第20話 師弟
「その、えっとね、イメージをするんだよ、」
「はい!!」
元気の良い返事だ。声変わり中なのか、少し上ずった声をしている。
「えっとね、その、相手とつながるイメージをするんだけど、」
彼には魔法を扱う才能はあったが、まだ完璧に扱いきれていない、というか、当時の私より少し劣るくらいだ。
そんな彼を回復役にするよりは、私が回復を使えるようになればいいのかもしれないが、私には回復魔法を使う才能はあまりなかった。
まずは普通の魔法が使えるようになるのが大事だが、普通の魔法よりも回復魔法の方が得意、という人も一定数いるらしい。
「えっとね、こう魔法はね、その、」
彼に回復魔法を教えようにも、感覚だけでやってきた私は、どうも言葉が詰まってしまう。
「おい、調子はどうだ!」
この雑な口調は、・・・フィンだ。
私は後ろを振り返り、「邪魔しに来たの?」と彼を睨みつける。
「いや、別に様子を見に来ただけじゃん。その、行き詰まってるみたいなことを聞いたしさ、」
行き詰まってはいる。
彼に、私が覚えてきたことをすべて伝えたはずだ。
彼の前で回復魔法を使ってみせたりした。
しかし、感覚として「こんな感じ」というのがわかっても、言葉でうまく説明することができないのだ。
今のところ、彼が一人の力でここまで使えるようになっているだけで、私の存在価値がなくなってしまっている。
「あのさ、説明するのが苦手ならさ、俺が代わりに説明してあげてもいいからさ、とりあえず見せてあげればいいじゃん」
見せて、わかるものなのだろうか。
もちろん、すでに何度か見せたりはしているけど、あまり見たからといってイメージが思い浮かぶものではない。
「いや、私一人でやるから、」
するとフィンは不服そうな顔で、「あ、そう」と言ってどこかへ行ってしまった。
「えっとね、アッシュくん」
私は目線を下げ、彼を見る。
まだ私の鼻くらいまでしかない身長が、これからどんどん伸びていくんだと思うと、これまら時の流れというものは怖いなと思えてくる。
とりあえず、自分の言葉で教えるのは無理だから、教室で教わったことを思い出そう。
『回復魔法は、通常の魔法と逆回転なんだ。通常魔法は、手から魔力を放って、それが地面を通してこちらに戻ってくる。しかし、回復魔法は手を広げることで地面からその対象に常に流れ込んでいる自分の魔力を回収する技なんだ』
「その、まずは普通の魔法をやってみようよ」
アッシュくんは、はい、と返事をして杖を握りしめた。
「えっと、じゃあそこの切り株に向かって魔法を撃ってみて。順番は覚えてるかな?」
すると彼は、不安そうではあったが大きく首をコクんと動かして杖を構え、「フレイ!!」と呪文を唱えた。
すると、切り株の上の部分、まあ年輪の部分だけが燃え出した。
試しに私が「フレイ」とその切り株に魔法を唱えると、切り株全体が燃えだした。
説明に当てはめると、私が放った魔力が切り株に通り、魔法を引き起こしたことになるんだろうけど、イマイチ理屈が理解できていない。
でも、できるんだよな。
「すごい、」
アッシュくんが、小さくつぶやく。
彼にだって、魔法を使う才能は十分あるのだ。私が天才というだけで。というか、そもそもの研鑽の年数が違うからな。
「えっとね、回復魔法はね、それと逆のことをやるんだって」
逆のことをやる、という話は何度もしてきたことだ。
そこから、どう進めればいいのだろうか。
「先生、その、何度も聞くようで申し訳ないんですけど、逆ってどういう感じなんですか?」
どういう感じ、か。
「えっと、・・・ちょっと手を貸してもらってもいいかな?」
そういって、私は彼の手を握った。
そして、「ヒール」と呪文を唱えると、緑がかった光が現れる。
「その、なんて説明したらいいのかな?」
私がこんなでは駄目なのだ。
「ちょっと、とりあえずやってみようよ。その、とりあえず、前とは違うイメージでさ、」
そういって、私は彼に右手を握らせる。
魔法は、近くに居たほうが効果が強いからな。繋がりも確実になる、と教わったのだから。
