第15話 魔法使い
「キャーっ、誰か!!誰か!!暴れてる!!人が暴れてる!!」
突然、悲鳴が聞こえてきた。
私とカイトがは声の聞こえたほうへ急いで向かうと、街の大通りの真ん中で、男が刃物を振り回して暴れていた。
だいたい三〇代くらいだろうか。そこまで若くは見えない。無精ひげが生えていて、髪の毛も生え散らかしている感じだ。
住民は、散り散りになって逃げていく。
「これは、俺達の出番かな、」
せっかく、楽しく買い物中だったのに。ついでにフィンもいなかったのに。
しかし、さすがに目の前で起きた暴動を見逃すわけにはいかない。
えっと、こないだサンダーまで使ったから、次は大丈夫だな。
こういう暴れている人にこそ、効果を発するのが魔法の良いところだ。
「動くなっ」
先に駆け出したカイトが、男の注意を引きつける。
その間に、私はこっそりと男の背後に回り込む。住民たちも、その隙に遠くへ逃げていったようだ。
「おい、お前は冒険者なのか?おい!!」
男の目は、かなり血走ってるし、声もかなり上ずっている。
「この街は狂ってる!!こいつらは、後先考えずになんでも使っちまう。セックスだけして、子供は捨てる。そんな場所だぞ!!」
まあ、その怒りも順当なものではあるが、
「それはそうだが、魔王だって大して変わらないさ。あんた、騙されてるんだよ」
とカイトが言うと、男は更に目を見開き、「黙れ!!」と言ってカイトに向かって走り出した。
「エンデュルカム!!」
男の背後から、杖を向けて、私は魔法を放った。
すると、男は泣きながらその場に倒れ込んだ。
「ナイス!!」
カイトがこちらにそういった。私は男に駆け寄る。
きっと、この人だって何か辛い過去があったのだろう。
カイトも、男の下へ駆け寄ってくる。
男は、声を押し殺しながらシクシクと泣いていた。
「大丈夫ですか?」
「いや、・・・すまない。ちょっと、もう耐えられなくて、」
少しすると、段々と野次馬が現れてくるが、もう戦闘が終わっていることに気づき、すぐに解散していった。
私のいた街なら、「そいつを早く警察に預けてちょうだい!!」とか「殺してしまえ」という怒号が飛び交うのが容易に想像できるが、この街では、そんな怒号は一切飛び交わない。自分が生きていればそれでいいのだ。
この男を糾弾しようとする人など、ほんの一握りしかいない。
ただ、結構な割合でこれをよしとしていない人がいるのもまた事実だ。
「いや、・・・その、妻に全財産を使われてね、子供も、妻がいつの間にか捨てていたんだ。それで、警察を頼ろうにも、その程度じゃ動いてくれないから、」
それは、妻が悪いだけだ。
まあ、考え方に問題があるのは事実だし、その考え方を流布しているこの街にも大いに問題があるのは確かなのだが。
もしかしたら、この街の方が魔王より問題なのでは、と思った。
「おい、噂を聞いたぞっ!!」
フィンがこちらに向かって走ってきている。
「ってあれ、もう解決したの?」
私は、「まあ、はい」と頷いた。
男は、泣き止んだようで、「ご迷惑かけてすいません」と謝ってきた。
「え、カイト。これでいいの?解決してないけど、」
私は、この男性に何かしてあげたほうがいいのでは、と思いカイトに尋ねたのだが、彼は「・・・そうだね」と渋い顔で言った。
「え、その、ご家族だって、」
「それは、」
と言ってから男は、「妻はもういいですよ。どうせ、この国ではその日暮らしですから。俺は、息子を探してきます」と言った。
「その、息子さんっておいくつなんですか?」
「もう、結構前の話ですからね。もう一〇歳くらいかな?まだ生きているといいんですけど、」
と男は力なく笑った。
「その、・・・」
「大丈夫ですよ。迷惑かけてすいません」
魔法のせいなのだろうか。でも、あのままだと彼は殺人を犯していたかもしれないではないか。
やはり、この街はおかしいのだろうか。
私たちには、ただ見送ることしかできなかった。
彼の姿がどんどんと小さくなっていく。
彼の人生に、幸あらんことを祈るしかない。
(回想)
「あのさ、明日なんだけど、」
どうしたの?
「ちょっと、・・・暇かな?」
明日は、えっと、・・・特に何もないね。
「あ、そうなんだね、」
なにかあるの?
「・・・そのさ、俺、伝えたいことがあるっていうか、」
・・・伝えたいこと?明日じゃないと駄目なの?
