■02パートのおばちゃんたちのお喋り
さて、レオパルド・バーンスタインが到着する少し前、エッセニア支部では既にお昼ご飯を済ませたパートのおばちゃんたち4人が、食後のお茶を飲みながら新任のギルド長について噂しあっていた。
因みにおばちゃんたちの肩書きは『総務』である。つまりなんでも係だ。なので緊急の依頼などが入った時はおばちゃんたちが対処する場合もある。
その時のパーティ名は『ストリング・カルテット』。うん、なんだかおぱちゃんたちっぽくない名前だが、これは和名だと『弦楽四重奏』という言葉になる。つまり音楽用語だ。
なので、それに合わせてパーティ内での各人の呼び名も、『1stバイオリン』『2ndバイオリン』『ヴィオラ』『チェロ』であった。
注:あくまでパーティ内での呼び名なのでギルド内での通常業務時には使われません。
うん、なんだかおぱちゃんたちっぽくない名前だが、多分気にしたら負けだ。
そんな『ストリング・カルテット』の最近の活躍は遠地でどこぞの勇者と戦い負傷し、一時撤退という建前でこの地に逃亡してきたAランクドラゴンを、S級魔術『せっかくだから』にて捕縛し、篭絡魔法『アメちゃん食べる?』で懐柔して別世界のアニメ製作事務所が募集していた役柄へ就職の斡旋をした事だろう
。
余談ではあるが、その後このドラゴンは異世界系アニメの様々なアニメに出演し、特に某スライムアニメではかなりの人気を博したらしい。
うん、侮りがたし、おばちゃんパワー。
更におばちゃんたちはその高いコミュニケーション能力にて地域の人たちの話し相手、もしくは相談役として活躍し、今ではなくてはならない存在になっていた。
とは言っても、通常は支部内で雑務をこなすパートタイマーでしかない。そして今もおばちゃんたちはお茶菓子片手に大好きなお喋りに夢中であった。
そんなおばちゃんたちの今日の話題は何と言っても本日赴任してくる新しいギルド長の事だった。
「ねぇ、今日新しく来る支部長って、なんでもまだ22歳なんですってっ!しかも公認ではないんだけどS級の実力を持っているって話よ。」
「えっ、わか。なに?もしかしてコネ採用された社長の親族の張ったり実績作りと腰掛け赴任なの?」
「ううん、縁故採用ではないみたい。なんでも18歳で王都のアカデミーを優秀な成績で卒業して、入社3年足らずで幾つもの成果を挙げ、冒険者ギルド史上最速、および最年少でギルド長に任命されたんですって。」
「へぇ~、それは凄い。超エリートなのね。でも、それでもS級は盛り過ぎよ。そもそもそんな優秀な子がなんでこんな過疎支部に飛ばされたのよ?一体何をやらかしたの、その子は。」
「まぁ、大きな組織では出る杭は打たれるって言うからね。多分真面目過ぎて周りからウザがられちゃったんじゃないかな。で、とっととギルド長に就任させてここに追い出したのかも。」
「ふ~ん、前のギルド長とは真逆ね。あいつは役員たちにあれこれ画策しまくり過ぎて失敗し、ここに島流しになったんだものね。」
「はははっ、その話を聞いた時は笑っちゃったわよねぇ。その癖私たちには偉ぶるんだからタチが悪かったわ。」
「私、あいつのお茶には毎回雑巾の絞り汁を数滴入れてやったもの。」
「それはエグい。私は精々本部からあいつ宛に届いた書類を2、3日放置したくらいだわ。」
「あーっ、あの顔を青ざめさせながら本部に出かけた時ね。なによ、あれってあなたのせいだったの?」
「ふふふ、前月の決算に粉飾の疑いありって密告しておいたから、その件に関する召喚命令書だってのは判っていたからね。なので工作する時間をなくさせたの。」
「ナイスっ!そっか、あいつが降格されて、新しいギルド長が来る事になったのはあなたのお手柄だったのね。」
「まぁね、そもそも私はもう10年もここに勤めているのよ?あいつなんかよりも断然ここの内情には詳しいの。そんな私にあんな態度をとったらどうなるかを教えてあげたのよ。」
「10年かぁ、その間に何人ギルド長って代わったんだっけ?」
「えーと、10・・8人。いや3日でいなくなっちゃったやつもいたから19人かな。」
「成る程、ならば今日赴任してくる子は20人目ね。むーっ、今度は何日持つかしら?」
「優秀らしいけど、そうゆう子って割と折れやすいっていうからねぇ。でもある意味スレていないかも知れないから結構すんなり馴染むかもよ?」