「じゃあ、「ヒール」って言ってみて」
彼が私の手を強く握りしめて「ヒール」と呪文を唱えるが、とくに何も起きない。
やはり、これでは駄目なのだ。
「えっとね、足から魔力でつながってるのってなんとなくわかる?」
「足から?、・・・・わからないです、」
私ですら、あまりちゃんとわかっていない、というのに。
「ルナーー!!」
遠くから声が聞こえてきたと思ったら、カイトの声だ。
今日は、村の手伝いをする、と言っていたと思うのだが、もう戻ってきたのか。
彼がこちらまで歩いてくると、「フィンから聞いたんだよ。行き詰まってるって?」と言った。
あいつか、
「ちょっとさ、俺にも魔法の説明してみてよ。アッシュくんも、一緒に聞いてみない?」
説明か。
「その何回も説明したんだけど、説明が上手くいかなくて困ってるのよ」
「その、教室で聞いたことをそのまんま教えてくれればいいからさ、」
私が何度「説明が上手く出来なくて困ってるの」と言っても、カイトは「とりあえず俺にも聞かせてよ」と言うだけだったので、仕方ない、一度私たちの住んでいる空き家に戻って話を聞かせてやろう。
そうすれば、私がそれだけ説明する力がないかわかってもらえるだろう、ということで、三人で家に戻った。
リビングに各部屋から椅子を持ってきて、二人を座らせ、私は前に立って、以前教室で教わったときのことを思い出しながら魔法の説明をした。
アッシュくんは、相変わらず熱心にその説明を聞いていた。それと同じくらい熱心にカイトも説明を聞いていた。
教室に通っていた当時も、話を理解するのは私には非常に難儀だったので、一言一句暗記する作戦に切り替えたおかげだろうか、ほぼ純度百パーセントの説明ができたんじゃないか、と思う。
まあ、覚え違いがなければいいのだが。
「あのさ、初めて知ったんだけど、俺にも魔力っていうのはあるってことなの?」
「そうだね。魔力はみんな持ってるんだって」
さすがに、この程度のことならわかるが、それがどのようになっているかは、あまり理解していない。
「で、それが地面を通してつながってるんでしょ?じゃあ、裸足でやってみれば?」
裸足か。
確かに、いいかもしれないな。
杖を使って遠くから魔法を唱えるよりも手のひらを相手に触れている方がより威力も精度も上がるのだからな。
「そうだね。じゃあアッシュくん、一回靴を脱いで、裸足でやってみよう」
試しに、私も靴を脱いでみることにした。
足で木でできた床の感触を足の裏でやんわりと感じる。
「じゃあ、私と手を繋いでみて、」
私とアッシュくんは手をつなぐ。
そして、私は頷いて彼に合図を送った。
彼は「ヒール」と唱える。すると、私の手が光りだした。
「あれ、これ成功してるよな」
アッシュくんも、目を見開いて自分のやったことに驚きつつも、嬉しそうな表情を押し殺していた。
「すごいじゃん!アッシュ、ほら!」
私は彼から手を離し、そして彼はカイトとハイタッチをした。
パチン、という音が鳴り響く。
「やっぱり、偉大な先生のお陰だよな」
「・・・そんなことないよ」
そりゃ、本当なら私が一人で教えられればよかったことなのだ。
悔しいとか、情けないとか、そんな気持ちが今、私の脳内を巡回している。
あまり素直には、彼の成功を喜ぶことができなかった。
「すごい!俺、もう一回いいですか?」
「ちょっと、今度は俺にもやってみてくれよ」
そういって、カイトも靴を脱ぎだす。
そして、アッシュがカイトの手を握り呪文を唱えると、先程よりも大きな光が現れた。
「おお!!すごいじゃん!」
私は、そんな彼らのことを少し遠くから眺めた。
「先生、俺できましたよ!」
彼は、実に子供らしい純粋な笑顔を私に見せてくれた。
私は、無理やり口角をあげて「すごいね」と手をパチパチと叩いた。
カイトが、そんな私のことを見ていた。
「そうだね。次は、もう一個上の回復呪文があるからさ、どんどんやっていこう。それに、杖を使ってでもできるようにしようね」
アッシュくんは、いつもよりも大きく、自信満々に「はい」と頷いた。




