第18話 ファミリア
「いやあ、助かりますよ」
辺境の村。
私たちが魔王を探す旅に出かけてもう二ヶ月ほどが経った。
以前アルネストという街で戦った魔王軍幹部から聞いた情報は、完全に時代遅れだった、といえばいいだろうか。
ともかく、それらしきところに行ってももぬけの殻だったのだ。
それに、噂を聞く限りこの辺りの森にそんな場所はない、という話だ。
というか、そもそも行けばわかるとかいうあやふやな情報だったのにあいつを置いていったのが間違いだったのだ。
もっと聞いておけばよかった。
これは、実に困ったものだ。
「すいませんが、もう一度お聞きしたいのですが、そちらの戦士様の名前って、」
村の長老がカイトの方に手を向ける。
「俺、カイトです」
「あ、そのファミリーネームは?」
「ああ、ラファエルって言うんですけど、」
長老は、ぱっちりと目を見開いて「ほんと、ほんとですか?!」とカイトの手を取り、「もしかして、あなたの両親のどちらかが冒険者だったりしませんか?」とカイトに尋ねた。
私はその様子を熱心に見守っていたが、フィンは外で村の子どもたちと遊んでいた。
「ええと、両親どっちも冒険者なんですけど、」
すると長老は、「えっと、あなたのご両親のお名前って、」と興奮した様子で尋ねてくる。
カイトの両親が冒険者だということは聞いていたが、どのような功績があるのかは、詳しく知らない。
彼の家だったギルドも、両親がどうやら仲間が冒険で稼いだお金で色々と貢献したくて建てられた、ということらしい。知っているのは、そのくらいだ。あと、幼いカイトをおいて冒険に出かけた、ということだ。
「その名前は、確かに俺の両親ですね」
カイトがそう答えると、老人はカイトの手を握る力をより強めた。私は、興奮のしすぎで死なないでくれ、と祈っていたのだが、老人はふんふんと鼻息を荒くして、「ぜひ、話をさせてほしい!!」と、私とカイトを家の中へ連れ込んだ。
「いやいや、その、あなたのご両親には本当にお世話になりまして、」
長老がなにやらいそいそと接客をしてくれているので、少し心配になった私は「手伝いますよ」と言って手伝うことにした。
長老の代わりにお茶を淹れて、長老と私たちが向かい合うように座って、私たちは彼の話を聞くことになった。
「その、昔この村は魔王軍の支配下にあったんですよ」
それは知らなかった。いやもしや、街であの幹部が言っていた情報はここのことだったのか?あの男の言う通りに、私たちは道を真っ直ぐ歩いてきたのだ。
しかし、今無いのでは話にならない。
魔法をかけたからと言って、油断しすぎてしまったな。
「もうずいぶん前の話です。まだ、私が若かった頃ですけど、この村の住民のほとんどが魔王を信仰していました。それに立ち向かうために、どうにか仲間を集められないかと思ったのですが、魔王の力は強大だったので、私は諦めて、それを受け入れて生活しようと思っていたんです」
カイトは熱心に、長老の話に相槌を打っている。
私は、お茶をすすりながら一応、その話に耳を傾けた。
「私の父は長だったので殺されてしまったんですね。その、魔王軍が父が村人に隠れてコソコソとなにかしている、という噂を流したので、それに騙された村人たちに父は殺されてしまったんです。私は生き延びたはいいけど、父の無実を晴らすにももう無理だ、と思って諦めていたんですよ」
それにしても、そんな古くから魔王軍というものはいたんだな。
私が父や母から教わったのは、パン作りと、せいぜいお隣の悪口くらいだ。
「それで、そこから更に三年くらい経ち、もう父のことなんて忘れようと思っていた頃にですね、この村で戦争が起きた、というか、村が襲撃されて、魔王派閥の人はそれでほとんど死んでしまい、近くに拠点を置いていた魔王も結構痛めつけられたらしくて。それで、魔王軍がいなくなったんですよ」
と言ってからカイトの手をもう一度握り、「命の恩人ですし、父と私の無念を晴らしてくれた恩人でもあるんです」と強く言った。
「どこかでお返しできないかと思っていました。まさか、こんなところで御子息に会えるとは思っていませんでした!!」
