第13話 ミス・アドベンチャー
「おい、くれぐれも変なことを言うなよ。興味があるっていうテイで潜入するからな」
私とカイトは、いつもの冒険用の服ではなく、実に庶民らしい服装に着替え、カイトは短剣を隠し持ち、私は最悪手の平を直接当てれば確殺の魔法が放てるので、それでいいだろう、ということになったのだ。
今は、地下に続く謎の階段を、フィンの後ろに続いて下っている。
階段は薄暗いが、下の方に何やら光っているものがある、と思ったら、扉の窓から光が漏れ出ているだけであった。
それにしても、なんだかジメジメとしていて生暖かい、気持ちの悪い場所だ。
「入るぞ。くれぐれも、変なことはするなよ」
別に、先程注意されたのだから一回で十分だ、と言い返そうとしたが、それを待たずにフィンが扉を開けると、一気に中の音がこちらの耳に届く。
男性の憤る声、酒を飲んでしゃがれた声、青年が夢を語る声、不満を互いに言い合う声。
「おい、誰の紹介で来たんだ」
さっそく、スーツ姿の男が私たちに詰め寄ってきた。かなり肩幅が大きく、近寄るものを抑圧する鋭い目線だ。
身長も、私の一回り大きいカイトの一回りは大きい。
「俺達紹介で来たんだ」
「だから、誰のだ?」
「シフォンさんだよ。仕立て屋の」
まあ、フィンの適当なハッタリだろう。知らない名前を聞いても私は表情を変えずに彼の後ろにぼっと立っていた。
すると、スーツの男は一度奥にいる仲間に相談した後に、「いいぞ。そいつから説明してもらえ」と言って、奥の方に消えていった。
フィンが後ろを振り返って、こちらに親指を立てた。
まあ、上手く行ったということか。私たちは、何も知らないからな。
「皆さんが、紹介されて来た人たちですか?」
私たちは「はい」と答えた。まあ、こんなに簡単に入れていいのかな?という気もするのだが、これだけいれば暴れられても人数で圧倒できるから、ということなのだろう。
彼らの一番の目的は、使える駒を増やすことなのだから。
それにしても、今度の男は、細いひょろひょろとした男だ。
目が開いているのかもわからないくらい細い、偽善者、と聞いて一番に思い浮かべる顔をしている。
「まあ、こちらに来てください。みなさん、だいぶお若いですよね。まあ、この街は若い人には本当に優しくない街ですからね」
まだこの街のいわゆる闇の部分を直接目で見たわけではない。
なのでなんとも言えないが、若い人に優しくないのはそっちも同じなのだろう。
「えっと、おいくつなんですか?」
「俺は二五、そんでそっちの二人が二〇だよ」
実に微妙なラインの嘘だが、私は表情を崩さないように軽く「二〇なんですよ」というフィンの言葉に合わせて頷いた。
「そうなんですね。ほんと、そういう方にはぴったりですから」
と言ってから、色々と説明をされた。
ただまあ、共感できる部分が皆無だったわけではないが、所詮は魔王に都合よく作られた組織、もといルールなのだ。
簡単に言えば、「魔王を信じれば、世界の破滅及び人間が無意識に重ねてしまう罪から逃れられる」ということだ。
実に、因果関係がない話だ。
そりゃ、そういう人もいるでしょうね、と言いたくなったが、ぐっと堪える。
かなりの時間話を聞いたところで、フィンが「ちょっとトイレに行ってもいいですか」と男に言った。
男は、「ここにはないので、外でしてきてください」と言ったので、フィンが一度外に出ることになった。
二人きりか。
こんな状況じゃなければ、嬉しいんだけどな。
「お二人は、どういう関係なんですか?」
「ああ、俺達幼馴染なんですよ」
私もカイトのセリフに「そうなんです。ずっと一緒で」と同調した。
「やっぱり、アルネストの人々に不満とかがあったんですかね?」
「まあ、そうですね〜」
そう言いながら、私は周囲を見回す。
おそらく、スーツを着てる男たちが魔王の息のかかった者なのだろう。他の談笑しているおっさんや青年は、ただの街の住民のはずだ。
カイトの方を見る。
そして、カイトもこちらを見てくる。
まあ、さっそく暴れますかね!!
