第39話 物理的呪い【未来】第2話(後編)「真実の開示」――種を受け取る者――
箱の蓋が開けられると、そこには経年で端がボロボロになった一枚の古い紙が収められていた。最上部には、手書きの歪な文字で「リスト」と書かれている。
Eが、その紙面に並ぶ文字を見て息を飲んだ。
「これ……何ですか?」
「もう一つの遺産だ。特定の『特徴』や『ノイズ』を持つ人間を、この0612エリアに確実に集結させるための——名簿」
田中が身を乗り出し、その紙面を凝視した。
「まさか……俺たちがここに配属されたのって」
康介は力なく、しかし明確にうなずいた。
「ああ。偶然なんかじゃなかった。君たちは——百年前から『選ばれて』、この場所に引き寄せられているんだ」
再び、重い沈黙が部屋の空気を支配した。
「だが——私はその『本当の意味』を、知らされていなかった。ただ『この条件に合う者をここに集めろ』とだけ言われてきた。」
康介の視線が、リストから古いメモへと移動する。
「だが——今ならわかる。もしかすると、私の先祖は自らの意志で君たちを『選んだ』のではなく、この大きな流れのなかで『選ばされた』のかもしれない」
「このリストに書かれた条件は、あまりにも正確なんだ。誰かが『こういう人間が必要だ』と後から考えたのではなく——百年前の時点で、すでに『こういう者たちが未来に現れる』という確信があったのではないか」
沙織が、康介の目をまっすぐに見据えて鋭く言った。
「でも、ご先祖様は、それを誰から託されたの? 一体誰が、百年前の時点で私たちを予言するようなリストを作ったの?」
康介はもう一度、光莉のメモを見た。
そこには「stocking_night_0612」と確かに刻まれている。
「おそらく——光莉さんから直接託されたという人だ。その人がこのリストを作り、我が家の家系に託したんだ。『この条件に当てはまる者を集めろ。いつか、彼らが『種』を受け取る日が来る』」
「つまり……」
Eの声が、かすかな震えを伴って部屋に響いた。
「君たちは、光莉さんの『種』を受け取るために——百年以上前から、あらかじめ選ばれていたんだよ」
誰も、次の言葉を発することができなかった。
ただ——田中の指先がさらに熱くなり、沙織の胸の奥のざわつきが増し、Eの背中にかすかな痒みが走った。
それは偶然などではなかった。
すべては、百年の時を超えて、肉体という物理的な呪いを通じて繋がっていたのだ。
康介を責める言葉は、誰の口からも出なかった。彼もまた、歴史の重みに翻弄された被害者であることを、その涙が証明していたからだ。
代わりに——Eが、重い身体を支えるように、そっと椅子から立ち上がった。
「康介さん」
Eの声は、処置の影響でまだ弱々しかった。しかし、「人間」の温かい響きが宿っていた。
「私......あなたを責めるつもりはありません」
「E......」
康介が顔を上げる。
「だって、私も——世界の違和感を感じていながら、ずっと何も言えなかった。自分が感じているノイズを、黙っていた。形は違っても……それは、あなたと同じです」
康介の目から、堰を切ったように再び涙が溢れ出た。
「ありがとう......ありがとう、E」




