第30話 私の魔法
城の中は薄気味悪く、しかしカラッとしていた。
嫌な湿り気はない。
窓がないのでかなり暗く、廊下全体に敷かれている赤い絨毯の感触がどうも気持ち悪く感じる。
扉があったら、とりあえず片っ端から開けて中を調べるようにしていた。
「なんだこれって、重っ!!」
そういってフィンが握ったのはどこか見覚えのある物だった。
銃?
なんで、異世界にそんなものがあるんだ。
「これ知ってるか?なんか、かちゃかちゃ言うな」
「おい、危ないかもしれないだろ?あんまイジるなよ」
そういって、海斗はフィンの手から銃を取り上げて自分でカチャカチャとイジっていた。
ほんと、男子って困るよね。それにしても、何かの実験を行っている場所のようだ。
石のレンガに囲まれたこの部屋は先程の私の魔法でだいぶ崩れているが、何やら前世でも見たことのあるような実験器具が一式ずらりと並んでいた。
とりあえず、今は魔王を逃さないのが先ということで私たちは次々に扉を開けた。
しかし、それ以外の部屋は空っぽもしくは食料が保管されていたであろう部屋、とそんなもんだ。
「これ、こんなところに建っている意味があるのか?」
半壊したピラミッドの中には、人が全然いなかった。先程外に出てきた彼らで全員、ということなのだろうか?
まあ、瓦礫の下敷きになった人も結構いるにしても、それにしても少ない気がする。
「あのさ、なんか地下室があったりするんじゃない?」
私はなんとなく、そんなことを言ってみた。
「まあ、そっちの方が安全だろうしそうなってるのかもしれないけど、どうやって探すかだよな」
そうだな、と思ったところでアッシュくんが「外で作業してる人たちに聞いたらどうですか?」と意見を述べた。
「まあ、そうするしかないか。でも、この前の幹部には嘘つかれたもんな、」
私も、「相手に安息を与える」というこの魔法の性質はいまいち理解しきれていない。安心は与えられても、正直にはしてくれないのだ。もちろん、安心したら急に正直になる人もいるでしょうけど。
しかしまあ、二〇人もいれば、誰かしら私たちに心を開いてくれる人もいるんじゃないだろうか。
「まあ、このまま探してても仕方ないし、敵も集まってきちゃうかもしれないから、やってみようよ」
ということで、入口まで戻り、彼らから情報を収集することになった。
先程まで覆面を被っていた男に声をかけた。
作業も彼が先導しているようなので、リーダーであるのは間違いないだろう。それにしても、四〇代くらいだろうか?この世界の四〇代にしては、かなり若々しいな。刈り上げた髪が、元気さを象徴している。目つきも鋭くはあるが、威圧感というよりも頼りがいがある、という雰囲気の方が強い。
結構ガタイもいいので、普通に戦っていたらまあまあの強敵だっただろう。
「あの、魔王様ってどこにいるんですかね?」
「ああ、魔王様は地下にいるんだ」
予測が当たっていたことも驚きではあるのだが、それにしても、さっきまで戦っていた敵とこんな普通に会話できるなんて、やっぱり魔法はすごいよな、と思った。
「その、地下室への入口みたいなのってどこにあるんですかね?」
「それは、さすがに言うなって言われてるんだよな〜」
そういいながら、一度しゃがんで三〇キログラムはありそうな瓦礫を両手で拾って、遠くへ投げた。
「でもまあ、・・・奥の方に部屋があるんだよ。その後は、自分たちで探してくれ」
おじさん、ありがとう。
めちゃくちゃ助かります!!
「そうなんですね、ありがとうございます」
私は彼に頭を下げた。
そして、他の三人に先程聞いた話をそのまま伝えた。
「それなら、すぐですよね」
そういうわけで、早速私たちは城の奥の方にある部屋へ向かった。
城の奥の廊下には扉が三つ並んでいた。
木の、高級そうな木材でツルツルに磨かれた扉だ。三つとも、ほぼ区別つかないほどそっくりだ。
「まあ、端から行くか、」
というわけで、私たちは一番手前にあった扉を開けた。
「あ〜、普通の部屋だけどな、まあ隅から隅まで探すか」
フィンがそういって部屋の中に入った。
部屋の中には、大量の本が置かれていた。部屋中本だらけで、他のものは真ん中に大きな丸い机があるくらいだ。
四人で入ると、真ん中に置かれている机がかなり邪魔になって狭い。
その中には、見たことのない言語のものも沢山あった。パラパラとめくってみたが、なんと書いてあるのかわからない。
書斎というか、書庫なのだろうか?
