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愛の讃歌  作者: 石原裕
第四章 秘めた愛

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第3話 信子、メニエール症状群を患う

 時の流れは早かった。気が付けば、高井が初めて「あだち」に顔を見せてからもう二度目の夏になっていた。

仕事が早く終わった金曜日、高井が珍しく午後七時前に「あだち」にやってきた。何時ものようにカウンターの奥の隅の椅子に腰かけた彼の前に六十歳中半の女性が立った。

「高井さんですわね」

「はい、そうですが・・・」

「大女将の安達多江でございます。毎度ご贔屓にして頂き、また、嫁や孫が大変お世話になりまして、真実に有難うございます」

「いえ、別に、そんな・・・」

高井は恐縮して曖昧に返答した。

「で、今日は、女将さんは?」

「嫁は先程から立眩みと眩暈がして、今、二階で暫く休んで居ります。で、私が替わっている次第です」

「そうですか、それはいけませんね。立眩みと眩暈ですか?少し心配ですね」

高井は何事かを思案する様子を示した。

「如何でしょう、うちの会社の病院で診察を受けられては?救急総合病院ですから夜間も全科が開いていますし、今なら時間的にも大丈夫ですから・・・何なら自分が直ぐに電話を入れますが・・・」

「そうですか、そうして戴けると助かりますわ。お願い出来ますか?」

高井は表へ出て夜診の内科の医師に電話を入れ、店内に戻って大女将に言った。

「病院へは自分が車で送ります。直ぐに車を取って来ますから準備をしておいて下さい。あなたもご主人もお店がありますから信吾君は自分が一緒に連れて行っても良いですよ」

「助かります、有難うございます」

 

 高井は信子と信吾を連れて、裏口から病院の中へ入った。

暫くして、内科から依頼を受けた耳鼻咽喉科の医師が信子を診察してくれた。

診察室に入った信子は直ぐに寝台に寝かされて安静にするように言われ、それから、そのままの姿勢で医師の問診が始まった。眩暈の状態や普段の生活等について問い質した後、医師が訊いた。

「どうです、未だ眩暈は続いていますか?」

「いえ、今のところ治まって居ます」

「そうですか、それじゃ少し検査をしてみましょうか」

行われたのは、「血液検査」「眼振検査」「聴力検査」「重心動揺検査」の四つであった。これらの検査を行って、眩暈の原因が何であるかを調べていくのだと言う。診断の結果はメニエール症候群と診断された。

 メニエール症候群とは、耳や脳などには問題がなく、原因が不明で、眩暈や難聴や耳鳴りなどの症状を繰り返す疾患の総称であり、三十代後半から四十代前半に発症することが最も多く、比較的女性に多発する病気であった。

「メニエール症候群の原因は未だ十分に解明されてはいません。ですが、内耳の自律神経の異常や血行不全、リンパ圧の昂進、アレルギー、水分代謝の異常による内耳内の水分貯留、ホルモンバランス、頚椎疲労、胃弱、ストレスなどが原因ではないかと言われています」

「ストレスで眩暈が起こるのですか?」

「はい。薬だけでは治らないことが多いので、生活習慣を改善することやストレスを取り除くことも重要です。メニエール症候群はその原因が不明なことが多く、投薬と経過観察を行って治すこともあれば自然と治ることもあります。眩暈は何時起こるか判りません。発作が出た場合は処方された薬を飲んで安静にすることが大切です」

医師はそう言って、めまい止めの薬の他に精神安定剤やビタミン剤、血管拡張剤や吐き気止めを処方してくれた。

幸いにして、その後、信子に眩暈が発生することは無かった。信子も義父母も高井に大いに感謝し、とりわけ信子は彼に心からの信頼を寄せた。


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