「そんな、俺はあんまり両親のことは知らなくて、」
カイトがそういうと、長老は「それはなんと、」と言ってからまっすぐと彼のことを見て、「すごい、英雄なんです!!あなたのご両親は」と言った。
「その、話は変わっちゃうんですけど、」
人生残り短い老人の話を無理やり終わらせるのは少し憚られたが、私はそう言ってから、「魔王軍の情報とか、ご存知じゃありませんか?」と長老に尋ねた。
「魔王軍ですか、」
と言って顎に手を当てて少し思い出すような仕草をしてから、「勇者様に追われてここから撤退してから、おそらく色々なところを転々としているんだと思います。もしかしたら、ここへ戻ってきたりするかもしれませんね」と言った。そして、
「すいませんが、現在の詳しい情報はわからないですね、」
と言って、少し申し訳なさそうにした。
「そうなんですね」
私がそう言うとカイトは、食らいつくかのように素早く「もう少し、俺の両親の話を聞かせてもらえませんか、」と長老に頼んでいた。
「いいですよ。村の中には、なかなかこんな話を聞いてくれる人はいませんからね」
そういってから、長老は色々と昔のことを語りだした。
私は、あまり興味はなかったが、カイトの隣でその話を聞いた。
カイトの両親は、さぞ強いのだろう。
まだ生きているなら、年齢は大体四〇代手前とかなのだろう。
それなら、まだ十分体を動かせる年齢ではある。
話を聞き終わったらもう夕方になっていたので、私たちは泊まっている空き家に戻った。
中には子供と遊んでいて疲れ果てたのか、フィンが自分のベッドで寝息を立てていた。
私はカイトに、「カイトの両親ってすごいんだね」と言うと、彼は「俺、なんにも知らなかったよ。乳母さんに聞こうとしても、嫌がられただけだったし、」と言った。
彼は、どこか浮ついているようにも見えた。
「あのさ、俺達で魔王を倒そうよ。きっと、できるよ。そうすれば、俺もお父さんとお母さんに会えるかもしれない!!」
カイトはそういって、ベッドに座っている私の隣にドスンと座り込んだ。
そして、顔をあげて私と目を合わせる。
「その、・・・今更だとは思うんだけどさ、迷惑だったかな?」
「え、そんな、・・・なんのこと?」
「その、冒険に連れてきちゃってさ、」
私はこらえきれず、「フフフ、」と笑った。そして、「今更すぎるよ!!」と言ってカイトを軽く叩いた。
そういうと、カイトは「いや、ほんとごめん」と謝ってきた。
「一緒に魔王を倒すっていう約束じゃん。一緒に、頑張ろうよ!」
「おっと、なんだかキラキラまぶしくてつい目が覚めちゃったぜ」
せっかくいい雰囲気だったのに、と思いながら私はフィンの方を見る。
彼は、ボサボサと頭を掻きながら「俺のことも忘れないでくれよ」とこちらに近づいてきた。
「フィンとは、そんな約束してないじゃん」
「それは酷いぜ、ずいぶんと一緒に苦難を乗り越えてきたじゃないか」
なんやかんや、彼ともう一ヶ月も一緒に冒険をしてきたのか。
街に居た頃からだから、二ヶ月以上も、だ。
しかし、カイトと私が一緒に過ごしてきた期間に比べれば、そんなものは屁でもない。
すると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「あ、俺が出てくるよ。俺の噂を聞きつけた可愛い子ちゃんかな?」
そういって、フィンが玄関へスタスタと歩いていった。
私は、ベッドから立ち上がり、自分の部屋に戻ろうかと思ったが、一応来客がどんな人かちょっと見てから帰ろうと思ったので、その場でなんとなくストレッチをしていた。
「はいはい、って、キミは?」
フィンの足の隙間から、少し姿が見える。
シルエットはフィンよりも頭一つ小さい。
「あの、僕勇者様がいるって聞いたんですけど、」
男の子の声だ。
なんとなく、カイトも小さい頃こんな声だったよな、と懐かしくなった。
「勇者様?なんのことだい?」
フィンは、無愛想にその少年に返事を返した。
「あの、僕も冒険に連れて行ってほしいです」




