第11話 新参
魔王退治、というよりは魔王発見のための旅を始めて、もう一月程になる。
野営にも慣れてきたのはいいものの、途中途中での住民からの依頼なんかは、結構大変なことが多い。
「昨日、大変だったよね」
私は、隣を歩くカイトにそう話しかけた。
「結局、力仕事が一番きつよな、」
まだ明るい。
昨日は、麦の収穫を手伝わされた。まあ、パン屋の娘だった私は、「これがパンになるのか」という感動も少なからず感じたが、それとこれとは別だ。
どこもかしこも、魔獣に悩まされているわけではない、ということだ。
「次は、どこに行くの?」
「あれだよ。今度は村じゃなくて、結構栄えてる街に行くよ。アルネストっていう街だよ。なんか、魔王軍の攻撃が結構頻繁に来るんだって」
「でも、卑怯だよね。魔王ってやつもさ」
ピッピ、と鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「だからこそ、早く見つけてとっちめないと」
魔王も、ただの人間だ。
自分の手下を街などの人が沢山いる場所に行かせて、そこで事件を起こさせる、という実に卑怯な人間だ。
「わかんないのかな?魔王軍の人間だって」
「そりゃわからないようになってるでしょ。多分、普通の人のフリをして魔王軍の幹部みたいなやつが街の人を勧誘してるんでしょ」
魔王軍と言っても、具体的には、魔王を教祖とする新たな宗教を信仰する人たちのことなのだ。魔王の理想の世界を作るために、彼らは躊躇なく人々を攻撃する。
私が居た街では、まだそんなことは街の内部では怒っていなかったが、街によってはかなり危ない場所もあるらしい。
というわけで、私たちはそんな危険な街に行くのだ。
「やっと、お父さんからもらったお金が使えるよ」
村に泊まっては、野営しての繰り返しだったからな。
やはり、街での暮らしが恋しい。
ちゃんとしたお風呂にも入りたいし、たまには他人が作った美味しいものを食べたい。それに、一人でベッドで眠りたい。
「あ、あれじゃない?」
森を抜けると、遠くの方に石で出来た大きな城門が現れた。
これは、かなりデカい。というか、こんな門があるなら、ぜひとも魔王軍の侵入も防いでほしかったものだ、と思うが、そういうわけでもないのだろう。
しかし、問題があった。
なぜだか、門の周りには多くの冒険者がテントを張っていたのだ。
城門には、かなり長い列が出来ており、そして、ただの城門とは思えないほど兵士がいた。
検問をしているのか。
私の街では、入り放題だったけどな。
城門の周辺には木が生えておらず、枯れ草しか生えないような痩せこけた大地が広がっている。
そこに、テントが貼られているのだ。
「これ、大丈夫なの?」
私はカイトに聞く。
「とりあえず、並んでみようよ」
そういって、列の最後尾に並んだ。
前には、私たちと同い年くらいの戦士が一人並んでいた。
それにしても、列が長い。
「あのさ、そこのカップルよ、」
突然声が聞こえたかと思えば、前にいた戦士だ。
「俺達、冒険者です。見ての通り」
カイトがすぐに訂正したが、「じゃあ、カップル冒険者だ」と彼は言い直した。
「邪魔していい?」
「はあ、」
「わかんないかね?俺も入れてよってことだよ」
なんなんだ、こいつは。
「あの、誰ですか?ていうか、別に誰であろうと関係ないですけど、失礼な人とはパーティは組めません」
男は剣を腰に刺していた。
戦士ならばカイトがいるし、十分だ。
できれば、神官とか回復役が欲しいからな。
あと普通にムカつくし。
「さっきから見てるとね、冒険者はみんな弾かれてるよ。この街の外の人は、入れるつもりはないみたい。特に、俺達みたいなやつは」
「あの、あなたも魔王を追って、来たのですか?」
カイトがこの失礼野郎にそう尋ねた。
私は、「話しかけなくていいよ」と言って彼の手を引っ張ったのだが、その様子を失礼野郎が羨ましそうに見ていた。
実に、不愉快だ。
「ああ、そうだよ。自己紹介してやるよ。俺、フィンっていうの。よろしくね」
男が手を差し出してきた。
私はプイ、とそっぽを向いたので、カイトが代わりに握手をしようとしたのだろうけど、男は「そっちの姉ちゃんに握ってもらいたいの」と私の方に手を向けてきた。
「サンダー」
「痛っ、」
いいザマだわ、なんて思っていたら、男は当たり屋みたいに「うわ、これ一生治んねえわ。おい、これどうしてくれるんだよ」と私たちに詰め寄ってきた。
「ちょっと、カイトこいつどうにかしてよ!!」
「でも、ルナが変なことするから、」
まあ、それはそうかもしれないけど、
「おい、どうしてくれるんだ!!おい、お前だよお前!ほら、動かねえよ。おい、触ってみるか!!」
男があまりにもうるさいので、私たちは男を連れて列から外れた。
列から離れると男は静かになったかと思いきや、「じゃあ、今日からよろしくな」と先程と同じように手を差し出してきた。
「別に、いいんじゃない?こんな奴が居ても、」
「え、それでいいの?こんな奴だよ?」
「仕方ないよ。こんな奴でも、親もいれば息もするんだから」
「でも、私こんな奴嫌だよ」
男はこちらをジロ、と見てきて「さっきから聞こえてますよ」と言ってきた。
「じゃあ、いいですよ。その、俺が役に立つって証明すればいいよね?」
私は、こんな奴は問答無用でどこかへ吹き飛ばしてしまえばいいと思ったのだが、カイトは「じゃあ、そうするか」と簡単に彼の要望を受け入れてしまったのだ。
「じゃあ、俺がこの中に入れてあげるから、それで仲間に入れてくれよな。入り方を知ってるんだ」
私は男から少し離れた場所にカイトを呼び寄せ、「なんか、普通に怪しくない?魔王軍かもよ」と言った。だって、なんかついさっきカイトと話していた魔王軍幹部じゃないか、と思ったのだ。
「それならそれで、どっかで情報でも聞き出せるかもよ」
「でも、殺されたらどうするの?」
「大丈夫だよ」と言ってから彼は親指をぐっと立てて「俺が守るから」と答えた。
ホント、こういうところだよ。
と、いうわけで、この男、えっと、フィンが仲間になった。
「あ、でも今日のところは一旦野営だな。明日、お前たちを中に連れて行ってやるよ」
「あの、お金とかはいいの?」
まだ、金を払えば中へ連れて行ってやる、と言われたほうが信頼できる気がしたのでそう言ってみたが、彼は「仲間にしてくれればいい。ずっと一人でつまらなかったんだ」と答えた。
別に、私はカイトと二人でも良かったんだけどな〜。
私はそんな寂しい気持ちを押さえつつ、テントを組み立てて夜に備えた。
周りには、同じような冒険者が同じようにテントを組み立てていた。




