日はまた昇る
サッカー日本代表は、苦難の連続であった。重き荷を負うて、坂道を登るがごとく。だが、それも今は昔。次大会のワールドカップでは、優勝の声も囁かれている。
日本代表! サッカー少年の、夢の最高峰! 希望も、栄光も、挫折も、敗北も、友情も、ジェットコースターのように人生を駆け巡る。その魔力に取り憑かれたサッカー小僧が、ここ北伊勢市にも潜んでいた。
「今日、だな」
シワの無いカッターシャツをインして、ネクタイを締める。几帳面なこの少年の名は、火輪還ノボル。
「ノボル~! 出来たわよ~」
母の火輪還日出子が、ノボルの燃料を補給する。
「まったく、誰に似たのかしら」
父の姿は無い。
「そんなにがっつかないの」
時間に余裕があるにもかかわらず、ノボルは早食いだ。
「戦場では・・・」
ノボルがいつもの言い訳を始めたので、口にバゲットをねじ込まれた。
「ボル~」
「ほら。リーナちゃん、迎えに来てくれたわよ」
晴虹リーナ。ノボルの隣に住む幼馴染み。ボルの愛称はリーナが付けた。
「行ってくるよ。母さん」
敬礼が様になる。日出子は自分の夫と重ねた。
「リーナ、お待たせ」
二人は北伊勢市立七星中学に通う中学二年生。B組で隣同士に机を並べる腐れ縁だ。
「もう進路決めた? やっぱり四中工?」
三重県立四日市中央工業高等学校。全国高校サッカー選手権の常連校である。
「リーナ、それなんだけどさ」
何か言いにくそうにしているノボル。
「この辺で全国狙えるのって、やっぱ四中工だもんね」
リーナはバレエ部であるが、ボルの試合には毎回顔を出す。
「四中工はすべり止めかな」
県立ですべり止めとはこれいかに。
頭上がハテナマークのリーナ。
「今日、日本代表が名古屋に強化合宿に来るんだよ」
何を言い出すのかと思えば。
「ええ、知ってるわ。見に行くの?」
「いや、一緒に蹴りに行くんだよ」
現実ではありえないが、この作品内では日本代表を目指すルートがいくつかある。ひとつは日本代表監督から指名されての選出。もうひとつは、オープンな実地テストである。
ノボルは企んでいることをリーナに話した。
「野球でもあんまり見掛けなくなったわよね」
こうした門戸を開いておくのは、決して無駄ではない。
「殺到するだろうね。だから、一次の体力テストで大胆に減るんだよ」
こうでもしないと物理的に時間と場所が足らない。
「あたしね。ボルのプレイって少林サッカーやキャプテン翼だなって常々思ってるの」
変なことばっかり試そうとする。
「『シュート!』や『オフサイド』も入ってるよ」
自室がサッカー漫画で埋め尽くされている。
「まあ、いいじゃないの。あなたらしくて!」
ボルもおだてりゃ木に登る。




