■01昔の栄光、今はいずこ?
ここは異世界。誰がなんと言おうと異世界である。
そして異世界と言えば当然世界観は中世欧州風だ。また世界制服を企む魔王とそれを阻止しようとする勇者がいるのも鉄板である。
と言うかこのふたりがいない異世界など所詮パチモンでしかない。つまり異世界とは魔王と勇者がいる世界が正統なのだ。
だがこの異世界には魔王と勇者とは別に、強力なチカラを持った伝説的な『種族』が過去に存在していた。
その種族の名は戦闘種族『ヤサイ人』。しかし戦闘種族『ヤサイ人』は根っからの戦闘好きだったので子孫を残す事にあまり興味を示さなかった。
なので生まれてくる子供の数よりも戦闘で喪失する人数の方が上回り続け、ついには絶滅してしまったと言われている。
しかし人々にとって戦闘種族『ヤサイ人』のインパクトは忘れられるものではなかったらしく、今でも生き残りがいるという噂は絶える事は無かった。
因みに本来世界『征服』と書くところを世界『制服』と印したのは単なるネタなので突っ込んではいけない。
そして異世界の制服、特に女性冒険者のそれは当然『ビキニアーマー』だっ!
いや、『ビキニアーマー』の真偽に関してはちょっと眉唾モノだが、異世界モノのもうひとつの定番である『冒険者ギルド』はこの世界にもちゃんと存在した。
そしてこの異世界の冒険者ギルドの業務は冒険者相手の許認可交付や能力ランクの認定、およびジョブ仲介だけではなかった。
そう、この世界の冒険者ギルドは様々な業種を傘下に収め多種多様な事業を展開するコングロマリット企業(複合企業)なのであった。
そんな冒険者ギルドの本部は、この異世界でもトップクラスの経済力と武力を擁するウロナ王国の王都にあり、それ以外の主要な国には支部が置かれていた。
更には範囲が広過ぎて支部だけでは細部まで手が届かないような地域には出先機関として『営業所』が設けられていた。
つまり冒険者ギルドはこの世界において『人間』が支配する場所の殆どを営業地域として活動していたのである。
と言うか、場所によっては魔王と協定を結び魔王領でも活動していた。そして道理が通る場合、冒険者ギルドは密かに魔王側に立ち、人間側の支配者たちと対立するケースもあった。
そう、この世界の冒険者ギルドは時に義理人情ではなく経済循環を根拠として活動する利益追求型の組織だったのだ。
そんな巨大組織である冒険者ギルドは、軽く中堅クラスの国の年間予算を凌駕する売上高を稼ぎ出す超優良企業であり、それ故に本部のあるウロナ王国へは莫大な法人税が納められていた。
注:支部の法人税は支部がある国へ納めるのだが、会計上のマジックを駆使して支部が得た利益の何割かは本社にロイヤリティとして移されるので、冒険者ギルド全体の利益は本社に集まってくる仕組みとなっている。
なので、ウロナ王国にとって金の卵ともいえる冒険者ギルドはウロナ王国から手厚く庇護され様々な企業特権を付与されており、特に独自の武力集団の保持が認められていた。
この事から、冒険者ギルドは多くの国々からウロナ王国の影の国家機関、または国を持たぬ武力集団として見られ扱われていた。
なので中堅どころの国の王家でさえ冒険者ギルドに対しておいそれとは口が挟めず、弱小国においては冒険者ギルド支部からの法人税と、金融部署からの『裏の借り入れ金』が国家収入を支えていたりするのでその影響力は絶大なものであった。
そんなウロナ王国のひも付き組織とも言える冒険者ギルドであったが、冒険者ギルドはあくまで民間企業なので各国が承認しなければその地に支部を置けない。
故に各支部は本社から『機密費』が分配され、それを各国の王族たちにばらまく事によって活動を保障されていた。この機密費が先に言った『裏の借り入れ金』である。
そして支部は、基本それぞれの地にて独立採算制にて経済活動を行っていた。まぁ、ある意味フランチャイズのようなものである。
その理由は地域毎の特殊性を鑑み全社一律の画一的な運営では齟齬が生じるからだ。なので支部の長であるギルド長には本社から大きな権利が与えられており各地の支部は独自裁量でその土地の状況に合わせた経済活動を行っていた。
そんな支部の数は現在33。それとは別に経済規模と営業範囲の狭い地域には営業所が置かれ、それらの数は333箇所に及び、今も数が増え続けている。
とは言え、冒険者ギルドは民間企業なので売り上げが芳しくない地域からは撤退する場合もある。特に管理するダンジョンが枯れた地域は規模を縮小、または名前だけを残して放置してある支部や営業所もあった。
そんな支部、営業所の中で現在一番の稼ぎ頭が『ファンタジア王国』に拠点を置く『ハイファーン支部』だ。
この支部の営業範囲には有望なダンジョンが幾つもあり、活発な冒険者活動が行われていたので売り上げも群を抜いていた。
もっとも最近は『ロマンス王国』の『エンゲージ支部』が、人々の鬱憤やストレスを発散させる妙薬である『ザマァニウム』の鉱脈を探り当て、『ハイファーン支部』を凌ぐ活況を見せていた。
とは言え全ての支部が常に黒字決算という訳ではなく、少なくない数の支部が本部からの支援を得てなんとか活動をしているのが状況である。