「あの、飲み物ってありますかね?」
私は男に尋ねた。
「ああ、すいませんね。持ってきますね」
男が一度席を離れた。
カイトが「準備できてる?」と小声で聞いてきたので、私はうん、と頷く。
まあ、ここに私たちを入れた時点で、魔王側の負けなのだ。
あとは、それなりの人から情報を聞き出せるかどうか、だ。
魔王討伐が、最終的な目標だからな。
外で、フィンも準備をしていることだろう。
「水でいいですかね?」
男が木のコップに水を入れて持ってきた。
私は手を伸ばす。そして、男の出しだすコップがちょうど私の右手に触れたタイミングで「サンダー」と唱える。
すると、男は言葉を発する間もなく、その場に倒れた。
「よし、行こう!!」
異変に気がついたスーツたちが近寄ってくる。
先程サンダーを喰らわした男は、当分起きないだろう。
「おい、大丈夫か、」
彼らだって、これが事故とは思っていないだろう。
『魔法は円環だ。そして、六つの属性がある。火、水、風、土、雷、そして最後が、』
お姉さんから教室で教わったことを思い出す。私は、向かってくる男たちに手のひらを向ける。
「エンデュルカム!!」
『これを見て、生きて帰った者はいない。なんて、大げさなことを言うけれども、まあ、最後の呪文だ。これは、自分と円環でつながった相手に安息を与える魔法だ』
「おい、起きろって」
「どうしたんだよ」
男たちは、まったく焦る様子なく、ノロノロと倒れている男に近寄っていく。おそらく、冗談で倒れているんだろう、くらいに思っているのだろう。
手を開いた分、一人ひとりに対する効果は薄いが、十分だ。
相手を強制的に油断させる、最終奥義と言っていいだろう。
まあ、魔法使いなら誰でも使えるけどね。
倒れている男に近寄る男を、カイトが短剣で刺す。すると、残りの男たちにも緊張感が戻る。
「おい、集まれ!!」
今度は、男一人に狙いを定める。人差し指を指して「フレイ」と唱える。
「熱っ、おい、うあああああああああ!!!」
炎が服を伝ってどんどん広がっていく。
カイトも、近寄ってくる男に短剣一本で立ち向かう。
「おい、逃げるぞ!!」
そう叫んだのはおそらく、談笑したり語り合っていた街の住民だろう。しかし、出口にはフィンが待ち構えているのだ。
すると、先程一番最初に入口で会ったガタイの良い男が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
なるほど、ラスボスということだろうか。
まだ、他にも男たちが数人残っているというのに。
私は、カイトの横に立つ。
「おい、お前ら何者なんだよ?」
特に表情を変えるでもなく、ガタイの良い男が私たちに話しかけてきた。
「お前ら、魔王の手先なんだろ?俺達が、ぶっ飛ばしてやるよ」
杖がないといろいろと不便だが、大丈夫だ。
「アクア!!」
ただ、水を発生させて対象を湿らす魔法。
まあ、あまり役には立たないが、滑ればいいな、という期待を込めて呪文を私たちと敵との間の床に放つ。
彼らも魔法は使えないとしても、仕組みくらいはわかっているのだろう。
ここは、魔法のローテーションをどんどんと回していくべきだ。
もう一度人差し指を指し、「ウィンド」と唱えたが、敵がとっさに近くにあった椅子を盾にしたので、防がれてしまう。
椅子が宙に浮いていたので、効果はなくなってしまう。
しかし、その瞬間、カイトが間合いを詰めて、短剣を敵の腹を思い切り殴り、敵が吹っ飛んでいった。
「どんどんやってくれ!!」
カイトが叫ぶ。
もちろん、わかっているわよ。
「ロック!!」
カイトが敵を乱した隙に、私は下っ端の男に呪文を放つ。
こちらも、アクアと同様に石を発生させて相手に嫌がらせそするだけの魔法だ。
