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エピローグ

「田中〜、申請書できてるか?」



「今日! 今日中には絶対に上げます!」

「おー、んじゃ俺帰るから頑張れよー」


「お疲れ様でした〜……」


日本に帰ってきてからというもの、何かが劇的に変わることもなく、私は毎日先輩にこき使われながら今まで通りに働いている。今日も今日とて絶賛残業中だ。


弊社は偉い人から順に帰るという社風(最悪) のため、いつも私が最後の1人になる。


静かなオフィスで1人、大きく伸びをして一息つく。



驚いたことに、日本に戻った瞬間は時間が全く進んでおらず、私は住宅相談会の我が社のブースで、ペンを握りしめたまま突っ立っていた。


私の制服のポケットに、あの真っ黒な羽ペンが入っていなければ、あの怒涛の一ヶ月はただの過労による幻覚か夢だったと思ってしまっただろう。


戻ってきた当初の二、三日は思い出に浸り、時には夜一人で涙を流すこともあった。

けれど……そのしんみりした感傷は、あっという間に引っ込むことになる。


なぜなら――


「やっほ〜サクラ、遊びに来たよ」


「また来たんですか!私、今絶賛仕事中なんですが!? 会社にまで来るのは遠慮してくださいって言いましたよね!?」


「うん、だから遠慮してるよ? ほら、身体ちょっと透けてるでしょ」


「……魔界では半透明だと遠慮してることになるんですか?」



この通り、魔王は結構な頻度でこちらの世界にやってきている。ポポタンが寝たあとに来ているらしく、来るのはいつも真夜中だ。


一番最初に来た時は、日本に戻った3日後、仕事を終えて帰る直前だった。真っ暗な会社の廊下に突如として現れた黒い影とコウモリに叫び散らかすほど驚いて、それが魔王だと気づいた後にもう一度叫んだ。


魔王曰く「え? だって『またね』って言ったじゃん」とのこと。


……いや、そんな軽い感じで、しかも頻繁に来るなんて思わないじゃないか。


「永遠の別れ」だと完全に思い込み、ドラマのヒロイン気取りで涙をこらえて「またね、シリウスさん!」なんて叫んだあの日の自分を思い出すと、今すぐ穴に入って叫び出したくなる。


こんな日常系コントみたいな展開になると知っていれば、あんな痛いヒロインムーブなんてしなかったのに……!



「魔王さんって本当にマイペースですよね。もうとよっと気を使ってくれてもいいのに。私だっていろいろと都合があるんですけど」


「すごいなあ。魔界の王に気を使わせようとするのなんて、サクラくらいだよ」



本人に愚痴を言うとケラケラと笑われた。態度を改める気はなさそうだ。


仕事が終われば魔王とは自販機のお茶を飲みながら、くだらないおしゃべりをしながら家路につく。


魔界にいた頃とあまり変わらない、穏やかな時間だ。



ちなみに、「次に会った時」に教えてくれるはずだった『名前を教えた理由』の答えは、煙に巻かれたままでまだ教えてくれない。


けれど……どうやらこれからも、私と魔王の世界はこうして交わり続けていくみたいだ。

まあ、急ぐ必要はないか。



仕事の合間に現れる不法侵入な彼に呆れつつ、私は気長にその答えを待ってみようと思う。




☆☆☆


後日魔王から報酬として大量の玉露を貰いましたが、完全に持て余しています。


※もし面白かったら、下部の【☆☆☆☆☆】で評価やブックマークをいただけると大きな励みになります!


一章は完結ですが、続き(第二章)も構想中です!

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