第4話 少年と少女
あれから三年ほど経ち、私たちももう一〇歳になった。
今まで、一の位にしか数字が入らない年齢だったもので、一〇歳となると、一気に大人になったような感覚になるのだ。
「ここが、冒険者教室なの?」
私とカイトは、毎日、というわけではないが、私が両親に「手伝って」と言われる時以外は、基本ずっと一緒に遊ぶことになった。
別に、私の両親は私が手伝おうが手伝わまいがどちらでもいい人達なのだ。まあ、それが冷めているとかそういうのではなく、私に関心があるとしても、育児には関心が無いわけだ。
同じく、パン作りも仕事として割り切ってやっているだけで、さほど関心が無いのだ。
そういう両親だ。
別に、私もそれでいいと思っているし。
「そうだよ。・・・俺準備してるから、先に入ってよ、」
カイトは、かなり緊張している面持ちだった。
「いや、一緒に入ろうよ」
かくいう私も、まったく緊張していないわけではなかったので、できれば二人同時に入りたい、と思っていたのだ。
冒険者教室なるものを知ったのは、つい最近の話だ。
カイトも、将来の目標に向けて、というか、冒険者になるために色々と考えた結果、ここに通うことを思いついたそうだ。
私も、小さい頃は「パン屋を継ぐ」と、夢中になっていたが、今ではそれほど関心が無くなってしまったものだ。
それなら、私もせっかくだし行ってみよう、と思って、今はそこの前に二人で立っている。
この世界には、魔王なるものがいるらしい。
そして、それを倒すとものすごい量の賞金がもらえるそうだ。
なんか、変な気がするのだが、そういうものらしい。
だって、そんなものは街の人達が集まってが頑張って倒せばいいじゃないか、と思うのだ。
この街に住んでいて、魔王の影響を感じたことは、一度もない。
魔王が一体なんなんだ、という疑問もあるが、別に魔王対峙だけが冒険者の本業ではない。
狩りをしたり、人間に危害を加える魔獣を倒すのもれっきとして冒険者の仕事だ。
私の両親は、「ろくでもないやつ」だとか「楽して稼いでるゴミカスウンコ野郎」だなんて言っていたが、お隣のギルドの中に入らせてもらったときも、あまりそんなことは感じなかった。
ちゃんと、鍛え抜いた心と体で勇敢に魔獣に立ち向かっていくのが、冒険者という職業だ。
その、馬鹿騒ぎさえやめてもらえれば、なんの欠点もない人たちじゃないか、と思ったのだ。
もちろん、中には乱暴な人がいるのも承知の上で、だが。
「じゃあさ、せーので開けようよ」
「そ、そんな子供じゃないでしょ、」
そう言ってみたはいいが、実際は多少恥ずかしくても、一緒に開けたいと思っていた。
緊張して、手汗がダラダラと垂れてきている。
「じゃあ、行くよ、」
冒険者教室なるものは、街の外れの方にある。
木造の建物は、遠くからでないと全貌を把握できないくらいの大きさで、木造の建物の中からは、すでに子供の声が聞こえてきている。
私とカイトは目を見合わせて、扉をガラガラ、と開けた。
すると、こちらに気がついたのか、白髪だが毛量はしっかりとある体の大きな老人がこちらに歩いてきて、「何か用かい?」と、こちらを見下ろしてきた。
「あ、あの、俺達教室で教わりたくて、」
カイトの足はガクガクと震えていた。
まあ、私も同じようなものだけど。
「ああ、そうかい。いいよ、中に入って。あ、靴脱いでね」
厳しい人じゃなくてよかった、と安堵しながら、私たちは教室の中に入った。
中に入ってみて、改めて広いな、と思わされた。
奥行きがとにかくあって、木で出来た床の上で、何人もの子供が剣やら弓やらの練習をしていた。
おそらく、場所ごとに職業が分かれているのだろう。
一番手前では、剣を振っている人がいて、その奥に弓、とその奥はわからないが、もう二、三種類程職業がいそうだった。
「じゃあさ、名前と年齢だけ教えてよ」
「あ、えっと、」
私はカイトが言い淀んでいる、というか、緊張で上手く言えないのを見て、
「ここは大人であるところを見せつけよう」と思ったので、「私はルナ・クミアで、こっちがカイト・ラファエルです」と紹介した。
「あ、えっと、俺達一〇歳です」
カイトに、最後のセリフを奪われてしまった。
「なるほどな。俺はエヴァンズだ。よろしくな」
