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ボールドウィン・ストライカー  作者: 三重野 創


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2/17

キメラの翼!

 国立名古屋スタジアム。日本代表の精鋭たちが、集結している。ノボルはトップスターを目の当たりにし、興奮を隠しきれない。


(本当にやるのね、ボル・・・)

 奇想天外なノボルには馴れていたつもりだが、リーナも退屈しなくて済む。

短縮のため、七星中学の授業は午前中で終わっていた。


「諸君。キミたちの目標は、ただひとつだろう。腕に、脚に覚えのある者だけが、ここへ来たはずだ。思う存分、その力を発揮してくれたまえ」

 日本サッカー界のパイオニア、三浦監督。言葉は重いが、心なしか気持ちは軽くなった。


 話もそこそこに、一次テストが始まった。総合評価なので、たとえば100メートル走のタイムが並だったとしても、充分他で補える。

 だが、ノボルが一番自信のあるのは、短距離走であった。


「ボールドウィン・ストリートでダッシュした賜物だわ」

 ボールドウィン・ストリートは、ニュージーランドに実在する傾斜角19°の急坂である。リーナが言っているのは、七星中学の近くにある至雲坂しうんざかの通称だ。


 体力が先行して技術が後行するとは、ノボルのサッカー哲学である。


「監督、気になるやつがいますね」

 合宿参加中の日本の星・決野きめらのツバサ。ポジションはRWである。


「ああ。はしこいな」

 二人とも同じ挑戦者を眺めている。ノボルだ。


 ロングキック、持久走、垂直跳び、ドリブル走、柔軟性。ノボルはどれも高水準でこなしている。決野の目が光る。


 ノボルを含め、11人が二次審査へと進んだ。最終まで進んだからといって、代表になれるわけではない。これは国を背負った戦いなのだ。


「よーし、次は1対1だ」

 11人だから一人あぶれるな、とノボルは思った。


「ここからは代表メンバーも交えていく」

 急に色めき立つチャレンジャーたち。ここで見せ場を作れば、一気にチャンスを掴める

だろう。


「オレが行く」

 決野が前に出た。


「そうだな。え~と、お前だ」

 ノボルを指名する。緊張している暇などない。ノボルは駆け足で決野とゴールの間に位置取りした。


「行くぜ!」

 ドリブルの速い人間に小細工は要らない。左右に振れるだけで相手を置き去りに出来る。


「は?」

 なんなく抜かれてしまうノボル。決野のシュートが、寸分の狂い無く左隅へ突き刺さった。

(なんだよ、オレの勘違いか?)

 苦笑いのノボル。


 他の10人も、誰も代表メンバーのドリブルを阻止できなかった。


 攻守交代である。

何かが引っかかるのか、決野はノボルとの1対1を望んだ。


「お願いします!」

 ドリブルの基本は、相手側から遠い足でボールコントロールするのが鉄則だ。自分から見て右から抜くなら右足だし、左から抜くなら左足でコントロールせねばならない。そうしないと、簡単にボールを奪われてしまう。


(この感じ・・・!)

 決野は直感した。ボールを奪えるかどうかは、立ち会った瞬間に分かるものである。ノボルから受けたプレッシャーは、歴戦のファンタジスタが放つそれであった。何をしてくるのか、まったく読めない。奪える自信は、漸減する。


(一発でいったら駄目だな)

 大きく奪いに行こうとして、失敗したらそこまでだ。


(右だ!)

 左足が得意なノボルは、決野から見て右へ抜こうとした。すぐ切り返すノボル。


 フェイントは細かいキックとステップの組み合わせで成り立っている。あまりパターンは少なく思えるが、移動を16方向、ステップの深さ・キックの強さを大中小、タッチ数、ターン何ラジアン、それらを何回繰り出すか、1挙動コンマ何秒やるかを掛け合わせるだけで、幾何級数的にフェイントのパターンは増えていく。


 右が囮なのは見抜いており、左から抜けようとするノボルを止めに行く決野。ノボルの回転数が上がる。ボールを急停止してからの再始動が、ノボルはおそろしく速い。


(こんなの、プレミアリーグでもお目に掛かれないぞ!)


1対1はオフェンス側が有利とはいえ、相手はトップスターの決野ツバサである。

(ツバサのあんな表情は久々だな)

 三浦は二人の戦いから目を逸らさない。


 画面上では注目されない細かいステップとキックが、勝因になる。挙動で言えばこの1対戦で、ノボルは60ものアクションを起こしている。


 決野の得意コースとは反対の、ゴール右隅へホップシュートを叩き込んだ。


「ナイスシュート! ボル!」

 スタンドからリーナが喜びの舞を踊った。













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