9.聖女達の女子会
セドリックが帰省と結婚を強行していたころ、リゼは離宮で王妃セレネから教育を受けていた。
この三日はダリウスも来ないように言ってあるという事で、久々に女性しかいない空間で過ごしている。
教育と言っても、離宮を案内してもらい、王妃としての仕事がどんなものがあるかを説明してもらっただけで、あとはお茶をしたりマッサージを受けたりドレスを注文したりと、思いつく限りの贅沢な女子会のような時間だった。
教会ではありえない贅沢三昧に戸惑うリゼに、セレネは「自分の殻を破るのよ!」と楽しそうに贅沢をさせてくれた。
セレネはプライベートでは気さくで、儀式の時に見せる荘厳な雰囲気は皆無だった。
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「明日、コルネリアが遊びに来るって」
二日目の夜、セレネは側近のモンフォール夫人から渡された手紙に目を通し、リゼに言った。
モンフォール夫人はセドリックの母だ。母同士、息子同士で主従コンビを組んでいる。だからモンフォール家が王家と近すぎると非難の声もある。
「コルネリアとは面識はある?」
「ええ、花の乙女としてお手伝いしていたこともあります」
「そう。じゃあ久しぶりね」
コルネリアは第一王子ヴァリオンの妻だ。聖女から選ばれた。
コルネリアにあまり良い思い出はない。金持ちの商家の出でいつも威張っていた。もう大きくなってから教会に来たのに、全く馴染むつもりも無いようだった。
そんなにできも良くないのに、私は王妃になる為にここにいるのだと言ってとても偉そうだった。
リゼは子爵家の娘だったからか、何かプライドに触ったらしく、とくに強く当たられていた。
だから本当にヴァリオン王子に選ばれた時は驚いたものだ。聖女達の間でもなぜあれがと話題になったが、後から考えれば最初から決まっていたのだろう。コルネリアの家はヴィスコー公爵お抱えの商人だ。
「そういえば」
リゼは不思議に思っていた。
「コルネリア様はご結婚されてもう、その、かなり経ちますが、お子様は」
「ああ、ね。でもその話はしないでね」
「え?」
セレネはふう、と溜息をついてみせるとリゼにピッと指を突きつけた。
「いい、リゼ。聖女の繁殖力を甘く見るんじゃないわよ、やったら出来る、そのくらいの話なのよ」
「え」
やったら出来る、と言われて、つい自分の腹を押さえる。
「珍しく王妃一筋だった先々代には10人子がいたのよ。私の子は1人、愛人には2人。コルネリアはまだ。でもヴァリオンさんには隠し子が何人かいるわ。つまりね、あの2人は身体の関係がない」
セレネはわざとらしく顔を顰めて見せる。
「うちみたいに、お互い別に恋も愛もなければいいけど。コルネリアはヴァリオンさん大好きだから。ほんっと、ヴァリオンさんて最低」
良いのだろうか。いくら政敵とは言え、そこまで言っても……
「だからね、コルネリアがあんななのはね、ヴァリオンさんのせいだから。あんまりイライラしないでね。まあ、ヴァリオンさんだけではないわ。クズなのよ。人間の男は。総じてクズ」
「はあ」
これは同意すると国王様やダリウスまでクズ呼ばわりする事になってしまう。
「自分だけ被害者ぶって。何が真実の愛かしら。ダリウスはまともに育ったと思ったらなかなか結婚しないし。本当に国が滅びるんじゃないかとハラハラしたわ」
「滅びる」
いくらなんでも大袈裟では、と思ったらセレネが意味ありげに視線を投げる。
「……この国の外の事はご存じ?」
「知識だけですが、島のことは」
この地は、円形の島だ。島にはいくつかの小国があり、中央にイルヴァレア王国がある。この島の国は全てイルヴァレアの属国だ。
なぜイルヴァレアが中心でいられるか。イルヴァレアから出ると聖女が育たないし奇跡も起こらなくなるからだ。
「この国の外には聖女もない、花の力もない。でも人間は生活してるわ。考えてみればおかしいのはこの国の方で、私達聖女は異端」
「異端が、信仰されていると」
「そう。信仰されているから保護されているし、だから奇跡は平和のために使われている。でも、……聖女が皆でモンクスフードを全力で使ったら、あなた、何が出来るとおもう?」
モンクスフードは毒性が強い野草だ。群生地もあちこちにある。聖女が力を使えば、この国を毒の沼に落とす事もできるだろう。
「しませんよ、そんな、神に背くような」
「あら、神が悪魔と呼ばれ、聖女が魔女と呼ばれたら、わからないわよ」
そんな事あるわけがないとおもったが、思い出した。
初めて自分に花の加護があるとわかった時の事だ。
幼い自分に手を伸ばそうとした男、助けて神様と祈った時、突然伸びて男に突き刺さった薔薇の棘。
リゼは責められなかったが、人を傷つける力を制御するためにと教会に預けられた。
「つまり……王と聖女の婚姻で、神と人の関係は成っているという事ですか」
「リゼは賢いから話しちゃったけど、そんな事考えてる人少ないから気にしないで。要は、私達が夫と仲良く、子沢山で、幸せに暮らすのが、平和という事です」
セレネは曖昧に微笑む。
「神の子が王位につく。お妃様の花の奇跡でこの国は平和で幸せ。実り豊かで外敵も無い。それでいいじゃない?」
さて、コルネリアをお迎えする準備をしないと、と言いながら、セレネは話題を変えるようにパチンと手を打った。




