9話 ~戦いの火蓋~
王立士官学校、円形決闘場。
すり鉢状の観客席をギチギチに埋め尽くした数多の野次馬たちの熱気が、肌を突き刺すどころか火傷させんばかりに渦巻いている!
その狂熱のド真ん中、魔法で増幅された実況アナウンスの絶叫が、鼓膜を激しく揺さぶった。
「さあさあ、お集まりの紳士淑女の皆々様! 本日、ここ王立士官学校・血の円形リングで繰り広げられますのは、まさに歴史の地殻変動! 身分制度の厚い壁をぶち破る、前代未聞のデスマッチでありますッ!」
アナウンサーは一旦言葉を区切って観衆が声を張り上げるための時間をつくった。
「まず青コーナーから入場いたしますのは、虐げられた同級生を救うため、入学初日にして早くも特権階級の虎の尾を力一杯に踏んづけた、命知らずの超新星! 今年から導入された新制度の荒波に乗ってやってまいりました、まさに平民界の最終兵器、歩く反逆のカリスマ! ピーターーー・フランシス入場でありますッッ!!」
入場ゲートから姿が見えた途端、観衆は地鳴りのような大歓声を爆発させた。
緊張が限界点を突破して、右手と右足を同時に動かしながら入場するずんぐりむっくりの少年ピーター。
「対します赤コーナー! 平民ごときに舐められてたまるかと、その燃え盛るプライドはまさに格式のシャトー! 伝統という名の鎧をまとい、無礼な新入生を合法的に処刑せんと立ち塞がるは、名門貴族の申し子三人衆! バーモンド! ビョンビョーン! そして緑の突撃重戦車、ブロッコリーーーーーンの三名だぁぁああっ!!」
入場ゲートから三人の姿が見えた途端、観衆は地鳴りのような大歓声を再び爆発させた。
「一対三という、これ以上ない不条理! ルールが認めた合法的なリンチの構図! しかし学長の言葉を借りるなら、勝った者が正しい、これぞ世界の道理であります!果たして順当に貴族の鉄槌が平民の星を粉砕するか! その結果をしかと見届けましょう!」
リングに上がったピーターの脳内パニックが限界点を突破し、心臓が爆発寸前になったその時だった。
対戦相手である貴族の子息三人衆の姿が、ふとピーターの涙目に映った。
「……あれ?」
よく見ると、彼らの顔面は驚くほど真っ青だった。
血の気が完全に引き、唇はガタガタと震え、まるで極寒の雪山に放り出された遭難者のようになっている。
どうやら彼らも、人生最重量級のプレッシャーをかけられてきたらしい。
「……負けたら退学って学長言ってたぞ……何でこんなことになってんだよぉ……」
「やばいよ、やばいよ……僕……退学なんてなったら勘当だよ……」
「うう、帰りたい……助けてママ……」
三人は肩を寄せ合い、ガタガタと震えながら小声で泣き言を言い合っている。緑の突撃重戦車と煽られたブロッコリーにいたっては、すでに半泣きでママを呼んでいた。
対面でガタガタ震えていたピーターは、その情けない光景を見て、すうっと心が軽くなるのを感じた。
(あ、なんだ……。追い詰められて胃が千切れそうになってるの、僕だけじゃなかったんだ……)
人間、自分と同じ──いや、自分以上に絶望している人間を見ると、不思議と奇妙な安心感が湧いてくるものである。
「すいません……あの、もし良かったら、引き分け狙いで行きませんか?」
ピーターは勇気を出してそう言った。
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