第14話 洗いざらい
「じゃあ、知ってることを全部話してもらおうか、」
先程の、一番ガタイの良かった男がようやく目を覚ました。
そして、男はぐるりと周囲を見回してから「お前達は、なんなんだ」と聞いてきた。
「冒険者ですよ」
すると、「やっぱりそうか、」と言ってため息をついた。
「で、とっとと情報を教えてくれよ。魔王ってどこにいるんだよ」
フィンが男の首元にナイフを突きつけながら、男に問う。
「知らん」
「は?そんなことあるかよ?」
「知ってるけど言わないだけだ。そのくらいわかるだろ」
男は挑発的な態度で、私たちを見上げた。
「こいつ、殺してもいいか?」
「そのくらい我慢しろって」
カイトがフィンからナイフを取り上げた。
フィンは、「ああ、」と言って、大人しくなった。
「あんたは、幹部とかなのか?」
とりあえず、こちらには聞きたいことが山積みなんだ。
「別に、俺はただの下っ端だよ。幹部は、基本魔王様と一緒に行動してるからな」
男は、私たちを見上げながら言う。
少し、表情がニヤけているように見える。
「あんたらは、俺をどうするつもりなんだ、」
「決まってるだろ、ぶっ殺す!!」
大人しくなったと思っていたフィンが、カイトの首の辺りから顔を出して、そう言った。
「別に、どうもするつもりはない。街の外に捨ててくるだけだ」
カイトがそう言い直した。
男の表情は変わらない。
「まあ、関係ない程度には教えてやるよ。負けたのは事実だしな。このスーツたちは、この街の住人だ。もちろん、酒を飲んだりしてるやつもな。この街には、不安や自分の将来に対する恐怖みたいなのを抱えている奴らが、いっぱいいるからな」
男は私たちを見上げるのをやめて、目線を落としてそう言った。
「さっき、説明は聞いたんだろ?」
私たちは「まあ」と頷く。
「じゃあ、別にいいだろ。そういう感じで、俺達は信者を集めてるんだ。で、そいつらに街中で暴れさせる。これほど効率的なことはないさ」
効率的、という部分には概ね同意だがな。
私がそんな冷めた目で見ている横では、カイトが拳を握りしめて、怒りを殺しているように見えた。
なんだか、彼はやっぱり私には足りない何かを持っている気がするのだ。
「俺は、幹部に頼まれてここに来たんだ」
「なんか、家族を人質に取られているとかじゃないの?」
ついそんなことを聞いてしまった。カイトとフィンが私の方を振り向く。
「別に、そんなんじゃないさ。俺だってただの信者だ。こっちに来たって、大した金ももらえないし、まあ行かなかったら殺されてたかもしれないけどな」
なんにせよ、この感じなら、元凶を叩かなければ意味が無いのだろう。
「まあ、忠告しといてやるよ。この街には、いくつもこういうのがあるからな。幹部も一人、こっちに来ている。お前らも、どうせ目ぇつけられるだろうから、注意しとけよ」
そんな、忠告されるまでもないわよ。
「さてお二人とも。これから、どうするかい?」
「そうね、私またあのレストラン行きたい!!」
私は正直な気持ちを打ち明けたのだが、二人は「さっきの話聞いてたのか?」と笑っている。
「まあ、ルナが行きたいなら、俺も行こうかな」
そうカイトが言うと、フィンは「やっぱり、お前ら、」と言ってきたので、カイトがコツン、とフィンの頭を小突いて「まあ、ルナがそう言ってるからいいんだよ」と言った。
「まあ、そうだな。次にやるべきは、回復役を見つけるべきだと思うんだよ」
フィンがそう言った。
そういえば、もうパーティを結成することは確定してしまっているのか。
まあ、仲間は多い方がいいもんな。別に、フィンだって役に立つことはわかったから、まあ認めてあげてもいいか。
「そういえば、こっちには冒険者ギルドはないのか?」
とカイトが聞くと、男が「ギルドは、俺達が燃やしたさ」と答えた。
「一番の敵だからな。この街の警官は役に立たなくても、冒険者の中には、金目当てで信じられないくらい頑張る奴がいるからな。お前らも、そんなもんだろ」
と男がまたもや私たちを見上げながらそんなことを言った。
「おっさん、舐めてもらっちゃ困るよ」
とカイトが言う。
「そりゃ、金があれば嬉しいけど、俺は小さい頃から決めてるんだよ。いつか、お父さんとお母さんに認めてもらえる冒険者になるって。金なんかより、もっと大切なもののために頑張れるさ」
そう言い切る彼は、私にとってはものすごく眩しい存在だった。
私は、パン屋になりたいってずっと思ってたけど、でも、もっと大切なものが身近にあるんじゃないかって思ったのだ。まだ、幼かった頃に。
広い世界で、それを見つけられたのだから、だから、その恩返しをしたい。
ずっと、この気持ちは変わらない。
私は、カイトのことを見上げる。
「・・・どうしたの?なんかついてる?」
「・・・なんにもないよ」
するとカイトは、「あ、そうなの?」と少し不思議そうにしていた。
「まあ、目的がなんであろうが、世界中の冒険者が今、魔王を探しているんだ。せいぜい、頑張れよ。魔王の首が欲しいなら、敵は俺達だけじゃないからな」
この男は、ずいぶん悪役が似合うな。
すると、他のスーツの男たちも徐々に目を覚ましてきた。
誰も殺さずに切り抜けられたことは、少し安心だ。
「それにしても、こいつらホントどうするの?いっぱいいるぜ」
「仕方ないけど、警察に突き出すしかないだろ、」
さっきの、街の外に捨てるというのは冗談だったか。それならよかった。本気で言っているなら困るな、と思っていたところだったからな。
私も、「そうだね」と同意して、ひとまずこの騒動はこれで終わりになった。
とりあえずは、この街にいる魔王派閥の殲滅がこれからの目標だ。
しかしまあ、この選択は魔王に近づくものなのか、遠のくものなのか。
「俺達で、ここにいる魔王軍を全員追い出そう。この街の人たちだって、そっちの方がいいよ」
カイトがそういうなら、私は彼に従うまでだ。
「カイト、」
私はカイトの名前を呼ぶ。そして、彼が振り返る。
「でもさ、もう少し一緒に色々なところを見て回ろうよ」
そういって、私は彼に笑いかけた。
「ああ、・・・まあ、そうだね」
彼は私から目をそらして「さあさあ、早くこいつら警察に突きだそう」と言った。
自分でも、少し不思議なのだ。
彼のことを守ってあげたいと思う気持ちは、おそらく本当だろう。
なにか、大事なことを忘れているような気がする。
なんで、彼を守りたいと思うのか、という、大事な部分だ。
もっと、私の心に深く根付いている部分だ。
「おい、ルナも手伝ってくれ」
フィンが男二人を両脇に抱えながら言う。
「あのさ、警察に来てもらうのは駄目なの?」
と言うと、「あ、そっか」と言って男二人をそのまま落とした。
男二人の、「痛っ」という声が重なる。
しかし、ようやく冒険が始まったような気がする。
初めて、魔王軍と戦ったのだ。
私の思いは、昔から変わらない。
なんで彼を守りたいかなんて、冒険の途中で見つければいいのだ。
ようやく、私の旅が始まるんだから。




