第12話 正当侵入
「おい、俺について来い」
私は、何度も辺りを見回して「どういうことなの?」とフィンに問い続けた。
「だから、俺が中に入れてやるよって言ったろ?だから、入れてやったじゃないか」
「おい、お前普通に城の門から入っただけじゃねえかよ!!」
今朝、並ぶ人が少ない内に並び、私たちは呆気なく検問を突破して街の中に入ることができたのだ。
って、違う!!
いやまあ、そうだったんだけど、そういうことじゃなくて、
こいつ、昨日騙しやがったということだ。
いや、騙されてはいないのか。変に勘ぐって、「普通に入るのは無理なのか」と勝手に勘違いしていたのだ。
いや、それはれっきとした詐欺みたいなもんだろ。
いや、最初に「俺達みたいなのは入れてもらえない」って言ってたよな。
じゃあ、詐欺野郎だ。
ついでに、私の着替えも覗こうとしたし。
「カイト、こいつぶっ殺していいよ!!」
私がそういうと、カイトは「それはさすがに、」と言ってきた。
「まあ、それなりの仕事をしてもらえればいいんだよ。でも、使えなかったらボコボコにするからなっ。あと、お前何歳なんだよ?」
「俺は一八だよ」
「俺達一五だぞ」
フィンは「あ、そうなの?若いね」と言ってきた。
年上か。
気色の悪い、
「まあ、この街じゃ三つくらいの年の差なんて関係ないさっ」
といっても、別に私がいたあの街と大して変わらないだろ、と思う。
もう少しで昼、という時間帯だが、結構な数の人が行き交い、馬車も結構頻繁に見かける。
通りには色々な店が立ち並び、そこからは住民たちの歓声やらが聞こえてくる。賑やかな街だ。
「でも、こうやって今通り過ぎたおっさんが、魔王の手先なんてこともあるわけだ」
私とカイトは、今すれ違ったおじさんの後ろ姿を見た。
普通の、紳士っぽい人だ。ハットを被って、これから仕事にでも行くのだろう。
それが、魔王の手先という可能性もあるのか。
そう思うと、そんな危険が潜んでいるというのに、この街の人たちは呑気なもんだ。
「みんな、よく平気で外になんて出れるよね」
「ここの住民は、適当なんだ。その日の金を稼いで、それでその日の内に使えばいいってみんな思ってるんだよ」
なんだ、それは。
まあ、それで成り立っているならそれでもいいとは思うが。
「だから、あんまり明日のことなんて考えてないってことなの?」
彼に教えてもらうことは不本意ではあるが、私はそうフィンに尋ねていた。
「ああ。だからこそ、それに疑問を持つ人間たちが魔王の訓えに感動しちゃって、そういう暴動を起こすってわけだ」
私とカイトは「へえ〜」と同時に口に出していた。
「で、あんたは何者なのよ。なんで、ここのことにそんなに詳しいの?」
少し前を歩くフィンに、そう尋ねる。
すると、彼は止まって、ゆっくりとこちらを振り返ってニヤリと笑い、「ただの、冒険者だよ」と言った。
ふと隣にいるカイトの顔を見たのだが、彼も訝しげな顔をしていた。果たして、こいつを信用していいのやら。
「まあ、街に来たらまずは美味いものだろ」
そういってフィンは前を向き直すと、私たちに向かって「ついて来い」と言った。
そうして、私たちが彼について行ったら、意外にも街の上品なレストランに連れて行かれた。
実に、厳かな雰囲気で、とてもじゃないが、こんな格好は似つかわしくない、というかきっと門前払いだろうと思っていたのだが、フィンが「ちょっと待ってて」と言ってレストランの中に入って、そして出てきて「入っていいって」と言ってきたので、私たちも入ることになった。
正直、こんな格好で恥ずかしいったらありゃしないのだが、私たちは個室に案内された。
個室は、カーテンで仕切られており、外からは完全に見えなくなっている。
他の部屋もそうだ。
それにしても、レストランにこんな個室があるのか。
私は、かなり感動していた。家のパン屋にも、こんな部屋を作ったらおしゃれになるのではないだろうか。
「まあ、こういう作戦会議はこういうところで立てるのが一番だな」
そういってからフィンは偉そうに店員を呼びつけ、「一番高いコース三人前」と言った。
「あの、お金って、さすがに」
「ああ、さすがに割り勘だね」
こっちは「さすがにあんたが払うんだよな?」って聞きたかったんだ。
ゴミがよ。
「カイト、お金ある?」
「ああ。まあ、一度も使わなかったからね」
そういって、カイトはジャラジャラと小銭の結ばれた紐を私に見せた。
まあ、これだけあれば大丈夫だろう。
私も、全然残っているし。
「まあ、作戦だな。やっぱり魔王を捕まえるにも順序っていうのがあるからな」
カーテンに遮られた空間にいる三人。テントよりもよっぽど狭く感じる。
「お前は、何か知ってるの?」
カイトがフィンに尋ねた。
「俺もお前らと同じ冒険者なんだ。なんにも知らないさ」
と言ってから、「ただまあ、昔ちょっとだけこの街に住んでたからさ、」と言った。
さっきは、「ただの冒険者だよ」って言われただけだったけどな。
「まあ、簡単に教えるよ。とりあえず、ここの奴らは、基本この街から出ていくっていう発想が無い。だって、今が一番なんだから、明日のことなんて考えないからな。まあ、その後はさっき言った通りだ。とりあえず、この街に不満を持つ奴がいっぱいいる。捨て子とかわんさかいるし、物乞いもわんさかいる。まあ、俺達がさっき通った大通りには、そういう奴らが出たらすぐに警察に連れてかれるから居ないけどな」
全然、予想もしなかった世界だ。
それに、いまいちわからなかったのだが、そういうことだ?
