第28話 強攻、侵入
「これか、」
それは、森に入ったときはこんなものがあるとも思いもしないほど巨大な建造物だった。
しかし、こんなものを他の冒険者が見つけられないとは思えない。
海斗が空から見て発見したとはいえ、これはかなり目立つだろう。いや、そうでもないのだろうか。
ピラミッドの下半分、というとかなり正確に外見の描写ができているだろう。石で作られたピラミッドだ。
確かに、森を低い場所からただ見渡しながら歩いていたら、なかなか見つからなそうだな、とは思った。そもそも森の奥深くなのだから、迷ってしまう冒険者がいても不思議ではない。
先程のは訂正しよう。
石で作られた壁は、異質の空気を醸し出しており、木によって全貌は隠れているものの、ところどころにある禍々しい彫刻には、和彫りのようないやらしい威圧感があるが、派手さはない。
窓のようなものはほとんどなく、まだ正面から見ただけなのだが、入口らしき場所も見当たらない。
いくつかに分かれている階層のブロックのようなものが積み重なっている感じだ。
周りの木に埋もれるほどの大きさなので、高さはせいぜい二〇メートルくらいだろう。
ここに、魔王が住んでいるというのか。
「とりあえず、中に入れそうな場所を探すか」
「あのさ、普通見張りとかいるんじゃないのって思うんだけど、」
しかし、冒険といっても、今まで冒険らしい冒険をしてこなかったな、ということに今更ながら気がついた。
こんな、謎の建物の中を探索したり、魔物の潜む洞窟を探検したり、遺跡を調査したり、ということはまったくしてこなかった。
もちろん、緊張もある。一瞬が命取りになる、というドキドキもあるのだが、未知の場所にこっそりと侵入する、というワクワクも感じているのは、事実だ。
「もう一回、空飛ぶか?」
私はすぐに「それはダメ!」と反対意見を主張した。
「入口ないのか?でも、あったとしても、ここはちょっと回ったところから壁をぶっ壊して入るってのが一番いいんじゃないか?」
めずらしく、フィンがまともな助言をよこした。
いや、別に珍しいわけでもないか。
「ま、お二人さんももう心残りはないんでしょ?」
そういって、ニヤニヤとしだした。ついでに、彼から変なことを聞かされたのか、アッシュくんも口角が上がるのをこらえるように唇を噛んでいた。
「それは、これからのお楽しみって言われちゃったからな、」
私は海斗の腕をグーで殴り、「なに勝手に言ってんの!!」と耳打ちをしたが、もう無駄なようだ。
ほんと、恥ずかしい。
「でも、殴って壊れるかな?素手だと絶対に無理だと思うんだけど。壊せるような武器もないし」
今はおおよそ二時くらいだろうが、魔王の拠点の中で一日過ごすわけにもいかないのだ。
ここからは、時間との戦いにもなる。
まあ、魔王の城ではなかった、という場合もありえるが、それはそれでいいのだ。
魔王の城だった場合は、一日でケリを付けるしかない。
「そういえばさ、・・・せっかくだし私に秘策があるんだけど、」
私がそういうと、アッシュくんが「もしかして、あれですか?」と聞いてきた。
「そうよ。でも、結構派手に壊れるけれども、それでいいかな?」
というと、フィンが「まあ、大丈夫だろう。室内なんだから、一気に人が来ても戦いづらいだけだ。それなら、派手に壊して外に敵をおびき寄せるのがいい」と冷静な意見を述べた。
「じゃあ、」と言って海斗は私の目を真っ直ぐと見つめる。そして、「頼んだ!」とはっきりと言い放った。
私は、ドクンとゴールポストに当たって跳ね返ってきた心臓をいち早く受け止めて、「わかった」と強く返事をした。
彼のことは、異性としてあまり意識していなかったはずなのに、どうも胸がドキドキしてしまう。
ドキドキすると、ほんと、彼のために頑張りたいと強く思えるのだ。
「じゃあ、近くの木を切り倒してほしいの。できるだけ、大きいやつをお願い」
海斗とフィンが「任せろ」と言って立ち上がる。
アッシュは、「結構大きいと思いますけど、大丈夫ですか?」と聞いてくる。
彼の本職は、回復なのだからな。
「大丈夫。私たちは準備をしてましょう」
木の伐採が完了する。幹は直径二メートルくらいはあるのではないだろうか。
剣で少しずつ削って、あとは魔法で燃やしたり思い切り剣で切りつけたりして、ようやく木が倒れた。
彼らに伐採してもらった木の幹を、引っ張ってもらい、切り株の上に乗せる。
これで、即席の発射台だ。
それにしても、デカい木だ。高さも十メートルくらいはある。
まあ、地面に置いたままでもおそらくうまくいくとは思うが、失敗するわけにもいかないからな。
「ハア、ハア、ハア、これだけでいいの?」
「大丈夫!ありがとう、二人とも」
先程フレイとアクアを唱えたから、大丈夫だろう。
通常なら、木の幹を抱え込むように持ちたいのだが、太いのでそれはできない。
上手く魔力の回路を作るためには、相手と円になってつながることが大事なのだが、それでなくても魔力は普段から流れているのだ。
普段流れている魔力の行場を、こちらが作ることが大事なのだ。
私は、二人が伐採した木の年輪に両手をかざす。
「ウィンド!!!!!」
ドゴォォン・・ッ! バキバキバキッ!!ゴスッ・・ズドバァァンッ!!ドドォン! ザザザーーッ!!
