10話 ~貴族~
「……へ?」
ピーターの突拍子もない提案に、三人が一斉に涙目の顔を上げた。
「僕、決闘に関する校則を読んだんです。そしたらそこには『時間内に決着がつかなかった時には、引き分けとして双方の主張を取り下げる』と書いてありました! だから、制限時間まで僕が逃げ回って、皆さんがそれを適当に追いかけるフリをすれば……誰も退学になること無く、この決闘を終わらせることが出来るんです!」
顔を見合わせた三人の表情に、明らかに「それだ……!」という迷いと救いの光が走った。
しかし──。
「…………それは、出来ない」
中央に立つ短髪の少年──バーモンドが、拳を強く握り締め、はっきりと言い切った。
「どうしてですか!? 誰も傷つかずに済むんですよ!?」
「ちんちくりん。お前は貴族ってものが、全く分かってない」
バーモンドは怒ったようにまくし立てたが、その声はどこか悲痛だった。
「貴族にとって一番大事なのは、名誉だ。見てみろよ、何百って人間が俺たちを見ている。生徒だけじゃない、先生や学長まで巻き込んじまってるんだよ……! もう、引き下がれないんだよ! 平民と決闘して『引き分けでした』なんて、そんな不名誉な結果、絶対に許されないんだ! そんなことになれば、家を継ぐ資格なんか無いって、親や周りの大人たちに一瞬で見限られる!」
バーモンドの言葉に、左右にいる二人の少年の表情からも迷いが消え、悲壮な決意が固まっていくのが見えた。
「戦えと言われた相手と戦って勝つ。それが俺たち貴族の義務なんだよ! お前達平民みたいにお気楽じゃないんだよ! ……分かったら黙って戦え! 分かったか!?」
「…………はい」
ピーターは息を呑んだ。この王立士官学校に入学することが出来て、家族一同は大いに喜んでくれた。それが負けられない理由になっていたが、負けられない理由があるのは向こうも同じだと知った。
さっきまでママを呼んで震えていた少年は、ここにはもういない。そこに居るのは、家門の重圧を背負い、逃げ道を捨てて覚悟を決めた、紛れもない一人の男の姿だった。
するとバーモンドは、フンと鼻を鳴らし、少しバツが悪そうに木剣を構えた。
「三対一じゃ卑怯だからな、これだけは教えてやる。俺達は全員が『特殊魔法所持者』だ。そして俺は、火を使う。体を魔力で守ってる魔法使いならなんとか耐えられるだろうけど、火傷は間違いない……だからちんちくりん、ヤバいと思ったらすぐに場外に逃げろ、分かったな」
卑怯なリンチの構図でありながら、最低限のフェアプレーを通そうとする敵の優しさに、ピーターは胸が熱くなるのを感じた。
「僕の名前はちんちくりんじゃなくて、ピーターだ」
ピーターもまた、しっかりと相手の目を見据えて微笑んだ。
「それなら、僕からも言わせてもらう。僕も特殊魔法所持者だ。そして僕は、火魔法が大の苦手だ。もし強烈なのを一発でも喰らったら、即座にギブアップする自信がある。……だけど、喰らわない。僕は、避けるのが得意なんだ」
「ふっ……。俺の名前はバーモンドだ、覚えておけ」
「私の名前はビョンビョーン」
「俺はブロッコリン。さっき、緑の突撃重戦車とか言われてたけど、あれはマジで意味が分かんなかったよ」
三人がそれぞれの名を名乗り、張り詰めた空気の中に確かな連帯感が生まれた。
ピーターは戦友を見る目で相手を見た。
「分かったよ。バーモンド、ビョンビョーン、ブロッコリン。正々堂々、決着を付けよう!」
「「「呼び捨てすんな!!!」」」
三人の息の合った大音量のツッコミが炸裂した。
「ごめんなさい……」
ピーターはビクッと肩を震わせ、小さく頭を下げた。思っていた以上に向こうは上下関係に厳しかった。
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