第16話 不可避の円環
「フレイ!」
運が良かったとしかいいようがない。
教室で訓練を積んできた成果だ。
私はとっさにその場で跳ねた。
そうすれば、魔法は不発で終わる。
急いで声のした方を見る。何やら黒い影が路地の裏に消えていった。
魔法使いなんて、滅多にいない。
きっと、幹部に違いない!
「カイト!フィン!!来て!」
私は大声をあげて、一人で路地裏に入っていく。
すると、後ろから二人の足音が聞こえてきた。
しかし、彼らを待っているべきではないと判断した私は、路地の奥の方へと単身乗り込む。
人通りなど皆無なのだろう。
ジメジメとしており、とくに遮蔽物だらけなので暗い雰囲気が漂っている。
「出てきなさい!!」
私は杖を構えて、周囲を確認しながら慎重に進む。
「おい、なにがあった?」
カイトだ。
私は周囲を見回しながら、「さっき、魔法を使われた。奥に逃げていったの」と簡潔に状況を説明した。
すると、カイトが私のことをジロジロと見ながら「大丈夫だったのか?」と聞いてきたので、私は「大丈夫。逃げられない内に、追ってほしい」と答えた。
「俺、先行くよ」
私は止めようか迷ったのだが、フィンがそういって路地の更に奥の方へと走っていった。
「俺達も急ごう」
するとフィンの「いたぞ!」という声が聞こえてきた。
路地の端まで行くと左に曲がる道だけがあった。そして、そこを左に曲がると、黒いローブを着た男が立っていた。が、剣?を構えている。
「ルナは、サポートを頼む」
カイトが私の前に一歩でて、腰から剣を抜く。
相手も剣を使うのか。
ん、もしや、
「二人とも!」
二人は前を向いたまま「どうした」と声を合わせた。
「あいつの剣に触れちゃ駄目よ。魔法を使われるわっ」
私は必死だったので気が付かなかったのだが、フィンが「じゃあどうすればいいんだよ」と言ったことで正気に戻った。
落ち着いて考えよう。
しかし、これは厄介な相手だ。
おそらく、剣で接近した相手に剣を通して魔法を当てよう、という魂胆なのだろう。
ぶっちゃけ杖なんてなくても使えるのは魔法の良いところのハズなのだが、確かにこれはかなり賢い戦法と言わざるを得ない。
魔法の使えない瞬間も自分でカバーすることができるもんな。
「まあ、いいや。行くぞっ」
カイトが敵との間合いをジリジリと詰めていく。
敵の後方は行き止まりとなっている。圧倒的に私たちの方が有利なはずなのに、こちらがジリジリと追い詰められているような感覚になる。
『魔法は、接近すればするほど精度が上がるが、威力には大した差はない。ただ、一つ教えておこう。これは私が、もう三〇年もかけてようやく開発した技だからな。対魔法使い専用だ。しっかり覚えておくといいぞ』
「待ってカイト!」
私は、勇気を振り絞り彼の一歩前にでる。
こいつは魔法使いだ。ついでに、剣まで持っているのだ。かなりの強敵となる。
しかし、こちらには秘策があるのだから。
所詮は、魔法を使う人間なのだから。
相手も、私も。
「私が相手よ。せっかくだし、名前でも聞いておこうかしら」
背負っていた荷物を置き、杖を構える。
男は、少し嫌そうにしながらも、「名前は言うなって言われてるからな」と余裕そうに返してきた。
一番嫌がるのは、一対一の勝負だろう。
男が右手で剣を構え、そして左手でローブを持って体を覆うようにしている。
「お前らは冒険者だろ?最近、拠点を潰して回ってるって聞いて、厄介だなって思ってたんだよ」
男が被っていたフードをおろし、顔を出す。
意外と、若そうな男だった。それこそ、好青年というような爽やかな感じだ。
「一人でいいのかよっ」
カイトがそう言う。
「お仲間の言う通りだよ。お嬢ちゃん一人でいいのか?」
男もそれに乗っかってくる。
「私だって魔法使いなんだから、わかっていないとでも思ってるの?全部、わかってるわよ」
普通の戦闘なら、多対一は圧倒的に不利だ。
しかし、こちらにも私(魔法使い)がいるとなると、それは覆るし、男は剣も使えるみたいだから、多対一は逆に多い方が不利だ。
「大丈夫だから、一回私にまかせて」