「あのさ、海斗はこれ読めるの?」
そういえば、初めてギルドに行ったときに私の名前を書いてくれたのは海斗だったな、と思い出した。私はなんとなく手に取った本を海斗に渡した。
「いや〜、わかんないわ。これ、なんなんだろう?」
「まあ、何にもなさそうだしさ、次のところ行こうぜ」
アッシュくんは興味深そうに本を見ていたが、他の男子二人はこんなものには興味なさそうだった。
まあ、確かに時間が最優先だよな、なんて思って私たちも外に出ようと思っていたら突然、扉に一番近い位置にいたフィンが「痛えっ」と叫んだ。そして、そのまま尻もちをつく。
すぐに杖を構えた。
彼は右肩を押さえていた。
扉に一番近いところに海斗、そしてアッシュくん、私の順番に並んでいる。
「フレイ!!」
扉を燃やした。よくみると、扉から剣のようなものが突き出ていた。
「一回下がって!」
海斗が大きな声で言った。
そして、アッシュくんがフィンに回復の魔法をかける。
出血が止まり、傷が塞がる。
「ありがと、ボコボコにしてやるよ!」
そう意気込んでフィンが腕をぐるぐると回している。魔法で治したからといって、そんなにすぐには動かさないでもらいたいのだが、まあ仕方ない。
そして、海斗が燃える扉を思い切り蹴り飛ばし、部屋の外に出る。
「敵に囲まれてる!」
海斗が端的に情報をこちらに伝えた。
フィンが「ヒャッハー!」と言って、部屋から飛び出していった。
「おい!くそっ、行くぞ!」
フィンふぁ勝手に出ていってしまったので、海斗がそういって剣を鞘から抜いて、構える。
ほんと、しっかりしてほしいものだ。フィンは一応最年長なのだがな。
まあ、仕方ない。どちらにせよ、これを突破しなければいけないのだ。
「アッシュくんは、回復を頼むよ」
私は前にいたアッシュくんの肩を掴み、前に出る。
教わった魔法というのは、あくまで多対一の場合は奥に引っ込んでサポートに回る技なのだ。
しかし、昨日(めちゃくちゃ頑張って)考えた私の魔法というのは、そのようなものではない。
私は扉の前で剣を構えていた海斗と背中を合わせる。
「・・・そんな、無理しなくてもいいんだぞ」
「大丈夫よ」
私はしっかりと海斗と背中をくっつけた。
四方を敵に囲まれている。
まあ、フィンがその中で奇声を発しながら暴れているのを除けば。
敵は、暗いのであまりはっきりと見えないが、先程と同程度だろう。
「アクア!」
それにしても、ほんと不便だ。
特に意味のない魔法を敵一人に放った。
それを起点にして、海斗の背中が私から離れる。
「おらおら!!死ね死ねっ!!」
フィンは薄暗闇の中で暴れまわっている。
大丈夫なのかな?
まあ、心配している暇はない。
私は杖を高く掲げる。それを見て、敵がこちらに飛びかかってくるが、もう遅いのだ。魔法使いに先手を取られた時点で負けなんだ。
「ウィンド!!」
一瞬にして、私の前方にいた敵全員が吹き飛んだ。彼らは壁にぶつかり、ぐったりとしている。当分起きないだろう。
私は後ろを振り返る。
すると、そちらもすでに片付いていたようだった。
「あれ、早いね」
海斗が顔についた返り血を指で拭いながら振り返り、「そっちこそ」と言った。
「おらあ!バカどもが!死ね!」
まあ、彼のことは気にしないでおこう。
「すぐ行こう!」
そういって、海斗が次の部屋の扉を開けた。
私たちが遅れてその部屋に入ると、まあこんな簡単に見つかるのか、と率直に思ったが、地下へとつながる階段のようなものがあった。
石で作られた、冷たい階段だ。
「今度は慎重に行こうな」
そういって、またもや海斗を先頭にして、私たちは階段を下っていった。
階段は灰色の石の階段で、人為的なものだったのだが、地下の通路は洞窟をそのまま使いまわしてあるようで、丸くてジメジメとして空洞が遠くまで続いていることが確認できた。
地上の建物にはほとんど明かりなんてなかったくせに、地下には数メートルおきにランタンが置かれているので、先まで見通すことができる。
天然の石壁はゴツゴツとしており、地下特有の冷たさもあってか、なんだか攻撃的なように思える。
私たちはゆっくりと魔王のいるであろう場所に向かって歩いた。
「敵にバレてるかもしれないし、・・・急ぐか」
まあ、そうだな、と思ったので、多少罠があろうともそんなものは無視して、私たちはまっすぐと走った。




