第29話 幾重の円環
(昨日)
夜、テントで布団に身をくるめて、体を丸めながら私は考えた。
教室で教わってきた魔法というものは、どうやら電気回路と似ていると思ったのだ。
しかし、地面を伝って相手とは魔法で常につながっていると教わったが、それはどうなのだろうか?魔法が電気のようなものならば杖を構えただけでも魔法が発動するのではないだろうか。なぜ、声がスイッチとなって魔法が発動するのだろうか。なぜ、発声によって魔法の種類が変わるのだろうか。なぜ、守らなければいけない順番があるのだろうか。
それに、円環や繋がりがモチーフとなっているなら、実は違う使い方があるのではないだろうか、と思った。
具体的な時間はわからないが、何回も体勢を変えながら考えて、私は一つの仮説を出した。
おそらく、相手との繋がりというものが大事なのだ。
今まで教わった魔法というものは、無自覚的な繋がりだった。
しかし、そんなことはないのだろう。
認識して、初めて繋がりができるのだ。
だからこそ、杖を向けたりする動作に意味があるし、声を出すことにも意味がある。
おそらく、相手との円環という名の繋がりを阻むものというものは、自分自身の認識の問題だ。
本来、魔法はもっと不可避なものなのだろう。
そして、魔法の性質において、相手に長時間魔力を流し続ける必要はほぼないのだ。
フレイを使えば、勝手に燃え続ける。アクアやロックは攻撃の魔法としては論外だが魔力を流し続けてもちょろちょろと水が出たり、砂利がザラザラとこぼれ落ちてくるだけだ。
ウィンドに関しては、一瞬で遠くまで飛ばされてしまうのだから、こちらに関しては長時間流し続けることは不可能だ。
エンデュルカムも、あまり意味はない。
サンダーだけは、長時間流す必要があるだろう。
つまり、本来魔法において一番大事なことって、相手とどのようにつながるか、どのような円環でつながるか、なのだ。
魔法の性質というのは、「円環」という一つしかなく、それ以外はもっと自由なのではないだろうか。
この唯一不変のルールだけが、私たちが守るべきものなのだ。
私は立ち上がり、杖を持って外に出た。
そして、試しに近くの小石に魔法を放つことにした。
小石を軽く放り投げ、そしてその浮いているものに魔法を放つ。
「フレイ!」
すると、小石がボッと音を立てて紅く光った。
私はその小石に「アクア、ウィンド、・・・」と魔法を連続で唱えて、一周させる。
今度は、もう少し遠くに投げた石にしよう。
私は少し大きめの石をヒョイ、と遠くへ放り投げ、「フレイ」と杖を向けた。
すると、先程と同じように遠くにあった小石が紅く光った。
私は急いでその光に駆け寄って「アクア」と呪文を唱えた。
もう少し試してみよう。
ウィンドの呪文をその石に撃って適当なところに飛ばし、今度は木に向かってロックを唱えてみよう。
私は一旦横から森に立ち並ぶ木を確認して、一つ、魔力を流す木を決める。そして、今度はその木が見えない位置に立つ。
そして、その対象の木が見えない位置から「ロック!」と呪文を唱えた。
もちろん、このとき私はその対象にしたこの場所からは見えない木のことをイメージした。
すると、少し奥の方でガラガラとなにかが転がり落ちてくる音が聞こえてきた。
私が音のする方に向かうと、木の上から砂利やら小石がゴロゴロと降ってきていた。
私は、小さくガッツポーズをした。
これがきっと、私の魔法なのだ。
(現在)
私は杖を片手に森を駆け抜ける。その少し前に、アッシュくんも同じように走っている。
海斗とフィンを相手にしていた敵の注意が、こちらにも向く。
このときの私には、「失敗したらどうしよう」なんて考えはこれっぽっちもなかった。
この私の魔法で、海斗の役に立つのだ。
「おい、こっちにもいるぞ!!」
周りには瓦礫がゴロゴロと転がっているが、大した問題ではない。
敵の男の一人と目が合う。
私は黙って杖を構える。
後ろから気配を感じたので、私はフッと後ろを向き、一歩下がって攻撃を避ける。
