4話 ~合格~
「ピーター君! 王立士官学校合格おめでとうーーー!!」
「「おめでとうーーー!!」」
手作りの煌びやかな装飾が施された広いパーティー会場には、老若男女の様々な笑みと歓声、拍手が広がっている。
「あ、あ、ありがとうございます……」
その中心にいるずんぐりむっくりの少年、ピーターは、どこかぎこちない笑顔を浮かべながら言った。
頭には金色の紙の王冠、赤いマントを羽織り、襷には『本日の主役』と大きく書かれている。完全に実家の大大人たちにおもちゃにされていた。
「まさか合格するとは思っていなくて、本当に全く思っていなくて自分でもびっくりしています。無事に学校を卒業できたとしても、全員が騎士になれるというわけでは無いようなので、多分、普通に僕は無理だと思います。なので基本的には騎士になれないと思いますが、それでも合格してしまった以上は頑張っていきたいと思いますので、皆さんあまり期待し過ぎないように、これからも変わらぬご支援よろしくお願いいたします」
ということで、ピーターは騎士の登竜門である王立士官学校に見事、合格してしまったのだ。
今日は家族と、家業の奴隷商の関係者による合格おめでとうパーティーが催されていた。
奴隷たちにも金一封と、屋外での食い放題飲み放題無礼講の焼肉パーティーが振る舞われており、遠くからでも彼らの地響きのような喜びの歓声が聞こえてきていた。
しかし、周りの大人たちがあまり盛り上がりすぎないように一応釘を刺したつもりのピーターだったが、それが効果をもたらしたかどうかは非常に疑問だった。
そこかしこから「騎士」「我が家の天才」という言葉が聞こえてくる。やはりこの世界の人にとって、騎士とはそれほどまでに格好のいい、特別な職業なのだ。
溜息を必死に我慢したピーターの元に、凄まじい熱量を帯びた両親と家庭教師たちが一斉に押し寄せてきた。
「ああ、ピーター! なんという謙虚で聡明なスピーチかしら!」
真っ先にピーターを抱きしめたのは、感動で涙ぐんでいる母親だった。
「合格に奢らず、卒業後の厳しさまで見据えているなんて……! フランシス家の血を引く者は一風変わった変人が多いと言われるけれど、この子は本物の大物だわ!」
「そうだとも! 自分の実力を鼻にかけず、周囲への感謝とこれからの努力を誓うなど、まさに騎士の精神そのものではないか!」
高級ワインのグラスを掲げた父親も、鼻息を荒くしてピーターの肩を叩く。新興の奴隷商として成功した彼らにとって、息子が「王立騎士」になることは、喉から手が出るほど欲しかった最高のステータスなのだ。
さらに、ピーターの背後から「フシュー……」と、取り憑かれたような荒い鼻息が聞こえてきた。
振り返ると、筋肉モリモリの体躯をこれでもかと震わせ、ハンカチで目を真っ赤に腫らした剣術の家庭教師・マイケルが立っていた。
「ピーター坊っちゃま……ッ! 私は、私は今……猛烈に感動しておりますッ!!」
ドンッ! とマイケルが自分の分厚い胸板を叩く。その目はギラギラとした熱い涙で満ちていた。
マイケルはかつて、騎士になることが人生の夢だったが、家柄や才能の壁に阻まれてなれなかった挫折の過去がある。彼は今、その叶わなかった夢のバトンを、愛弟子であるピーターに全力で丸投げしていた。
「あ、あの、マイケル先生……? 」
「『期待しすぎるな』ですって!? とんでもない! あの超過酷な試験を通過したのですよ!? それはもう私の指導が正しかったという最高の証明です! 坊っちゃまなら必ずや、歴史に名を残す至高の聖騎士になれますッ! このマイケル、命に代えても今後の長期休暇ごとに特別しごきメニューを組んで差し上げますぞおおおッ!!」
(ひ、ひぃぃぃぃ一っ!! ありがた迷惑すぎる!!)
「お、オホホ……マイケル先生、座学の方もお忘れなく。ピーター坊っちゃまのあの完璧な解答速度、午後の戦術理論でも試験官を唸らせたと聞いております。やはり私の歴史とマナーの講義が実を結んだのですわ」
上品に扇子を掲げる座学の女性教師も、目が完全に「神童を育てた名家庭教師」としてのプライドで輝いている。
大人たちの悪意なき、しかし底なしの思い込みと期待の「圧」が、ピーターを全方位からギチギチに締め付ける。
「あはは……は……。は、はい、がんばります……」
ピーターは引き攣った顔で、コクリと首を縦に振るしかなかった。
外から聞こえる奴隷たちの「ピーター様万歳!」の声を遠くに聞きながら、ずんぐりむっくりの少年は、周囲からのあまりにも高すぎる期待と、これから始まる汗臭い学生ライフを想像して憂鬱な気持ちになっていた。
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