けている。相手とは、円環によってつながっているんだ』
教室で習ったことだ。
お姉さんの声だ。
今はそれが、頭の中でぐるぐると回り続けている。




