第24話 戦いの前に
日差しが、誰に遮られるということなく、私のまぶたを直接照りつけるので、仕方なく私は目を開ける。
昨日の徒歩の疲れはまったく取れていない。昨晩も、カバンに入っているパンを食べただけなので、さっそく腹の虫が鳴った。
「ふああ〜、お腹すいたな〜」
着替えて、櫛で髪をとかし、そして宿のフロントにある椅子に腰掛けて待っていると、続々とメンバーが集結してくる。
「あ、おはよう」
なんだか、私とカイトはなんだかよそよそしくなってしまいそうだ。
別に、カイトのことは好きなんだ。
ただ、カイトとそういうことをするのはあまり想像できないというか、別に他の人だってそうだ。
その、恥ずかしいのだ。
「じゃあ、情報収集だな。でも、魔王軍なんていなさそうだよな〜」
フィンが腕を組みながら「う〜ん」とよくわからない声を出す。
「とりあえず、ギルドに行きましょうよ」
「そうだね」
ということで、私たち四人は街のギルドに向かうことにした。
以前の街アルネストでは、魔王軍や街に不満を持つ人々によってギルドが破壊されていたが、どこに行っても一番の情報の集まる場所、というのは大抵冒険者ギルドなのだ。
隣をカイトが歩いている。
私は気まずいので、なんとなく興味もない街の景色なんかをキョロキョロと見回して彼と目が合わないようにする。
後ろにはフィンとアッシュがいるわけだが、彼らもあまり会話をしないみたいだ。まあ、フィンとアッシュには結構年齢の差があるからな。
「フィンはさ、そういうえば元々一人で冒険してたの?」
気まずさに耐えられなくなった私は、後ろを歩いているフィンに話しかけることにした。
「前言った通りだよ。一人で冒険してたんだ。あれ、前言ったよな?」
昼間の通りは、非常に静かだ。
歩いている人がポツンポツンとしか見当たらない。
「一人で魔王軍を追って色々なところを冒険してたの?」
「まあ、そうだな」
彼は、あまり自分のことを話さないからな。
ちらりと横を見ると、カイトもこちらの会話に聞き耳を立てている様子だった。
「ずっと一人だったの?」
歩きながら、そう彼に尋ねた。
「まあ、俺は六歳で託児所みたいなところから返されたときにさ、両親が俺を取りに来なかったんだよ。だからさ、育ててもらえなかったんだ。その時から、一人でウロウロしてたんだよ」
私は、「それは、大変だったんだね」と少し声を落として相槌を打った。
「それだけだ。多分、俺の両親は魔王軍にやられたんだよ」
「多分って、なんでわかるの?」
「託児所に家の場所を教えてもらって、そこに一人で行ったらさ、ボロボロで誰も住んでなかったんだよ。まあ、貧乏な家だったしな。そんで、散らばってるものとか見てたら、文字は読めないけどなんとなく、魔王のことが書いてある本とか魔王軍が配っているよくわかんない水の入った瓶だなってわかったんだ。託児所にも来てたからな。迷惑なやつが。だから、俺の両親は魔王軍にめちゃくちゃにされたか、従順な魔王軍として未だに働いているかだ。だから、それだけだよ」
私は純粋に、彼にもそんな過去があったんだな、と思った。
「そんなことがあったんですね。それで、今こんな感じなんですか?」
アッシュくんが、かなり失礼とも取れる発言をした。
まあ、因果関係が一見ないようにも見えるのは確かだ。ある、とも言えるがそんなことはどうだっていいはずだ。
「そうだよ。ずっと一人だったのと、たまに大人に混じって冒険とか行ったりしてたから、こんなんになるさ」
後ろでアッシュが「ちょっと、やめてください」と言っているのが聞こえた。おそらく、フィンが頭を撫でたりしたんだろう。
「お前、そんなことがあったんだな」
カイトが、まっすぐと前を見て歩きながらそう言った。
私は、チラリと彼の方を見て、すぐに目線を前に戻す。
「理由が無い方が怖いだろ。一人で冒険してて、」
まあ、それはそうかもしれないな。
「お前らが有名になってくれたらさ、俺はこのパーティ抜けて可愛い女の子だけのパーティ作るから、頑張ってくれよ。あ、ルナちゃんは来てもいいけどね」
そんなことを言ってるけれども、フィンだって結構役に立ってくれているのだ。シンプルに年齢的に経験も豊富だからなのかもわからないが、きっと戦士としての腕前はカイトよりもレベルが高いと思う。
だからといって、一人でどうにかなる、というわけでもないのが冒険の醍醐味でもあり盲点でもあるのだ。
戦う度に、「あのときああしてくれなかったら死んでたかも」というのは、おそらく全員にあることだ。
「魔王を倒すまでは勝手に抜けたりしないでくれよ」
とカイトがいうと、フィンは「それはどうだろうな」と言った。
