第21話 静・閑・他意
「そんなさ、落ち込まなくても大丈夫だって、」
夜。
情けないとは思いつつも、私はカイトを自分の部屋に呼び寄せて、隣に座らせた。
感覚だけでやってきたからか、それとも魔法において挫折のようなものを味わってこなかったからなのか、このとき私はかなり落ち込んでいた。
「やっぱり、カイトはすごいよね」
まっすぐ前を見ながら、私は隣にいるカイトに話しかける。
カイトはこちらを見て、「ルナが居てこそだよ」と言う。
ああ、私まためんどくさいことしちゃってるわ。
私は足をプラプラさせながら、「私なんて、」とつぶやく。
「そんな、元気出してよ」
視界の端で彼の表情を確認したが、彼は困ったように苦笑いを浮かべていた。
「いつもだって、ルナに助けられてきたわけだし、俺はルナの話を聞いてちょっと一言言っただけだしさ、」
「でも、私の話だけじゃきっと、アッシュくんは回復魔法なんて使えるようにならなかったもん」
「だから、ルナがいたからこそだよ」
私は目線を落とし、ベッドの上でくたあ、となった自分の太ももに目を向ける。
ふてくされたように、太ももの肉が横に広がっている。
「そんな、気にしなくていいんだよ。いつも、感謝してるし、助けてくれてるじゃん。それに、魔法使いの才能はものすごいあるんだから、それを誇っていればいいんだよ」
褒められると、ちょっと心を開いてしまいたくなるので、ぐっと尻に力を入れて、「私なんて」と先程と同じようにしょげてみる。
自覚しているんだから、さっさと謝れよと言われるかもしれないが、それって案外難しいことだ。
私は、隣にいるカイトに体重を預ける。
「あ、重っ」
「ちょっと、どういうことなの、」
私は、横に倒れながらカイトの方に力を向ける。
彼は私に押されながら「ごめんごめん、違うんだよ」と笑いながら言い訳をした。
「でもさ、これでアッシュくんが魔法を使えるようになればさ、別に私なんていらないんじゃないの?」
あ〜、なんてことを言ってしまっているんだろう。
もう、私が私でない感じだ。
「そんなこと思ってないよ。もしかしたら、彼も冒険に加わるかも知れないけどさ、でも、やっぱり一番頼れる魔法使いはルナだよ」
「本当に?」
カイトは私に押されて体を傾けたまま「もちろん」と頷いた。
私は体を起こし、まっすぐと座り直す。
「あのさ、」
私はカイトの方を向く。
「どうしたの?」
カイトは、先程の私みたいに目線を落としてうつむいている。
「あのさ、ずっと言いたかったというか、フィンがいるからなかなか言えなかったんだけどさ、」
カイトの口元は、少し震えていた。
私は、すっかりさっきまでの自分の言動を忘れて「どうしたの?」といつもの調子で彼に尋ねた。
「あのさ、ルナは俺のことどう思ってるの?」
カイトの顔は、そのまま床を見ていた。
私は、一気に体が熱くなる。
「え、そりゃ、幼馴染だし、このまま一緒に魔王を倒せたらいいかなって思うよ」
なんとか噛まないように、言い切る。
「その、さ、俺もあんまりこういうの詳しくないっていうか、」
私は自分の顔に手のひらを当てる。
手が手汗のせいでペタペタと頬に張り付く。
「俺達ずっと一緒にいたじゃん。街にいたときからさ、」
もちろん。
彼に外に連れ出された時のことは、一生忘れはしないだろう。
「俺、その、ルナのことが好きなのかな〜って、」
「え?」
きっと自分の顔がものすごく赤くなっているだろうと思ったので、私は思わず彼の顔から目を背ける。
え、好き?
「その、俺好きだからさ、ルナはどうなのかなって思って、」
好き?
