ライン際の魔術師
サッカー日本代表の選考テストを終え、ノボルはリーナの家に邪魔していた。リーナの自宅はバレエ教室である。リーナは、実の母からバレエを教わった。
「後は発表を待つだけね」
リビングでボルとリーナがコタツで暖を取っている。
「いや~、さすが日本代表だね! ゾクゾクしたよ!」
コタツの天板をひっくり返すと、ラシャ張りの緑のサッカーコートが現れた。ここでノボルはよく作戦会議をするのだ。
「ボルもお見事だったわよ」
(ボルって褒めても責められても良い風に捉えるのよね)
「オブリガードゴブリンガード」
ノボルなりの照れ隠しだ。
「いきなり紅白戦だったもんね」
よく成立した物である。
「知ってる? 一年前まで決野さんってLWだったんだよ。でもそこで思ったように点が取れなくてさ」
いまやその逆サイドのRWで、右に出る者の居ないポイントゲッターへと飛躍した。
「例のアレでしょ。右利きは右サイド、左利きは左サイドが良いっていうボルのポリシー」
ノボルの信条に反して、左利きが右サイド、右利きが左サイドに納まるフォーメーションを昨今目にする。リーナはつらつらとサッカーのトレンドを述べた。
「そうそう。あれが我慢できなくてさ。ネットのサッカーコミュニティで書いたことがあるくらいなんだよ」
この書き込みが切っ掛けで決野のポジションが変わったことは、ノボル自身も知らない。
「あたしでも分かるわ。メリットだけで3つはすぐ思いつくもの」
リーナが右ライン際にサッカーフィギュアの駒を置く。
「まず右利きは右足でコントロールするから、相手DFとボールの間に、左半身が壁となる」
DFの駒をググーッっと寄せる。
「うん。そのまままっすぐ走って並走しても、ボールは確実に奪われにくいんだよ」
これが左足でコントロールするRWなら、リスクは跳ね上がる。
「2つ目。左利きのRWはグラウンドをめいっぱい使えないってこと。それはそうよね。ラストパスを左足で送ることになるから、コーナーフラッグまで行けないもの。右利きのRWはフルで使えるわ」
かなり早い段階で切り返してセンタリングを上げるシーンが目につく。
「3つ目。センタリングの軌道の優位性。左利きのRWが増えた最大の理由だけど、センタリングがゴール方向へ伸びるからゴールに結びつきやすくなる、なんてまことしやかに言われてたわよね。実際は違うんだけど」
ノボルが持論を述べる間もなく、リーナは戦術を理解している。それから、ゴール方向へ伸びるボールに足を合わせるのは、高等テクニックが要求される。反対に、前からコロコロ転がってくるボールは、容易にシュートできる。
「キーパーからしたら、ゴールエリアから遠くなるセンタリングのほうが厄介なんだよ。向かってくるボールは跳ね返しやすいし」
ゴールライン際からマイナスへのパスは、GKが飛び出すには勇気が要る。
「左サイドの右利きも同様ね。上がっていくと最後は切り返して右足で処理してる」
このわずかのロスが、得点シーンを遠のけてしまう。
「コーナーキックも同じ話かな。直接狙うなら右コーナーは左利き、左コーナーは右利きってなるんだろうけど、さっき言ったようにマイナスのボールをねじ込むのが基本だから、右コーナーは右利き、左コーナーは左利きがベターだね」
利き足とLRのウィングが一致していれば、ポジション移動の負担も減る。
「ウィングが自らシュートに持ってくのも、利き足側のポジションにいたほうが絶対得なんだよ」
左利きのRWは中央に切り込むことになる。真正面からのシュートはキーパーが反応しやすい。加えて、全方向からDFが止めに入る。右利きのRWなら、片方からのDFを気にすれば良い。ライン際と同じで、ボールとDFの間には左半身がブロックしている。その盾を使いながら前走し、フリーの右足を振り切ればゴールネットを揺らしやすくなる。まさかDFも、ゴールとRWの間を遮断せず、右側からボールを取りに行くことは出来ない。
「現にそれで決野さんが点を取りまくってるのが、動かぬ証拠だわ」