私は、気になったので、失礼を承知で「フィンは、魔王に恨みは無いわけ?」と聞いた。
「別にないよ。だって、知らないもん。まあ、一人で大変だったけどな。確かに両親が魔王のことなんて知らなかったら迎えに来てくれたかもしれないけど、普通に忘れられる可能性だって十分あるんだ。別に、恨むほどじゃないさ。ただまあ、魔王がいなくなったほうがいいっていうのは事実だけどな」
そんなフィンの過去について色々と説明をしている内に、私たち一行はこの街の冒険者ギルドに到着した。
普通の木の家に、でっかく「冒険者ギルド」と書かれている看板があるだけだ。
しかし、中に入ると結構な数の人がいて、ぎゅうぎゅうだった。
「ちょっと、一旦空くまで待たない?」
「そうだね。ずっとこんな状態じゃないだろうしな」
ということで、私たちは一旦ギルドの外に出て空くのを待つことにした。
小一時間ほど待つと、さすがにギルドの中にいた冒険者も冒険に行く時間帯となったので、私たちはギルドに入った。
人がいなくなると静かなもんだ。
四人で受付に並ぶのはさすがに変だと思ったので、私が代表して受付に並んだ。
すぐに順番が来たので、冒険者であることを伝えてから、「あの、魔王軍に関する情報を聞きたいんですけど、」とすぐに本題に移行した。
「えっと、魔王軍の情報といっても、程度があるというか、その、どのくらいの情報をお求めですか?」
「ああ、えっと、本格的なやつっていうか、魔王がどこにいるか知りたいんです」
「えっと、そうですね。最近はめっきり目撃情報もなくなって、以前まではこのリネリンの街の周辺に堂々と魔王軍の拠点が建ってましたから、」
まあ、あながちあの長老の情報は間違っていなかったわけだ。
というか、アルネストで会ったあの幹部の言っていたことも、あながち間違いではなさそうだな。
「ただ、魔王軍の傾向といいますか、今どこにいるだろうなっていう予想はお伝えできますけど、」
私は受付の台にドン、と手を置いて、「ぜひ、教えてください!!」と身を乗り出した。
受付のお姉さんは少し身を引いて、「ああ、いいですよ」といった。
「ちょっと、皆、情報くれるって!!」
私は皆を呼んだ。
今思うと、あんまり私らしい行動ではなかったな、と思うのだが、まあいい。
この時の私は、結構興奮していたのだ。
小さい頃から目標としてきたことだもんな。
男子三人が足並み揃えてこちらにやってくる。
「あ、えっと、これ地図にまとめてあって、この街から南東に進んだ方にあると思われてるんですけど、結構探しても発見の報告がないんですよ。でも、おそらくはそこで魔王軍に撃退されたり組み込まれちゃったりっていうのがほとんどだと思ってます。実際に、そこから魔王軍の関係者っぽいのが出てきているという話は聞いているので」
すると、その話を聞いた男子たちが「これ、かなりヒントだよね?」と顔を合わせている。
「つまり、そちらの予想通りでほぼ間違いないってことですよね?」
受付のお姉さんは、「まあ、五分五分ですけど」と言ってから、「でも、それ以外にも魔物が多く潜んでいたり危険な森ですから、行くなら気をつけてくださいね」と言ってきた。
「え、ありがとうございます。あ、他の冒険者の方とかも討伐に行ってますかね?」
「まあ、ここに来る人のほとんどは魔王目当てですから、もしかしたら魔王は本当にもういなくなってる可能性はありますよ。でも、噂が立ってまだ半年くらいだから、いると思いますけど、」
私は受付のお姉さんに大きくお辞儀して、ギルドをあとにした。
そして、宿の男子三人が泊まっている部屋に集まり、私たちは作戦を考えることにした。
地図屋が街にあったので、そこで森の地図を買ってきたのだ。
先程ギルドで見せてもらったものの記憶と地図を照らし合わせる。
「南東の方って言ってたよね?ここらへんだったってことは、一日歩いて、そこからって感じじゃない?」
カイトが指さしているところは、地図を見る限りかなり距離がありそうだ。
「そうだね。ちょっと、遠いよな。一回野宿して、そこから突入になりそうだよな。一日でどれくらい行けるか、」
「もう少し手前で野営して、二日目の午前中らへんで、その続きの道を歩くっていうのはどうですか?」
「そうだね。それが一番良さそうか、」
しかし、いよいよ魔王軍との対決となるのだろうか。
前例はないのだから、半年程冒険を続けてきた私たちは早い方なのかわからないが、それでも、いよいよかと思うと全身に力が入る。
「じゃ、俺とアッシュは先に魔王に備えて寝てるから、二人はそれなりにやっておいてくれ」
一瞬え?と思ったのだが、フィンはアッシュの手を引いて部屋から出ていってしまった。
どうやら、この部屋には私とカイトしかいないみたいだ。




