第26話 げんざい
(回想。あの頃。少女の気持ち)
「・・・先週と同じ場所か、」
まあ、そっちの方がいいかなって思って。邪魔だった?
「いや、そんなことはないよ。部屋にあげるのも、ドキドキするし」
いやまあ、そのさ、・・・海斗に言われて私考えたんだよ。
「・・・・・じゃあ、聞いてもいい?」
ほんと、ごめんなさい!!!やっぱり、私は異性として海斗のこと見れない!
「・・・・そうなんだね、・・・こっちこそ、ごめん」
いや、海斗が謝ることじゃないけどさ、やっぱりずっと一緒だったしさ、その、別に海斗の前で裸になってもなんとも思わないっていうか、
「それは、かなりダメージが俺に入るんだけど、」
あっ、ごめんごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど、
「・・・いや、いいんだよ。こっちこそ、変なこと言っちゃってごめん」
・・・でもさ、私海斗とは友達でいたいの!いつもみたいにさ、普通に話した
りふざけたりどっか遊びに行ったりさ、
「・・・多分、そういうのって普通はフラレた側が言うセリフだよ」
・・・でも、私、海斗とは友達がいいの!だからさ、いつも通りにまた遊んだりしても、いいかな?
「・・・まあ、・・・そうだな、」
・・・ほんとごめん。
「まあ、ゲームでもしてこうぜ。この前、ようやくマリカ買ったからさ」
・・・そうなんだ。
「ほら、・・・それ使っていいから、」
ありがと。・・・・・うっ・・・くっ・・グスッ・・・!
「えっ、ちょっと、どうしたの?」
えっとさ、・・・友達じゃなくなるのが怖かったの!その、ずっと一緒だって思ってたからさ、
「・・・大丈夫だよ。俺達友達だよ、」
・・・ほんとごめんね。じゃあ、それ貸してよ、
「あ、ほい、」
ありがとう。・・・グスン、・・・負けないからね。
「そんな、ムキになるあれでもないだろ?・・・まあ、初めてだし負けても仕方ない、」
・・・保険入ってるじゃんw
「・・・・・入っといた方がいいってことに気がついたからさ、」
(回想)
「一回、距離置かない?」
公園のベンチに二人並んで座る。
私たちは恋人でもないのに、ベンチに二人横に並んで座っている。
少し、覚悟はしていた。でも、どうにか、彼と離れたくなかったのだ。
「その、なんで?私、謝るからさ!!ごめん。でもさ、一緒にいさせてよ!」
「でも、俺のこと異性として見れないでしょ?そんな男と一緒にいたって、流菜は幸せにはなれないと思うんだ」
そんなこと思うな!と叫びたかったが、私のわがままで彼をとどめているという事実に違いはないのだ。
「私、海斗と一緒にいたいのに、ダメなの?」
海斗が少しうつむく。
「・・・別に、ずっとじゃないよ。その、俺が悪いんだよ」
そんなわけ無いけど、
そんなわけないけど、
そう思ってもらっていないと、私の望む関係は成立しない。
でも、友達でいたいっていうのって、そんなにダメなことなの?
友情は、愛じゃないんだもん!
「距離置こうよ、俺達、一回さ」
紐に結ばれた言葉が、次々と彼の口から出てきた。
そんな、恋人みたいなこと言わないでよ。
「・・・なんで、ダメなの?」
もう半分くらいコントみたいだと思った。
恋人でもないのに、こんな別れ話をして、
でも、私、海斗と今までみたいに一緒にいたいんだよ。
友達でいいじゃん。
「・・・そしたらさ、前みたいに一緒に遊んでくれるの?」
海斗はゆっくりと頷く。
「じゃあ、そうだね。一回距離置いてみようよ」
これが、私が彼にした最初で最期の譲歩だった。
(回想)
私は、ずっと彼と一緒にいたかっただけだったのに。
恋人になるのは怖かったのだ。
だって、ずっと一緒にいたんだもん。
彼のことを異性として見れなかったのは本当なんだけど、でも、彼のことは好きだった。
ずっと、友達でいればいいと思っていた。
私のせいだ。
こんなこと他人には言えない。家族にも、海斗の家族にもそんなことは言えないというか、言っても仕方のないことだ。
私のせいなんだ。
馬鹿だ。私は。
海斗だって好きって言ってくれたんだから、そんなワガママ言わないで彼の思いに応えてあげればよかったのだ。
今までのままが良かったと思っていたとしても、それでもっと大事な何かが壊れるというなら、そのくらい我慢すればよかったのだ。
ほんと、馬鹿だった。
毎日泣いたって、なんにもならない。
「あのさ、ごめんね。私さ、ずっと一緒に居たかっただけなんだよ。別に、私たちそこら辺の熟年夫婦とかおしどり夫婦なんかよりもずっと仲良くやってきたじゃん。恋人になればさ、今までみたいではいられないって思ったんだよ。ずっと、臆病だったのかな〜。ほんと、こんなこと聞かせちゃってごめんね。私、・・・いつかちゃんと償うからさ、・・・もうちょっとだけ待っててよ、」
そういって、私は彼の仏壇に手を合わせた。
そして私は彼の部屋から出て、階段を下った。
「・・・いつも、ありがとうね。きっと、海斗も喜んでると思うから、」
リビングから彼の母親が出てきた。
私だって、海斗と同じくらいお世話になったおばさんだ。
ほんと、小さいときは「お嫁さんになってくれたらいいのに」なんて言われて嫌だったけど、こんなことになるくらいなら、お嫁さんになっていればよかったのかもしれない、と思った。
「・・・いや、・・・いつもすいません、本当に」
おばさんは、さっき初めて練習したかのような笑顔で、「あんなに仲良くしてくれてたのに、ごめんね」と言った。
本当は、おばさんに謝らなくてはいけない。全部、私が悪いんですって言わなければいけない。
海斗は、遺書も残さずどこかに行ってしまった。
「・・・なかなか気持ちの整理がつかなくて、」
そんなことを遺族の前で言うのはどうかしていたとしか思えない。
そりゃ、いくら自分の気持ちが大事でも、海斗は私の幼馴染でしかないのだから。おばさんにとっては、命よりも大事な息子だったんでしょう。
「まあ、私はこのくらいにしときますから、ほんと、今までごめんなさい」
おばさんはポカンとしていたけれども、私はそう言って彼の家を去った。
それにしても、生憎の雨か、
まあ、こんなもんか。
傘を持ってこなくてよかったかもしれない。
私はそのまま目的の場所に向かって歩いていった。
こんなに暗い気分だというのに、自然といつも聞いていた相対性理論の『恋は百年戦争』を私は口ずさんでいた。
自己中で、振り回してばかりの女の子だ、私は。
軽快なメロディが、私の体を軽くする。