すると、その隙を逃すまいと先程私と目が合った敵が攻撃してくることは予想していたので、私は杖を上に掲げて、右足を軸にその場でくるりと回りながら、「サンダー!!」と叫んだ。
すると、魔法を喰らった敵二人がその場に数秒立ち尽くしたあと、膝から崩れ落ちていった。
「やった!!」
ある程度の確信は持っていたが、実際にうまくいくと嬉しいものだ。
私と敵とを繋ぐ円の直径をイメージして変えることで、回りながら敵が円周上に来るようにイメージをして、同時に敵二人に攻撃したのだ。
アッシュくんは、私が教えた通り、スナイパーのように魔法を撃っては場所を移動して、敵を上手く撹乱することができている。
なるべく、第一陣を早めに撃退したい。
私は前衛の二人がいるところへと向かう。
敵は残り二〇人程だろうか。二人だけだと、かなり厳しいだろう。
二人は切り合いに持ち込まずに、切りかかってきた敵を遠くに吹き飛ばしているので、体力の消耗も激しいはずだ。
「魔法頼む!!」
海斗の声だ。
私は走りながら視界を整理する。
二人が敵が固まらないように戦っているので、かなりまばらだ。
海斗に張り付いている敵が四人程、フィンの方には五人程が張り付いており、その他は一一名は吹き飛ばされた場所でまだ倒れているか、一度吹き飛ばされてから回復し、仲間の加勢に向かおうとしている。
そして、リーダーだと思われる覆面の男は、木の陰に隠れておそらくアッシュくんを狙いに行っている。
しっかりと頭の中でイメージをする。
すると、吹き飛ばされていた敵の一人がこちらに向かってきた。
そして、剣をまっすぐ振り下ろしてきたので、私はそれを杖で受け止め、そして男のみぞおちに膝蹴りを入れた。
そして、私は男を踏みつけるように倒して、そしてそれを踏み台にして走りながら大きめの瓦礫の上に乗った。
そして、そのまま走りながらジャンプし、空中でなんとかくるりと一回転しながら、「エンデュルカム!!」と叫ぶ。
その一瞬、私は敵も味方も、両方の視線を独り占めしていた。
「海斗!!」
私は空中でそう叫ぶ。
そして、海斗が剣を置いてこちらに手を広げて走ってくるので、海斗が宙に浮いていた私のことを腕で受け止めた。
私の魔法を喰らった敵は、皆剣を置いて、互いに世間話を始めていた。
エンデュルカムで、すっかり安心しきったのだろう。
ほんと、魔法って便利だなあ、と私は思った。
アッシュくんの方に向かっていた覆面の男も、自ら覆面を脱いで剣を置くと、終いには「瓦礫運び出すぞ!」と完全に戦闘を放棄しだした。
「これ、ルナがやったのか?」
私は彼の腕から下りて、そして、服の汚れをぱっぱと払ってからうん、と頷いた。
「いや〜、ナイスルナちゃん」
「さすが、先生です!」
他の二人もこちらに寄ってくる。
本当は、もっと褒めてほしかったし、こんなに体を張ったことを労ってほしかったけれども、今はそういうわけにもいかないので、キリッとした顔でみんなに「油断しちゃダメよ。海斗、中に進みましょう!」と声をかけた。
「一応さ、さっきの覆面の人にここが魔王の城なのか聞いておこうよ」
まあ、確かに大事かもしれない。
「いや、俺さっき壁の模様とか見たんだけどさ、」
フィンが口を挟んできて「あの模様は、俺の家にあったやつと一緒だ。ここは、魔王軍の根城で間違いないだろう」と、神妙な顔で言った。
「あの、回復いりますか?」
「いや、まだ大丈夫。ここからが本番だしな、」
そんな話をしている私たちの周りでは、せっせと先程戦っていた人たちが瓦礫を運んでいた。
しかし、そんな状況でありながらも、私たちの緊張は確実に高まっていた。
フィンは緊張を隠すかのように、カチカチと爪を叩いていた。アッシュくんと海斗は、ゴクリとなんどもつばを飲み込んでいた。
そして私は、しっかりと杖を握りしめていた。
もう、思い出したくもないあの日の感覚。
もう、二度と償うことはできないと思っていた。
今回は、私が彼を守るんだ。
それが、私の使命なのだ。
「後ろは頼む」
海斗が前を向いたまま言う。
彼には見えていないだろうけど、私は大きく頷いた。
そして、私たちは大きく崩れた魔王の城の中に足を踏み入れた。