え、
いや、わかってはいる。
そんな予兆みたいなものがなかったわけでもない。
今思い返すと。
「・・・いや、その、幼馴染っていうか、」
そういって適当にごまかそうと思ったのだ。
とりあえず、恥ずかしかった。
顔もどんどん熱くなってくるし、握りしめた手から魔法を使ったみたいに汗がどんどんと吹き出てくる。脇とか太ももの辺りも、汗でどんどん濡れてきている。
「いや、その、俺さ、好きなんだよ、ルナのことが。だから、ルナも俺のこと好きなのかなって、」
「え?私が、・・・いや、え、その、それは〜、」
恋愛がそういうものかなんて、私にはよくわからない。
でも、なんだか心の奥が疼くのだ。
なんだろうか。
「ちょっとさ、手、握らせてよ」
「手?!まあ、別にいいけど、」
私は少し後ろを向きながら、彼に手を差し出した。
彼は、私の手を優しく撫でる。
「ちょっと、くすぐったいよ、」
「え、ああ、ごめん」
彼が私の手を離したので、手を引っ込めて、自分で先程の感触を確かめるように、撫でた。
「じゃあさ、頭を撫でさせてよ、」
私は許可を出したわけでもないのに、彼は私の頭を撫でてきた。
そういえば、今日は髪を整えていなかったな、と思ったが彼がワシャワシャと頭を撫でるので、むしろ整えて無くてよかったな、と思い直した。
って、そんなんじゃなくて、
私、どうすればいいんだろう。
「そのさ、俺ルナのこと好きだからさ、だから絶対に置いていったりしないし、ルナの代わりなんていないし、なにより強いんだから、もっと自信持っていいんだよ」
カイトは私の手を握って、そう言い切った。
恥ずかしい気持ちを少し我慢して、私は彼の方を見る。
彼に握られた手が、緊張ゆえか、少し震えてくる。
「で、ルナって俺のことどう思ってるの?」
さっきからそればっかり。
今にも発火しそうだった私は、「だから、えっと」としか言うことができなかった。
「ええ、でも・・・好き、」
カイトの瞳孔が一気に開く。
「・・・なのかな、」
そして、カイトが私の手を握ったまま引き寄せて、「どっちなの?」と私に迫ってきた。
私は、緊張ゆえに今にも泣き出してしまいそうだったが、唇を噛んでなんとか耐えながら、「ちょっと、また今度でもいい?」と彼に聞いた。
すると、彼は急いで私の手を離して、「え、ごめんごめん。怖かったかな?」と少し申し訳なさそうにした。
「いや、その、ちょっと今日は恥ずかしいからさ、それに、イマイチ自分でもわからないし」
いや、そんなことはないだろう、ルナよ。
私は、多分カイトのことが好きなんだわ。
そうすれば、ここまでついてきた理由も説明できるし、こんなに彼に構ってもらいたいって思う理由も、彼の前でカッコいい姿を見せたいって思う理由も説明できるもの。
しかし、何かが引っかかっているのだ。
わからない。
心の、頭の隅っこにあるなにかが引っかかっている。
だから、もう少し待っててほしい。
きっと、答えは決まっているのだから。
でも、それをいざ言おうとするのはやっぱり恥ずかしいのだ。
「そうか。じゃあ、・・・また教えてよ」
私は無言で頷く。
「あのさ、お願いなんだけど、」
カイトが顔を赤らめながら私に言う。
「・・・どうしたの?」
私もまだ顔が熱いままだったので、目線を落としたまま彼と言葉を交わすことにした。
「その、・・・お、・・い見せてほしいかな、って」
ちゃんと聞こえなかったのだが。
「ごめん、聞こえなかったんだけど、」
少し、彼の顔を見る。
彼はすう、と大きく息を吸ってから
「おっぱい、・・・見せてほしいんだけど、」
と言った。
私は彼が「お」という言葉を発してからしっかりと彼の口の動きを確認していたが、確かに彼の口が最初縦に開き、次に唇どうしがくっついて一瞬引っ込んだあと、その唇が引っ込めた反動で開き、「あ」の形になったあと、その唇が横ににっと開いたのだ。
「はあ?!」
私は、真っ赤な顔を彼に向けた。
そして、両手で胸を覆う。
「え、なんて言ったの?」
すると、彼はどもりながらまた先程と同じように口を動かして「おっぱい、・・・見せてほしいなって」と言った。
「ちょっと、どういうつもりなの?!出てって、早く!!」
私はベッドから立ち上がって彼を思い切り殴った。
「別に、小さい頃は見せてくれたじゃないか、」
懲りずにそんなことをいうのかよ。
「見せたことなんてないし!!!出てって!!変態!!」
私は部屋からカイトを追い出した。
カイトは扉の外でもう少し粘ろうとしていたが、私は扉をバンバン蹴って追い払った。
「・・・もう、私だってさあ、」
ほんと、バカ。
私は扉の前に座り込む。
そして、着ていたシャツの首元を手で引っ張って中を確認した。
ぴくん、とほんの少し上を向いていた。




