第31話 運命の廻り道
「いや〜、でかいね」
洞窟を歩いて行き着いた先には、私たちの身長の二倍ほどはある荘厳な金属の扉があり、その横には獅子のような石像が一対置かれていた。
まあ、宗教的に意味のある大事な場所なのだろう。
この中に、魔王がいるのか。
私たちがここにいると知りながら、上では瓦礫の撤去を行っている魔王軍がいるのが、なんとも不思議でならないし、私たちの緊張感を大きく削る要因の一つとして大きく働きかけているが、ここからは絶対に気を抜いてはいけないのだ。
魔王の強さは未知数だ。
幹部は以前戦ってわかったが、かなり強いのだ。
「この扉、普通に開けて大丈夫なのかな?」
おそらくは、ここは信仰の場所だから、罠なんてものは不要なのだろうなと思うが、またもや、だからといって油断してはならない。
「私に任せてよ」
つくづく思うが、魔力の正体ってなんなんだろうな、と思う。
魔力切れといったものは、聞いたことがない。練習で何百発撃っても疲れるだけで、魔法が使えなくなるなんてことはなかったからな。
海斗は、少し不本意そうな顔で、「そんなに頼んじゃっていいの?」と言ってきた。
私は、なんにも問題ない。
海斗のためにできるなら、本望だ。
「大丈夫だよ、まかせて!」
私はそう言ってから、自分の胸をポンと叩いた。
えっと、さっきウィンドまで使ったから、・・・扉を壊せるのはウィンドくらいか。
いや、この扉の隙間にロックで小石を発生させればその小石の発生する圧力で開くか。
「じゃあ、ちょっと扉から離れてて」
直接魔力を流し込むのと遠くから杖で魔力を接続させるのでは、やはり威力が段違いだ。
ロックの場合、発生する量が変わってくる。直接流し込むということは、小さな円で対象とつながるということ。小さな円が何度も回って魔力が流れ続けるということだ。
三人が少し扉から距離を取る。
「ロック!!」
パチパチパチパチ
ガリガリガリガリ
隙間からどんどん小石が溢れ出てくる。
小石の圧力で、扉を固定していた蝶番のようなものが破裂したのだろう。
扉の向こう側からパリンッという音が聞こえ、扉はゆっくりと横に倒れた。
部屋の奥には何か祭壇のようなものがあり、壁には大きな絵が描かれてあったが、詳しい内容はよくわからなかった。そして、その祭壇の真ん前に座っている男が見える。その男がこちらと目が合う。
黒いローブを着ていて、シルエットしかわからない。
「行くぞ!」
そういって、海斗とフィンが飛び出す。
「海斗!!奥!!」
なにやら、祭壇に座っている男のさらに奥に人影が動いているのが見えたような気がして、私は叫んだ。
「行かせんよ」
そういって、祭壇に座っていた男が杖を取り出して「フレイ!」と呪文を唱えた。
魔法使いが身につけるローブのようなものを着ている男が、フィンと海斗の二人と奥の人影との間に割って入った。
もしかすると、あの人影が魔王なのか?
「どうせ、金のために来たんだろ?じゃあ、とっとと帰れ!!」
そういってから、おそらく幹部と思われる魔法使いが杖を振り回す。
すると、私の横にいたアッシュくんが私に「さっき逃げた人を追った方がいいんじゃないんですか?」と背伸びして私に耳打ちした。
確かに、ここで逃げられたらまずいかもしれない。
私は駆け出す。
そして、海斗もその男に斬りかかる。
男も、どうやら剣を使うみたいだ。ローブを隠れ蓑に使いながら、不規則な剣戟が海斗を襲っている。が、こちらには四人もいるのだ。
油断さえなければ、勝てる。
男はぐるりと状況を確認してから、フィンに蹴りを入れた。フィンはかろうじて腕で防いだが、その勢いを殺せずに壁に激突する。
私は男との距離を詰める。しかし、男が海斗にも斬りかかる。
私は杖を高く掲げた。
「サンダー!!」
魔法が命中し、男の動きが一瞬止まる。かなり驚いているようだった。そりゃ、海斗を盾にしているから魔法は撃てないと思っていたのだろう。
存分に、発揮させてもらおう。
海斗が男の首に剣を突き刺そうとするが、なんとか上体を反らして男がそれを避ける。
「エンデュルカム!!」
先程の私の魔法を喰らって男は学んだようで、一歩下がって魔法を避けた。
私の新しい魔法は、一度見せれば次からは避けられてしまうのが、最大の弱点だな。
「フレイ!!」
その隙を狙ってアッシュくんも魔法を放つが、アッシュくんの魔法はまだ既存のものだ。剣で男に防がれてしまった。
しかし、一気に四人からの攻撃を受けて、男は防戦一方となっている。
男はぐるりと場所を変えながら、なんとか背後に壁がこないように立ち回っている。
「おい、アッシュ!!」
フィンが男に斬りかかりながら叫ぶ。
アッシュくんは肩をビクッと震わせてから「はい」と返事をする。
「こいつは、俺とアッシュで十分だよな!」
「フレイ!!」
今度は私が魔法を撃つ。男はとっさにローブを脱ぎ捨てて、燃えるのを防いだ。
「いけます!!先生とカイトさんは、先に行っててください!!」
アッシュくんが、こちらに走ってくる。私が彼の方を向くと、彼は「先に行ってください」と言ってから、私の方を見てコクンと頷いた。
「おい、カイトっ、二人で魔王のところに行ってこい!!こいつじゃなさそうだ!!」
フィンは剣を振り回しながらそういう。キンキンと剣の交わる音が鳴り響く。地下なので、その音が逃げ場無くこちらに戻ってくる。
「ルナ!」
私はアッシュくんの方を見る。そして、「頼んだよ!!」と言って、海斗と一緒に魔王を追うことにした。
「クソッ、おい待てっ!!」
先程まででずいぶん消耗したのだろう。幹部は、こちらの足止めをする余裕などないそうだ。その隙に、アッシュくんが幹部に向かって魔法を放った。
それを確認してから、私は海斗の隣を走る。
「あのさ、」
先程魔王と思われる人影が出ていった方向だ。先程の部屋にはどうやら違う入口があったらしく、こちらにも同じように長い廊下が続いている。
全力で走れば、きっと追いつけるだろう。
「海斗と私って、どこで初めて出会ったんだっけ?」
まっすぐ前を見たまま走る。
すると、速度に乗って「家が隣だったじゃん」と返事が返ってきた。
海斗は、まだ気がついていないのか。
でも、それを思い出したらまた彼に気を使わせてしまうかもしれない。
このままでいいのだ。
「急にどうしたの?」
私は前を向いたまま「なんでもないよ」と言った。
廊下は一本道だが、果てが見えない。微妙なアップダウンはあるものの、概ねまっすぐな道だ。
きっと、入口が見つからなかったのも、これがあったからだろうか。なかなかあの頑丈そうな石壁を破壊する術はないからな。
タタタタという私たちの足音が、洞窟内で反響し、どんどんと重なっていく。
廊下にはランタンが等間隔で置かれていてかなり明るいのだが、それでも少しずつより明るくなってきているように感じる。
「あの白いのが、出口か?」
遠くに見える白いものは、きっと日の光だろう。
「急ごう!」
私たちはその光に向かって走った。