「そう言えば6人前のジジイは慣れ過ぎちゃって、定年までいたもんね。」
「あのじいさんは元々役職定年させる為に昇格させてここに島流しになったんじゃない。だからもうここにいた1年間、本当に何もしなかったわよね。日がな一日新聞を読んでいるか、趣味だったらしいラノベ小説を書いていたわ。」
「私たちよりも完璧に9時出社、5時退社だったもんね。まぁ、下手に仕事に口出しされるよりは全然楽だったけどさ。」
「あーっ、そうゆうやつもいたねぇ。ここの実情を何にも知らない癖に業績を上げろってほざいていたやつが。その挙句にひとりでダンジョン視察に行って帰ってこなかった。」
「まっ、勤務中の行方不明として処理されたから弔慰金も出たし、ご家族の方々も重荷が肩から降りて内心喜んでいたんじゃないかしら?あいつ、家庭内ではかなり横暴だったらしいから。」
「そうなんだ・・。でも奥さんは一応、公の場では涙していたけど。とは言え私、奥さんがタマネギのエキスを染み込ませたハンカチを目元にかざしていたのは知ってたわ。」
「うん、まぁ、家庭内の事情はあんまり推測しちゃ駄目よ。」
「でも、あの枯れちゃったダンジョンで行方不明になるなんて、どんだけ間抜けだったんだか。仮にも冒険者ギルドのギルド長だったのに。」
「まぁ、強い魔物はいなくても盗賊や犯罪者の隠れ家になっていたかも知れないからね。そもそもスライムだってキングやゴールド辺りだと手ごわいらしいし。」
「手ごわいってた言ってもスライムでしょ?冒険者ギルドのギルド長がスライムに喰われたなんて、それが行方不明の真相だったらちょっと公表出来ないわよね。」
「うん、調査に来ていた本社の調査官も書類を作るのに困っていたわ。そして結局捏造したみたい。」
「えっ、てことは本当にスライムに食べられちゃってたの?」
「お茶を出しに行った時にちらっと聞こえちゃったんだけどね。消化されなかった服からスライムの消化液反応が出たんですって。」
「あらら、マジか。でも確かにそれは公表できないなぁ。仮にもギルド長だったんだから。」
「なので死亡ではなくて行方不明としたらしいわ。あっ、行方不明ではないけど、3日で出社しなくなっちゃったやつは結局どうなったんだっけ?」
「あれは医者に重度の精神疾患という診断書を書かせて依願退職の形にしたわ。うん、本当にここに赴任してくるやつって駄目なやつらばっかりよねぇ。」
「そうゆう意味では、今度のギルド長もなんかあるのかな?」
「どうだろう、まっ、見たら判るでしょ。さて、お昼休みも終わるし仕事に戻りましょう。」
「はーい。とは言ってもこれと言って急ぎの仕事はないんだけどね。新任のギルド長の歓迎会の準備はもう終わっていて、後は受付ルームの場所が空いたら飾り付けをするだけだし。」
「それでもなんかしている振りをしておかないと、新任のギルド長に舐められるわ。」
「むーっ、ならばクエストの依頼数を偽造しておくべきかしら?」
「そんな直ぐバレるような事は駄目よ。そもそもここって求職者がいないんだから。」
「サクラとして何人か呼んで来ようか?」
「ジジイたちが何人いても意味は無いわよ。まっ、新任のギルド長もここの現状は書類を読んで知っているでしょうから普通どおりにしましょう。」
「それもそうね。」
なんともお気楽と言うか、達観していると言うべきか、おばちゃんたちはあくまで平常運転で新しいギルド長を迎えるようである。
まぁ、もっともおばちゃんたちはあくまでパートだからな。職歴は長いらしいが正職員ではないので組織運営にはノータッチだ。ならばこんなものなのだろう。
と言うか話に出ていた歴代のギルド長たちが問題あり過ぎなんじゃないだろうか?もしかして本当にエッセニア支部って冒険者ギルド内の左遷用支部なのか?
後、お茶に雑巾のしぼり汁は可哀想なので止めて下さい。いや、そうしたくなるような人物だったんだろうけど、そこはせめて椅子に画鋲を落としておくくらいに・・、いや、それも酷いか・・。
そしておばちゃんたちが業務に着いたのを見計らうように新任のギルド長であるレオパルド・バーンスタインがたった今到着した振りをして支部の扉を押し開けて着任したのだった。
まっ、実際には外で中の様子を伺っていたのでおばちゃんたちの会話は丸聞こえだったんだけどね。うん、耳がいいな、レオパルド・バーンスタインっ!