「そいつらを駒にして、暴動を起こして混乱を引き起こそうっていうのが、あいつらの魂胆だ。魔王は、所詮はただの悪人だ。そりゃ、この街だってどうかしてると思わなくもないけども、別にそいつらを殺さなくったっていいわけだもんな」
なんだかんだ、今まで魔獣しか相手にしてこなかったからな。
ついに、人を相手にするとなると、不安な要素は沢山ある。
特に、魔法使いはかなり対策されやすいからな。命中すれば、かなり強力だが。
とはいえ、魔法使いの専門分野は対人戦なのだが。
「で、まあ地下にそいつらが集まる場所があるんだ。とりあえず、そこだな」
するとカイトが「なんで、そこまで知ってるんだよ。それに、有名なら、この街の警察が動いてもいいんじゃないのかよ」と言った。
「いや、俺しか知らない。だから、警察も知らない。警察だって、どうサボるかしか考えてない連中なんだから、そんな面倒なことはしないさ。まあ、その日どうサボるか、もしくは犯罪なんてのは起きてから対処すればいいって思ってる奴も多いから、実に厄介だ」
短絡的というのだろうか。
その日暮らしというやつなのだろう。
すると、何やらいい匂いがしてきた。カーテンがガラガラと開き、料理が届いた。
「ほら、食べてくれ」
サラダが届き、そしてその後にメインディッシュであろう麺が届いた。それにしても、麺なんて初めてなのではないだろうか?
おそらく、ドロドロになったチーズが使われていて、燻製の肉を小さく切り刻んだものが入っている。
美味しそうだ。
まあ、私のパンも負けないと思うけどね。
「え、なにこれ!!めっちゃ美味いじゃん!!!」
カイトがそう言って、麺をドンドンと口に運んでいく。
私はカイトを睨みつける。
その目線に気がついたカイトは、フォークを動かす手の速度が明らかに落ちた。
「いや、まあまあ美味しいけどね、」
カイトは自分の感想を即座に訂正した。
私だって、せっかく頑張ったのに、と思ったのだが、あの時のことは忘れることにしたじゃないか。
思い出す度に、自分の小ささが嫌になる。
「ハア、」
「ホント、ごめんって、」
彼が謝ってきたのをスルーして、私も、サラダを少し食べたあと、フォークで麺をすくい、数本口の中に入れた。
確かに、ものすごく美味しい。
が、純粋に喜ぶ気にはなれなかった。
「仲良しだね〜」
そう言って、フィンがニヤニヤと私たちのことを見てきた。
「まあ、話の続きだ。だから、そこに侵入して情報を聞き出そう。別に、手下なんか後回しにして魔王を殺してもいいんだからな。あんま、急ぐなよ」
フィンは、慣れた様子で、フォークをぐるぐると回して、丸めた麺を口に放り込んでいる。
ああ、こうやってやればいいのか。確かに、こちらの方が一気に口に運ぶことができる。
早速私が実戦していると、フィンがそんなのはお構いなく話の続きを喋りだした。
「まあ、今日の内に色々と遊んでおいてくれよ。あと、事件には巻き込まれるなよ」
と言ってから、「まあ、夜の方がお楽しみなのかな」とニヤリと笑いながら言ってきたので、私とカイトは声を合わせて「違うからっ」と言った。
そんな様子をケラケラと笑いながら、フィンは楽しそうに見ているのであった。