「まあ、いや別にそんなことは、・・・・・やっぱり、駄目。明日じゃないと!」
え、どういうことなのww
「その、とりあえず、明日予定開けといてくれ!」
まあ、わかったよ。
「いつもみたいに、校門の辺りで待っててくれればいいからっ」
りょうか〜い。
「明日の放課後な!!校門の前でね」
わかったよ。
(現在)
「お〜い、そろそろ出かけたいんだけど、」
私はベッドから勢いよく体を起こす。
一ヶ月泊まり続けた冒険者用の宿も、もうだいぶ見慣れたが、今日は少し見慣れない要素が加わっているみたいだ。
カイトが私の寝顔を覗き込んでいた。
「え、今どのくらい?」
カイトは窓から外の景色を見て、「まあ、昼くらいかな?」と言った。
「え、ごめん。急いで準備するよっ」
「別に、そこまで急がなくてもいいよ。今日は、まだ本番じゃないっていうか、下見の段階だからさ」
そうは言っても、もうここに滞在して一ヶ月程になり、主要な魔王軍の拠点もいくつか潰してきたのだから、次、いつどこで狙われてもおかしくはない。
「・・・ちょっと着替えるから出てって、」
「ああ、ごめんごめん。外で待ってるから」
そういって、カイトは部屋の外に出ていった。
私は、急いで着替え、トイレも済ませ、出かける準備をして部屋の外に出た。
「ごめんごめん」
カイトは、壁に寄りかかっており、私が部屋から出ると「お、」と一言だけ言った後に、「行こう」とくるりと回って出発してしまった。
私は、急いで彼のあとを追う。
宿の外に出ると、外にはフィンが待っており、「いや〜、邪魔してすまんね」といつもの調子で、私たちをからかってきた。
「何もしてないからっ」
「別に、そんなこと言われても誰も信じないからいいんだよ。ほら、さっさと行くぞ」
そういって、さっさとフィンは歩き出した。
「今度はな、かなり怪しいっていうか、多分幹部のいるところだ」
ようやく、か。
「その幹部は、どんな人なの?」
フィンがくるりと振り返って、後ろ歩きをしながら、「おうおう、よく聞けよ、」と言った。
「早く教えてよ」
すると、フィンが歩くのをやめて、ニヤリと笑ってから、「敵は魔法使いだ」と言った。
自然と、全身に力がこもる。
ついに、魔法使い同士の戦いになるのか。
「俺、魔法は慣れてるから、全然」
カイトがそう言うので、私は五年前のあの時のことを反射的に思い出してしまう。
あの、どうしようもなく悲しい気持ち、辛い気持ち。
一体どこから来るものだったのかわからないけど、でも、カイトを守る、という気持ちがより一層強くなった出来事だ。
「まあ、ルナちゃん。頼んだよ」
「え?一人じゃ無理だよ」
「ああ、えっと、その対策というかさ、俺も魔法使いなんて滅多に会わないからさ、」
魔法を使うには、才能がいる。
「魔力で相手とつながる」というイメージをする才能だ。
鮮明にイメージできるほど、魔法使いとしての実力は高いということになる。
威力にも、多少の差が出る。
まあ、威力があまり関係が無いから、ほぼ同じだと思っていればいいのだがな。
「カイト」
私は、隣を歩く彼の名前を言う。
すると隣から「どうしたの」と返事が返ってくる。
「敵と遭遇したら、真っ先に敵の杖を奪って。まあ、そんなに意味はないかもしれないけど、狙いづらくなるから」
カイトは「任せろ」と自分の胸を拳で叩く。
「フィンは、まあ他の敵をやってよ。魔法使いは、幹部だけでしょ?」
「まあ、そうだと思うけど。また、俺雑用なの?」
「でも、コンビネーションは私とカイトの方が抜群だもの、」
なんてたって、八年間ずっと一緒にいるわけだし、五年間冒険の修行もずっと一緒に積んできたのだから。
舐めてもらっては、困る。
「はいはい」
フィンはくるりと前を向き直し、そのまま進み続けた。
「魔法は、浮けば避けられるよ。それと、」
ただ、浮いて避けるのって結構現実的ではないんだよな。
着地した瞬間を狙われてしまうから。
魔法にはローテーションがあるから、弱い呪文が回ってくるその隙に攻撃をするのがセオリーだ。
「あとは、必ず盾になるものを何かしら持っておいて。その、本物の盾は役に立たないけど。投げられるものが一番いいね」
『いいか。魔法使い相手なら、とにかく先手を打つことだ。じゃないと、ほぼ負ける。弱点っぽいものは確かに色々ある。杖とか遮るものとか。でも、それらを踏まえても魔法使いはほぼ最強なんだ』
つまり、先手を打つしかないということだ。
「あのさ、ちょっと魔法を調節してもいいかな?」
この前は、ロックまで使ったはずなので次はサンダーと唱えれば良いはずだが、覚え間違いが一番危険だ。次に敵と遭遇したときに、「サンダー」と唱えた時に、何もでなかったら、それだけでおしまいだ。
私は道路の端っこの方で、そこに生えていた草に「サンダー」と呪文を唱えた。
しかしまあ、草に「サンダー」と唱えても意味が無い。
だがまあ、特に何も起きないということは、合っていたということだろう。
次は「エンデュルカム」だ。
準備万端。
カイトたちが近くの建物の壁に寄りかかって私を待っている。
私は、彼らのところに小走りで向かおうとした。
「フレイ!」