特に『アザー王国』にある『エッセニア支部』は色々と問題を抱えていた。その問題とは管轄地域内のダンジョンからの収益減少と、地域住民の少子化及び高齢化である。
つまり生産従事者数の減少に伴う生産量の減少と、米や麦などのベース作物からトマトやコーンなどの高単価作物への転換失敗により離農する者が増えたのである。
もっともそれらの者たちの内、若者は殆ど冒険者にジョブ替えしたので、冒険者ギルドとしてはユーザーが増え願ったり叶ったりなはずだが、如何せん『エッセニア支部』には増えた冒険者を養えるだけの高品質なダンジョンがなかったのだ。
なので冒険者にジョブチェンジした者たちは、チャンスを求めて他の地域へ移住してしまい、結局『エッセニア支部』にはダンジョンにチャレンジするには歳を取り過ぎたロートルと、他に行く路銀すら賄えないルーキーだけが残ったのだった。
そんな活気の無い『エッセニア支部』に今、新しく就任する事になった支部長が王都からの街道を馬車に揺られていた。
その者の名は『レオパルド・バーンスタイン』。今年22歳になったばかりの若者である。
そう、レオパルド・バーンスタインはまだ若干22歳なのだ。だがその年齢で支部長に抜擢されるくらいだから相当優秀なはずである。
そんなレオパルド・バーンスタインは18歳でウロナ王国のアカデミーを優秀な成績で卒業後、冒険者ギルドに入社し、僅か3年足らずの間に幾つもの成果を挙げて、冒険者ギルド史上最速、および最年少で支部長に任命された、冒険者ギルドの長い歴史の中でも一番の出世頭であった。
ただ、そんなレオパルドの躍進を快く思わない者も多く、その者たちは裏で冒険者ギルドの上級役員たちに手を回し、ある事ない事難癖をつけてレオパルドを問題ありありなエッセニア支部に『追放』したのである。
とは言え、腐っても大企業冒険者ギルドの支部長の肩書きは魅力的だ。それに傾いた支部を建て直せれば、その実績は高く評価される。
つまりエッセニア支部への赴任は、レオパルドにとってハイリスクではあるがハイリターンも有り得るある意味博打のようなものだったのである。
そして今、レオパルドはアザー王国のエッセニア支部の建物の前に立っている。
しかし、本来ならば冒険者たちで溢れ返っているはずなの支部の受付ルームでは、近所に住むジジイたちが無料のお茶をすすりながら世間話をし、母親がパートに出ている間預かっているのか、数人の餓鬼んちょたちが大人しく壁に掛けられた映像出力鏡で『魔王と勇者』の動画を観ていた。
うんっ、ここは町の集会所、もしくは託児所かっ!地域に貢献しているな、エッセニア支部っ!
でもまぁ、それも仕方ないだろう。なんせ壁に張り出してあるクエストの依頼数は両手で事足りる程でしかなかったし、その内容も畑の草むしりや迷子になったペットの捜索といったものばかりだったのだ。
これではまともな冒険者がこの支部に来る訳がない。
いや、エッセニア支部も昔は賑わっていたのだ。それこそこの地域では分裂魔法を使いポイントの実を荒稼ぎして闇市へばら撒き市場を混乱させる魔物や、根拠の無い王国の悪い噂を吹聴しまくって人々を不安がらせる魔物などが闊歩しており、それらの魔物を狩る為に多くの冒険者が集まっていたのだ。
だが、それも今は昔の話である。冒険者たちによってそんな魔物たちの巣であったダンジョンは攻略され尽しこの地域は平和になった。
だが、その代償として冒険者たちは対価を得る仕事がなくなってしまったのだ。なので多くの冒険者たちはこの地を離れ、ハイファーン支部やエンゲージ支部へと活動の場を移して行ったのである。
まぁ、これは規模の小さいダンジョンではままある事である。鉱山などでも鉱物を取り尽くしてしまうと、人々が去り町がゴーストタウン化してしまうのと同じだ。
なので本部ではエッセニア支部も廃止すべきではないかとの声もあった。
しかし廃止するにも何かと面倒が多い。特に支部からその地域の王家に流れていた『金』が途絶える事を大抵の王家が嫌がったのだ。
なので本部も、それら王家から授かっていた利権を手放すのを躊躇し、それらの金は半ば捨扶持と考え、規模を縮小し名目だけの支部とする事に会議で決定されたのである。
なのでエッセニア支部は支部でありながら配置される正職員は支部長だけだった。つまりレオパルド・バーンスタインただ一人である。
そして事務仕事や受付嬢などの必要最低限の要員は現地にてパートを募ってこれに当てていた。
まぁ、この事に関してはレオパルド・バーンスタインも事前に調べていたので落胆することは無かった。
逆に本部での煩わしい権力闘争から離れられる事に満足したくらいである。
何故ならばこの支部ではレオパルド・バーンスタインはギルド長であり、一国一城の主である。つまりここではレオパルドを縛るものがなにもないのだ。と言うか、正職員はレオパルドしかいないのだが・・。
それに組織の建て直しはある意味遣り甲斐のある仕事だ。この支部を昔のように活気に溢れるものとし、散ってしまった冒険者たちを呼び戻す事が出来ればレオパルドを陥れた者たちに対しても煮え湯を飲ませられるはずだ。
だが、実際の現状を目の当たりにしたレオパルドは、これは一筋縄ではいかないなと心の中で呟いたのだった。




