■08計画書の作成と現地調査
さて、先にも言ったがレオパルドが考えている地域の活性化案とは、今は廃れてしまったダンジョンの再利用である。つまりリニューアルだ。
但しどこかから魔物たちを連れて来てダンジョン内に放すとかいうものではない。
いや、それはそれで安全さえ担保できれば動物園的な需要があるかも知れないが、レオパルドが考えていたのはまた別だ。
それは魔石が枯渇してしまい誰も潜らなくなったダンジョンを新人冒険者育成用に改造して研修施設として活用しようというものだった。
これに似たようなものは冒険者ギルドの本部にもトレーニング施設としてあったが、それらは建物内部を改造してダンジョンに見立てたものなので規模も小さく、また臨場感が皆無であまりトレーニングにならないと不評だつたのである。
更にレオパルドは別の廃ダンジョンをアトラクション化する構想も持っていた。こちらは言わばお化け屋敷のダンジョン版である。
なのでまず来場者には仮の冒険者ライセンスを付与し、ダンジョン内に用意されたクエストをこなしてもらい、その出来具合でランクアップ等の特典を提供するというものだった。
まぁ、平たく言うとオリエンテーリングのようなものである。ただそれに冒険者ごっこという要素を付け加えたのだ。
だが、口で言うのは簡単だが実行するには幾つも壁がある。そのひとつが安全対策だ。
本来ダンジョンに潜る際の掟は『安全と弁当は自分持ち』というのが鉄則だ。なので冒険者たちは仮にダンジョン内で負傷や遭難しても自力で戻る事を強いられるのだ。
だが、アトラクションでそんな規則を適用したらたちまち閑古鳥が鳴いてぺんぺん草が生えてきてしまう。
なので、ダンジョン潜入という刺激はそのままに、見えないところで安全を確保しなければならないのが『ダンジョン・アトラクション計画』の難しいところなのである。
とは言え、安全に関しては危険な場所はダンジョン毎に違う。なのでレオパルドは、まず目星をつけた候補地のダンジョンを視察する事にしたようだった。
そのダンジョンとは、先頃『おばちゃんず』の活躍により殲滅された人身売買グループが拠点としていた三角山ダンジョンである。
「あーっ、エレベさん。僕はちょっと出かけてきます。要件は『ダンジョン・アトラクション計画』の候補地の視察で、場所は三角山ダンジョンです。ただ帰りがいつになるか判らないので後の事はお願いします。」
「あら、おひとりでですか?こう言ってはなんですがダンジョンに単独で潜るのはあまり褒められた事ではないんですけど・・。」
「えへへ、まぁそうなんですけど、あのダンジョンならばこの前の事件で潜ってますし、そもそも廃棄されたダンジョンですから魔物もいませんしね。」
レオパルドの言い訳にそれでもエレベは納得しなかったようだ。なのでシャンセをギルド長室に呼んで、お供するように指示を出した。
「シャンセ、これからギルド長が三角山ダンジョンに視察に行くそうです。なのであなたバディとしてついていって下さい。ただどれくらい時間が掛かるか読めないので、あなたの子供たちは私が預かっておくわ。」
「おっ、なんとエレベ公認でギルド長とデートを命じられてしまった。しかも遅くなっても構わないなんて、ウチの旦那の泣きそうな顔が目に浮かぶわ~。」
「何言ってるのよ、馬鹿。と言うかあなたの旦那さんはここぞとばかりに羽根を伸ばすと思うんだけど?」
「あはははは、そうかもね。それじゃ行きましょうか、ギルド長。因みに魔物が出た時は私が対処しますから、ギルド長は私が吹き飛ばされないように後ろからぎゅっと抱きしめて保持して下さいねっ!」
「あっ、はい。判りました、任せてください。そして、よろしくお願いします。」
いや、レオパルドよ。多分シャンセはボケたんだから、そこはもう少し別の反応をしないと漫才コンビは組めないんじゃないかな。
まっ、もっともレオパルドはまだ22歳だからね。そこら辺のアドリブは無理か。
なのでボケが滑ってしまったシャンセも、別にそれを取り繕うともせずにレオパルドと並んで三角山ダンジョンへ向かったのだった。
そして場面はいきなり三角山ダンジョンの最深部に変わる。
元々このダンジョンにはスフィンクスという魔物が住み着いていたのだが、300年ほど前に勇者ボナパルドによって攻略されお宝類は全て持ち出されてしまった。
ただ一説によるとその際に持ち去られたお宝は囮で、本当のお宝はまだダンジョン内に隠されている・・かも知れないと噂されていた。
まぁ、あくまで噂である。そもそもこのダンジョンはかなり昔に魔石精製能力自体が低下していて、魔石の発掘コストが見合わなくなった為に破棄されたのだ。
なので実際最深部の広間には金貨一枚すら落ちていない。いや、それどころか、過去にここまで潜ってきた冒険者パーティや盗賊たち、もしくは魔石発掘者たちが捨てていったゴミが散乱していて広間の半分以上は足の踏み場もないくらいだった。
「うわー、マナーが悪いなぁ。工事が始まったらまずはこれを片付けないと。」
そんな広間をランプで照らしてレオパルドは残念そうに呟いた。
その呟きにシャンセが突っ込みを入れる。
「ギルド長、燃えるごみは月曜日と木曜日が収集日ですけど、この量だと拒否されるかも知れません。なのでゴミ処理施設に直接持ち込まないと駄目でしょうね。勿論燃やさないごみと分別した上での話です。」