私たちは「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「その、やりたい職業とかあるのかい?」
「あ、俺戦士がやりたいです」
「私は、彼のサポートできる職業がいいです」
エヴァンズは「へ〜、なるほどね」と言いながら私たちを見て、「えっと、ルナちゃんも本当に冒険者になりたいの?」と聞いてきた。
そして「あ、カイトくんだっけ?おい、ちょっと!」と声を上げると、手前の方で子どもたちの様子を見守っていた、ガタイの良い男がこちらに来た。
「この子戦士になりたいっていうから、面倒見てあげてよ」
と言った。そして、カイトはすぐにその男に連れられていってしまった。
「で、ルナちゃん、ちょっといいかい?」
取り残された私は、エヴァンズの方を見る。彼は、私の背丈の二倍くらいはある大男だ。
そして、彼が私の前に座り、目線を合わせてくる。
「あのさ、本当に冒険者になりたいの?その、カイトくんだっけ?彼を助けたいだけなら、あまりおすすめはしないんだけど、というか、やめてもらうよ。命の危険が伴う職業だからね」
ああ、そういうことか。
それなら、大丈夫だ、というか、私は目的のためには手段を選ばないので。
「なりたいんです!!本当に、憧れてて、前、魔獣に襲われて危なかったところを冒険者の方に助けてもらったんですよ、」
もちろん、そんな経験はないが、さっきまでの緊張が嘘だったかのように私は目を輝かせながら、エヴァンズの方を見て、そう言ったのだ。
「あ、そうなのかい?まあ、でも、ここはあくまで教室だし、まあ子供を危険な目に合わせるわけにも行かないからね。向いてないと思ったら、いつでもやめて大丈夫だから」
それは、私を安心させるためなのか、それともあとで自分を悲しませないための文句なのかはわからないが、でも、ここで学ぶことができればそれで十分だ。
「じゃあ、サポート職なら、魔法使いとかかな、」
そういって、私はエヴァンズから杖のようなものを渡された。
魔法なんて、本当にまったく馴染みの無いものだ。
「ただまあ、魔法を使うにはかなりの才能が必要だから、そこは様子を見て変更になるけど、まあ、とりあえず、その、」
と言ってニヤニヤしながら、「さっきの男の子とが気になってるんじゃないの?」とこちらを見てきた。
「・・・別に、違いますよ、」
それでも、ジロジロと見てくる。
「まあ、いいや。じゃあ、一番奥に行ってくれ。そこに、先生がいるから、そいつに話しかけてこい」
そう言って、エヴァンズも自分の仕事に戻っていった。
一番奥か。
私は、途中でさっそく剣の持ち方なんかを指導されているカイトを横目に、奥へと向かった。
先程は遠くて見えなかったが、剣、弓、あと私がもらったものとはまた違う杖を持った人たちと、盾なんかを持って筋トレをしている人たちがいて、一番奥に、私と同じ杖を持っている人たちがなにか呪文を唱える練習をしていた。
それにしても、本当に広いな。端まで行くのに、まあまあ時間を費やしたぞ。
「あら、新しい子なの?名前を教えて」
隅っこで腕を組んで様子を見守っていた、胸の大きな女性が、私に話しかけてきた。
それにしても、見たことがない露出度の高さだ。
パンツも、足の根元までしか隠れていないので尻の下の方は少し出ている。上も、胸のところがかくれているくらいで、谷間は完全に見えているし、ヘソの周囲も完全に出ていた。
あんなものを着ていたら、毎日のようにお腹を壊しそうだな、と思った。
「あ、私ルナって言います。よ、よろしくお願いします」
「じゃあ、さっそく練習じゃなくて、まずは才能があるかどうか見極めましょう」
私がよろしくお願いします、と下げた頭が上る前に、彼女は喋りだした。
それにしても、綺麗なお姉さんだな。
「じゃあ、その杖を持って、」
私は杖を強く握る。
ここからでは、カイトの様子が見えない。
彼の夢を叶えるためにも、きっと、私は強くならなければいけないのだ。
「練習すれば、強くなれるんですか?」
私は、前を向いたまま、後ろにいるお姉さんに尋ねた。
しかし、他の職業にはそれぞれ練習している生徒のような人がいたが、ここには誰も見当たらない。
「まあ、まずは才能だよね」
そして、私の肩に手を置いて、「努力はそこからだね」と言った。
もう一度、ぎゅっと私は杖を握る手に力を込めた。