耳をつんざくような轟音が辺りに鳴り響き、そして、魔王の根城と思われる石のピラミッドの上部がほぼ全壊する。
海斗とフィンはあんぐりと口を開けて立ち尽くしていた。事前に知っていたアッシュくんでさえ、目をパチクリとさせて驚いていた。
魔法によって、対象を直接飛ばしたのだ。
対象に制限はない。ただ、対象とつながってさえいればいいのだ。
海斗は、あんぐりとさせていた口を無理やり手で閉じて、そして、「じゃ、じゃあ行くか」と私たちに指示を出した。
「おいおい、これどうなってんだよ、」
元は立派なピラミッドだった瓦礫に近づくと、そんな声が聞こえてきた。
私たちは、一旦身を伏せる。
まだピラミッドまでは五〇メートル程距離がある。
遠くに見えるのはおそらく、魔王軍の人間と見て間違いないだろう。全員が同じ黒い服を着て、腰には剣が刺さっている。
私が飛ばした木は、丸々残っているのだ。
人為的なものであるとは、すぐに見抜かれるはずだ。まあ、信じられないとは思うが。
「おい、そこらへんを探して、怪しいやつをとっ捕まえろ!」
リーダー的存在の覆面を被った男がそういうと、周りにいる部下と思われる男たちが「はい」と返事をして、バラバラに散っていった。
「よしっ、というか、これで行くしかないな、」
私たちは顔を見合わせる。
こんな本格的な集団戦は、初めてだな。
「ルナ!」
カイトが突然そう小さな声で私の名前を歯切れ良く言った。
突然メンバーの前で名前を呼ばれたので、私はつい、「うおっ」とあまり可愛いとは言えない声を出してしまいそうになったが、それを押さえて、「・・・どうしたの?」と彼の顔を見た。
「・・・頼りにしてるよ。もちろん、他のみんなも、」
四人で、一斉に頷く。
わかってるよ。
私が、今度こそ、海斗を守るんだから!!
私たちは茂みからバッと一斉に飛び出す。
そして、前衛である海斗とフィンを先頭に、私とアッシュは木の影から彼らを支援できるように位置どる。
「おい、冒険者だ!!」
こちらに気がついた敵が、大声をあげる。
『とにかく、先手を取るんだ。魔法使いが勝つための条件の八割くらいは、先手を取れたかどうかなんだ』
「ロック!!」
私は杖を構えて敵の一人に魔法を放つ。
「え、うわっ、なんだこれは!!」
この魔法は、想像するとおぞましいものだ。
服の中からゴロゴロと小石や砂利が出てきたら、さぞ気持ち悪いだろう。まだ、泥に突っ込んで全身泥まみれになる方がマシだと思われる。
敵の一人が混乱して大声を出し、敵の注意が一瞬そちらに割かれる。
もちろん、その隙を二人が逃すわけはなく、二人が敵に切り込んでいく。
「私たちも、行こう!」
アッシュくんが小さくコク、と頷く。