「あっ、そうなんですか?まぁ、本来ならば産業廃棄物として処理しなきゃならないんだろうけど、見たところお弁当の空き箱とか、使い捨ての簡易水筒とかが殆どっぽいから見逃して貰えるかな。」
「ゴミの下から白骨死体が出てきた場合は面倒なので見なかった事にして埋めちゃいましょう。どうせこんなところで死んだやつなんて仲間割れした盗賊とかでしょうから。」
シャンセが怖い事を言ってきたが、何故かレオパルドもそれに同意した。まぁ、そこら辺はこの世界故の感覚なのだろう。そう、ここは異世界なのである。
その後もレオパルドたちはダンジョンのあちこちを確認し、この分岐ルートは紛らわしいから塞いでしまおうとか、この空間はもう少し拡張して休憩場にしたらどうだろうなどと話しあった。
ただ、全体的な印象としては、最深部のゴミの山も含め、まずはあちこちに散らばっていた魔物の白骨死体を片付けなきゃならないと言う事で話がまとまった。
そう、現役のダンジョンならば死体などは下位の魔物や昆虫たちが綺麗に平らげてくれるのだが、このダンジョンではそんな循環システムが破綻しているので、まずは片付けから始めなければならなかったのだ。
それでも魔物の死体が残っているということは、たまには魔物が中に進入していたと言う事である。
まぁ、それらは大抵小物だったようだが、中にはBランク級っぽい骨もあった。
そして今、そんな上位魔物が運悪くこのダンジョンに進入してきていたのである。
その魔物の種名は『アラクネ』。上半身が人間の女性で下半身が蜘蛛の魔物である。その背にはどこかで狩りをしたのだろう、結構大きな鹿が白糸に包まれて乗せられていた。
因みに上半身は人間の女性と説明したが、それは見た目がそうなだけで別に人間の女性が蜘蛛と合体した訳ではない。
まぁ、その部分は言わば対人間の男性用の撒き餌である。もしくは擬態。つまりアラクネはその裸体に引き寄せられて鼻の下を伸ばしながら近づいてくる人間の男性を捕まえて食べるのだ。
ただ、待ち伏せて得物を狩るのならば戦闘力は低いのかと言うとそんな事はなく、その鋼鉄よりも強靭と言われている白糸を駆使して、アラクネは時にAランクの魔物すら絡めとり絞め殺してしまうとも言われていた。
そして運悪くレオパルドたちはそんな魔物と狭いダンジョンの中で鉢合わせしてしまったのである。
そして初めに相手に気づいたのはアラクネの方だった。なのでアラクネは背負っていた得物を床におろすと、地形を一瞥し待ち伏せモードに入った。
そこに何も知らないレオパルドたちが奥からやってきたのである。そんなレオパルドたちにウラクネは絶妙なタイミングで白糸を吐き出した。
その白糸はたちまちレオパルドとシャンセそれぞれに絡みつき、あっという間に簀巻きにしてしまった。その間たったの3秒である。
だが、勝ち誇ったようにレオパルドたちに近づいたアラクネは、次の瞬間全身を業火に焼かれて即死してしまった。
そう、シャンセの火炎魔法『アチチ』がアラクネに命中したのだ。
更にシャンセは自身をぐるぐる巻きにしている白糸をも火炎で焼き切ってしまった。そして体が自由になると、次にレオパルドに撒きついている白糸も綺麗に焼いてしまったのである。
そう、鋼鉄よりも強靭と言われているアラクネの白糸も実は熱には弱かったのだ。
しかし火炎で焼ききるのはどうなんだろう?よく自身は火傷しなかったな。何か要領があるのだろうか?
しかし、しんな突然の出来事にレオパルドはまだ状況が飲み込めていないらしい。なので目を白黒させてシャンセに質問したきた。
「い、今って何が起きたんです?」
「あーっ、アラクネに待ち伏せされました。そして白糸でぐるぐる巻きにされたんですけど大丈夫。白糸って熱に弱いから対処は簡単なんです。」
「アラクネですか・・。でもアラクネって通常Bランク指定魔物ですよね?」
「そうね、でもそこはほら、相性ってやつがあるのよ。だから火炎魔法を使う私にはアラクネはそんなに脅威な魔物ではないの。」
「はぁ、そうなんですか・・。でもまぁ、ありがとうございます。助かりました。」
「どう致しまして。それじゃ帰りましょう。今から帰ればまだ子供たちも寝ていないと思うから会えるし。」
「あっ、はい。少し急ぎましょうかね。のんびりしているとまた別の魔物に会うかもしれませんし。」
「ふふふ、その時はギルド長のお手並み拝見といきましょうか?」
「勘弁して下さい。僕はAクラス級の魔法使いに見せられるような技量は持ってませんよ。」
「あら、謙遜するのね。でも噂ではギルド長ってS級の実力があるって聞いていたんだけどな。」
「誰ですか、そんなヨタ話を吹聴しているのは。そもそもS級の能力なんか持っていたら冒険者ギルドでサラリーマンなんかしていませんよ。ハイファーン支部とかで高額なクエストをこなして左団扇です。」
「ははは、まっ、そうゆう事にしておきましょうか。」
そんな他愛もないお喋りをしながらふたりは帰路についたのだが、魔物と一戦を交えたのにいたって普通なんだな。
むーっ、これがこの世界の常識なのだろうか?だとしたら転生者はかなり面食らうのではないだろうか。
まぁ、そこら辺はおいおい慣れてゆくしかないのだろう。
そして今も暗闇では姿こそ見えないが魔物や魔獣の気配がそこかしこから届いている。
そう、ここは異世界。魔法と剣、そして勇者と魔王がいる世界なのであった。




