第27話 守るべきもの
街から歩いて二日目の昼頃、私たちは魔王がいると言われている森までたどり着いた。
道はかなり整備されていた。
しかし、森は森なのだから、いくら魔王が近くにいようが、そこはれっきとした森だった。
森にはちらほらとテントが建っているのが確認できた。
かなり古びたものもあれば、新しいものも多い。しかし、普通はテントを畳んでから次の場所に行くものだと思うのだが。
すでに、多くの冒険者が命を落としている、ということか、
しかしまあ、テントをそのままにしておいて、すぐに逃げてこられるようにした、とか、戦闘に邪魔だから置いておいた、という可能性も十分にあり得るな。
「いや、いよいよだな」
特に魔王に恨みがあるわけでもない私たちは、一種のアトラクションだと捉えている節があったと思う。
フィンも、親のことはあまり気にしていないらしいので、それなら変に気を使うようなこともなくやりやすいな、と不謹慎かもしれないが、私はそう思っていたのだ。
「いよいよかあ、」
私は、つい海斗の顔をまじまじと見てしまう。
「俺も、これで金持ちかな〜」
「そんなことは一旦忘れてくださいよ。これからは引き締めていかないとですよ。そもそも、見つけられるかも問題ですから、」
確かに、こんなにテントが残っているというのに誰にも発見されていないのは違和感を覚える。
隣にいる海斗は、拳をぎゅっと握りしめている。彼の鼓動の高鳴りを感じ、私の心臓は、っどくっどくと裏拍を刻み始める。
「じゃあ、行こう」
そうして、私たち一行は魔王が潜むと噂されている森に足を踏み入れたのだ。
基本的に、この世界は森ばっかりなのだが、この魔王が潜んでいるという森というものも広大なもので、その中の比較的木の数が少なくなっているところにいるんじゃないか、と予想されているわけだ。
しかしまあ、森の奥の方へ行けば行くほど何の変哲もない森、という印象が強くなってくる。
森の中にも冒険者のものと思われるテントや、食料などの忘れ物や火の跡なんかが見られるが、奥に行けば行くほど少なくなってくる。
二時間程歩いて、魔王がいると言われているポイントにかなり近づいただろう。
木が生い茂り、地面から足を出している木にコケがびっちりと生えている。
段々と森の中特有のジメジメとした臭いが強くなってきて、私たちの周りを交代交代で飛び回る虫たちが鬱陶しくなり始めてきた頃、海斗がこちらに手の平を見せて、止まるよう指示した。
ピタッと足を止めて、彼の指さす方向に目を凝らす。
そこには、人間のものと思われる骸骨があった。
私たちから見えていたのは、頭蓋骨だったが、その下にはまばらに骨が残っていた。
そこまで警戒すべきものでないとわかった私たちは、四人仲良くその骸骨を覗きに行った。
「人ってこんなんになるんだね〜、初めて見たよ」
すっかりこういうものを見るのに慣れているのかな、と思っていたフィンだったが、興味深そうにそんなことを言って、骸骨をジロジロと見ていた。
まだ幼いアッシュくんは、「ちょっと、怖いですね」と言って、私の後ろに隠れていた。
まあ、理科室とかで骨格標本は見たことはあったけれども、本物となるとまた違う。
「荷物とかもないし、そもそも骸骨なんて結構時間が経たないとだよな」
海斗はしゃがみ込んで骸骨を観察しながら、冷静に推理を行っていた。
「でもさ、森の中には狼とか熊とかもいるし、ここで死んだとは限らないんじゃない?」
「でも、骨も結構残ってるしそのまんまここに取り残されていた可能性の方が高いんじゃないか?」
まあ、確かにそうか。
すると海斗は立ち上がり、「ここからは気を引き締めて行こう!」と私たちに向かって言った。
私は、「うん」と強く頷いたのだが、アッシュはまだ骸骨を怖がっていたし、フィンは適当に「はいはい」と言うだけだった。
今までなんであんなに自信を持っていたのかわからないけど、こんなパーティで魔王なんて倒せるのだろうか。
だからこそ、私が海斗を守らなければいけないのだな、と強く決意するわけだが。
おおよそ目標としていた地点にたどり着いたと思われる私たちは、その辺りをぐるりと回って虱潰しに魔王の拠点と思われるものを探そうとした。
「あのさ、ルナ」
前からいつものように私を呼ぶ声が聞こえてきただけなのに、私はビクン、と肩を震わせて「な、なに?」とボソっと返事を返した。
それにしても、あのとき、なんで私、海斗に胸触らせちゃったんだよ!!
ほんと、彼の顔を見る度にあの感触を思い出してしまう。
「一回さ、魔法で俺を思い切り上に飛ばして、それで空から見てみようよ」
確かに、それは効率が良いだろうが、やはり一〇歳のときのあの記憶が蘇ってくるのだ。
「私、嫌だよ!」
と言ったあとで、小さく「もう、傷つけたくないし、」とつぶやいたが、どうやら彼には聞かれていたようで、少し悩んだ顔を見せた後に、「アッシュ、お願いしてもいい?」と海斗が私の後ろにいるアッシュくんに向かって言った。
「まあ、先生が嫌だっていうなら、俺がやってもいいですけど、」
「いや、その、アッシュくんさ、魔法はね、危ないものだからさ、その手加減とかあんまりできないものだからさ、」
私はそうやってなんとか阻止しようと思ったのだが、海斗がそんな私の肩を後ろからポン、と叩いて「大丈夫だよ」と笑った。
私はまだ反対しようと思ったのだが、このまま言い合っても仕方ないと思ったので、結局その作戦に賛成することにした。
「準備できたら、合図してよ!!」
遠くから海斗の声が聞こえる。
ウィンドを唱えると自動的に相手が吹き飛ぶのだが、その威力を弱めるというなら、遠くから呪文を唱えて自分とつながる相手との間に挟まる空気の量を増やせばいいのだ。
しかしまあ、今考えると、魔法って電気っぽいな、と思う。
サンダーなんていう魔法もあるけど、それとは別に、おそらく相手と自分とで魔力の回路を作れば魔法が発動するのだろう。
そんなことを考えながら、私は両手で大きく丸を作って海斗に合図を送る。
そして、アッシュくんが頷き「ウィンド!!」と呪文を放った。
すると、少し時間が経ったところで海斗の体が森の木々のてっぺんを超えるところまで飛んだ。
海斗の「うおおおお!!」という声が聞こえ、やがてその声にビブラートがかかってきて、そして以前とは違い、海斗はしっかりと両足から地面に着地した。
一安心だ。
また、あんなことになるのは勘弁してほしいからな。
「見えましたか〜〜〜〜?」
私たちは海斗に駆け寄り、そう聞いたのだが、海斗は「あ、」と素っ頓狂な声を出して、「ごめん、忘れてた」と言って恥ずかしそうに笑った。
「ほんと、これだからね〜」
木の影からフィンが急に出てきて、やれやれ、と両手で天を仰いでいた。
「ほんと、ちゃんとやってよね!!」
私は海斗の腹にパンチを入れた。
まあ、私のパンチなんてどうせ効いていないんだろうけど、海斗は「グホッ」とわざとらしく声を出してから、「暴力反対」と言ってニコリと私の方を見て、笑った。
その姿に一瞬ドキリ、と心臓が止まったが、
さて、こんな調子で魔王討伐がうまくいくのだろうか。
結局、アッシュくんがもう一度飛ばすことになった。




