第40話 物理的呪い【未来】第3話「0712の鼓動」
そのときだった。
一同が静かに体温を共有し合った瞬間、康介の背後にあるメインモニターが、前触れもなく青白く明滅した。
康介はハッと息を詰め、画面を睨みつけた。
「……これは、一体どういうことだ」
Eが怪訝そうに尋ねる。
「康介さん? 何が起きたんですか?」
「アーカイバが——この0612エリアの外部から、別の、未知の独立したノイズを検知している。私たちが管理している、この区画のデータじゃない」
田中がモニターに近づき、表示されたログを覗き込む。
「別の、固有IDですか?」
康介は古いメモをめくり、その裏面に書かれた数字を目にした瞬間、声を詰まらせた。
「0712……これは、光莉さんの残したコードじゃない」
薄暗い部屋に、弾かれたような新たな緊張の糸が張り詰めた。
沙織が、信じられないというように呟く。
「もう一つ……光莉さんの他にも、存在していたの……?」
康介は、震える手でモニターを指差しながらうなずいた。
「ああ。百年以上前から——私たちの知らない別の場所で、別の形で、この『種』は独立して生き続けていたんだ。別の人間たちの手によって」
長い、気の遠くなるような沈黙が部屋を包み込んだ後、拓がいつもと変わらない、しかし未来を見据えた静かな声で言った。
「さあ......これから、どうする?」
その問いに、誰かが明確な言葉で答えたわけではなかった。しかし、全員の視線が、自然と一つの方向——康介へと向けられた。
それは彼を監視するAIの冷たい視線ではなく、一人の「人間」として彼を信頼する、温かい視線だった。
康介は、古いメモと名簿を自らの手で強く握りしめ、ゆっくりと、しかし確実に自らの足で立ち上がった。
「——これからは、一緒にやろう。管理者と被管理者じゃない。七人で、この『種』を育てるんだ。AIの観測網から漏れるための……『物理的呪い』を、私たちの手で完成させよう」
それが、康介の、果てしない贖罪の始まりの夜だった。




