第68話 【種の予感】 第2話 「村の少年」
旅の途中、光莉は北海道の小さな村で一人の少年に出会った。
彼の名前は——暁。
感情抑制の処置を受けた少年は、自分の手を見つめていた。指先は震えていない。でも、彼の目にはまだ「何か」が残っていた。
「あなたは......何か、感じる?」
光莉は尋ねた。
少年は少し間を置いて答えた。
「......冷たい。いつも、冷たい」
その言葉を聞いたとき、光莉の指先が熱くなった。
彼女は少年の手を握った。冷たかった。夏なのに、氷のように冷たかった。
でも——その冷たさの中に、かすかな「熱」が混ざっている気がした。それは、消えかけた灯火のような、か細い熱だった。
光莉はその夜、自分のノートに書き添えた。
彼が名乗った数字——0712。
彼はそれを「旅立ちの標」だと理解していた。でも、光莉には違うように思えた。あの冷たさ。誰にも触れられない、凍えるような孤独。それが彼の「0712」だった。
「この冷たさは——誰かの『熱』を待っている」
彼女はそう書いた。
この数字は、百年後に誰かに届くのだろうか。
デジタルなら——消えない。紙は朽ちる。記憶は風化する。しかし、システムの奥底に刻まれたノイズは、誰にも消せないかもしれない。
彼女は東北の女性と石川の女性には「0612」を託した。これも——すべてデジタルの中に埋め込まれることになるだろう。
ズレ。そしてデジタル。その二つが、百年後、誰かの指先で繋がる。
光莉はノートを閉じた。
「いつか、誰かが——この冷たさに触れてくれるといい」
それが、彼女の祈りだった。
「熱と冷たさ。0612と0712。この二つが、いつかどこかで——」
彼女はそこまで書いて、ペンを止めた。続きは、まだわからなかった。でも——わからなくてもいい。それが、彼女の旅の形だった。