私はまっすぐと敵の方を向いたまま、カイトにそう伝える。
カイトは、何も言わずに下がった。
男と私との間に緊張が走る。
男は、私の後ろにいる二人の様子もチラチラと見ながら、こちらの出方を疑っているみたいだ。
すると男は、剣を両手持ちに変えたかと思うと、「アクア」と呪文を唱えた。
男の剣の周りに水がまとわりつく。
と、男はその水が落ちる前にぐるりとその場で縦に一回転ジャンプをして、こちらに水の刃を飛ばしてきた。
カイトが私の前に立って、その刃を切り落とす。
私は、とっさのことに反応できずに立ち尽くしていた。
そして彼は前を向いたまま、「俺もいるから、大丈夫だよ」と言った。
せっかく、カイトにいいところを見せられるかもなって思ってたんだけどな、と思いつつも、私はカイトに「ごめん」と言った。
「大丈夫。俺とフィンのサポートをしてくれ。相手は、かなり強敵なんだから、」
せっかくだから、一人で戦って、良いところをカイトに見せられたらいいななんて考えていたので私はかなりしょぼくれていたのだが、なんとか気を持ち直そうと思い、自分の頬をパンパン、と叩いた。
ちょっとはやる気が出てきたかもしれない。
「おいフィン!!」
すると、後ろからフィンの「はいはい」という声が聞こえてきた。
「行くぞ!」
そういって、カイトが走り出す。
私も、二人の影に隠れて敵の死角となる位置に移動する。
男は、どっしりと剣を構えている。
カイトが斬りかかると、一瞬呪文を唱えようとしたのか口元が動いたが、そのカイトの後ろにいたフィンの動きに気がついたみたいで、カイトのことを蹴り飛ばした。
息をする間もなく、その隙をフィンが狙うが、こちらも男に防がれる。
私は、頑張って壁を登り、家々の屋根に移動した。
そして杖を構えて、「エンデュルカム!」と唱えた。
男はローブをこちらに投げて、魔法を防いだ。
フィンが男に斬りかかり、それを男は剣で受け止める。そして、男は「ウィンド!」と呪文を唱えた。
男の魔力が、剣を伝ってフィンの体は飛んでいく。
フィンは「ぐはっ」という声を出して壁に激突した。
そのカバーをしに、カイトが男に斬りかかる。フィンは、なんとか体を起こし、深呼吸をすることで回復を計っている。
「フレイ!!」
私の撃った魔法は、今度は、切り合いの最中に男が一瞬剣から手を離して一瞬空中に浮いた剣で受け止めるという離れ業を披露した。
これは、なかなか手ごわいぞ。
私は場所を移動し、作戦を練る。
カイトと男の斬り合いは、やや男が優勢となっている。そのうえ、男には魔法もあるのだ。
やっぱり、私がもっとちゃんとやっていればよかったんだわ。
しかし、そんなことを考えている内に、フィンが復活してカイトに加勢している。
ちゃんとしなきゃ、私。
男は切り合いの中で一歩下がり、二人に向かって「ロック」の呪文を唱えた。
ポロポロと、二人の服から小石が転がり落ちてくる。
「うわ、なにこれ!っペ、」
どうやら口にも入っていたようで、フィンはペっ、とつばを吐いている。
「油断禁物だぜ!!」
男がまた二人に向かっている。
次は、サンダーだ。
私は、男の口をしっかりと観察する。
二人の様子を見守りながら、チャンスを窺う。
「おい、フィン!」
カイトが歯を食いしばりながら男の攻撃を受け止める。
すると、男の口の端が動くのが確認できた。
今だ。
「アクア!」「サンダー!」
私と男の呪文が重なる。
私は、カイトと男に向けて呪文を放ったのだ。
二人をつなげる剣から、それなりの量の水がしたたり、地面の水たまりで二人がつながる。
そして、男の唱えた「サンダー」が水を伝って双方に伝わる。カイトは剣を落とすが、同じく男もそれを受けて一瞬、剣を握る力が弱まり、剣が手から滑り落ちる。
もちろん、その瞬間を私たちは逃さない。
私は屋根から飛び降りながら、男に杖を向ける。
フィンは、男の真正面から男に斬りかかろうとしている。
男も、剣は落としたものの、なんとか腕を動かし手をフィンの方に向けるが、これでは私に対してはなにもしようがない。
「死ね!!」「エンデュルカム!!」「ウィンド!!」