男のスーツの袖から小石がジャラジャラと出てくる。
これは、ハズレ魔法だから仕方ない。が、いやらしさはトップクラスだろう。たまたま、人間に与えられただけの能力なのだから、贅沢なことは言えないな。
もちろん、その男のこともすぐにカイトが殴り倒す。
「クソガキが!!」
一番ガタイの良い男が、カイトに向かって剣を振り下ろす。カイトは短剣を取り出して、それを防ぐ。こうなってしまうと、カイトが盾になってしまうので、私は迂闊に呪文を唱えることができない。
あと手下が一人いるから、そっちを倒そう。
「こっちよ、」
私と手下の男が向き合う。
彼の手には、木皿が握られている。これで、魔法を防いだ隙に距離を詰めるつもりなのだろう。
しかし、大して問題はない。
私は男に近寄っていく。
男は少し困惑しながらも、皿を盾のように持ち、反対の手で剣を構えていた。
しかし、臆すること無く私は男の方に、少し迂回しながら近づいていく。
「お前は捕まえたら、俺が好きなようにしてやるよ。その体、美味そうだよな、」
「下品だわね。でも一つ言わせてもらうと、そんなのは無理よ」
そういって、私は男の側方から「サンダー!」と魔法を放つ。
男は、なんとか皿を投げて対処する。が、この次に待ち構えているのは、皆さんおわかりの通りだ。
防がれないように手を広げて、「エンデュルカム!」と放つと、男は剣を捨ててゆっくりと殴りかかってきたので、私は体勢を低くしてそれを避ける。
そして、男の腹に直接手のひらを触れさせて、「フレイ」と呪文を放つと、男の体は一瞬で炎に包まれた。
「うああああああああ!!」
ホント、魔法ってすごいわよね。
「アクア」
そういうと、炎は自然と弱まっていった。男は、その場に倒れた。
さすがに、このまま死なれるのは寝覚めが悪いもの。
私はカイトの方を向く。
「なかなかやるなっ」
「おっさんの方こそ、結構早いじゃない、」
キン、という刃と刃のぶつかる音が鳴り響く。
かなり激しい斬り合いが行われていたが、さすがに短剣では分が悪い。
「止まりなさい!!」
私は、ガタイの良い男に人差し指を向けて、そして脅しをかけた。
呪文は、即効性が非常に高い。相手に直接作用するからな。
「次は、あなたをふっとばすわよ」
二対一だ。
男は、剣を構えたまま攻めあぐねている。私とカイトを交互に見て、悩んでいるようだ。
それなら、何も問題はない。というか、もう勝ったようなもんだ。
決して、この地下の部屋は広くないのだから、この距離で魔法によって吹き飛ばされたらたまったものではないだろう。
私は、右手の人差し指をピンと伸ばし、それをしっかりと男の方に向ける。そして、右手首をしっかりと左手で掴んで、狙いがブレないようにする。
男は、まだ動けずに固まったままだ。
私は、カイトと目配せをする。
おそらく、男もそれに気がついたのだろう。
「ウィンド!!」
男は、とっさに着ていたスーツを脱いで魔法を防ぐ。
その隙にカイトが男に殴りかかる。
「クソ、」
男がくるりと踵を返し、出口に向かって走っていく。
「待て!!」
男が出口に向かって走っていく。だがしかし、そちらにはフィンが待っているのだ。
一応、私も追いかける。
そして、男が扉を開け、数段階段を登ったところで、観念したように床に座り込んだ。
座り込んだ男の手足を、カイトがしっかりと縄で縛る。
程なくして、フィンも階段を下りてくる。
「あ、終わったの?」
「終わったよ」
私がそう答えると、彼は扉からひょっこりと顔を出して、部屋の中の状況を見て、「魔法は怖いね」と言った。そして、「ほんと、ルナちゃんに似合ってると思うよ」
と言った。
なんとなくムカついたので、私はフィンをぶん殴った。




