履き違えるのが襲名か
「ノボル、お前もスポンサーが付いたようだな」
ノボルはアシックスが自分の足に合っているとの自覚があった。
「はい。アシックスは一番ボールの吸い付く感覚があって、コントロールしやすいんです」
サッカー部では海外製のものを履く先輩方もいたが、ノボルはしっくり来なかった。
「日本人の足に合う靴を作れるのは、そら日本のシューメーカーだよなって話だぜ」
決野はドイツのスパイクを履いていたが、アシックスも検討し始めている。
(オヤジもスパイク選びにはうるさかったよな)
決野の父はJリーグ草創期に名を馳せた、名プレイヤーであった。
「大昔は黒しかなかったですが、いまはカラーが豊富になりましたよね」
ノボルは肉食家だが、彩色主義者である。
「そうだな。ジャパンカラーにもしてくれるぜ」
白地に赤い日の丸。やっぱりこの国を愛してる。
「ユニフォームがトリコロールですから、合うでしょうね」
ガンダムやキティちゃんなど、正義の使者や主人公のイメージカラーだ。
「ちょっと貸してくれよ。俺も試しに蹴ってみるわ」
決野とノボルは0.5しか靴のサイズが違わないので、そこまで不具合は無かった。
「この甲へのまとわり具合が、いい感じだ!」
ノボル用に作られているので、決野向けに作ればもっとフィット感は増すだろう。
シュート練習にいつもより熱のこもる決野。ノボルも早く蹴りたくてウズウズしている。
「狙ったとこへの誤差が少ないな!」
ナイスシュートを決めるにはボールポジションが重要だが、ノボルのスパイクはいいところにセットすることが容易かった。
「こりゃトラップも楽だぜ」
攻防は靴を選ぶ。
「決野さ~ん、そろそろ・・・」
W杯アジア予選の得点数で、ノボルに1点リードされていたことに、闘志を燃やしていた決野。勝負の世界に遠慮や情けは無用だ。いつ自分がお払い箱になるか分からない。みんな命懸けだ。誤審が後を絶たないが、選手生命を左右しかねないことを肝に銘じて欲しい。
ワインドアップ健康法なるものをノボルは実践していた。野球で大きく振りかぶってとアナウンスされるあれだ。腕を高くあげることは簡易的で効果的な体操の最たるものである。肩の可動域も広げ、血流を良くする。万歳をすると爽快感があるのも、このためだ。サッカーは足を活かすために、腕の動きがものを言うスポーツなのだ。
「俺の調子のいい時は、振りかぶった足が逆手に当たるんだよ」
「それ、僕もです!」
「今日はよく当たるぜ!」




