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異世界に転生したけどファンタジーなのは俺だけらしい  作者: 三十六
王都武芸大会編

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72話 王国武芸大会 8

-王都マハル 特別区-


 8名に絞られた新人戦出場者。既に2戦して装備も傷だらけの者が多い中、俺の鎧には掠り傷一つ無い。あ、ブラックロータスもか。あっちは山賊退治の時の傷だからな。待機所では露骨に観察されていたが今更である。今朝方に宿を出て来る時も周囲の目線がずっと離れなかった。よほど注目されているということだ。


「まぁ、狙い通りではあるんだが、気分の良いもんじゃあないな」


 アーガス戦ではっきりと自覚したのは人としての限界だ。俺は人体を模してはいるが機能まで模してはいない。人は脳で判断し、神経で伝達して手足が動く。当たり前のことだが俺にはそれが無い。

 攻撃も防御も見てから判断するので若干だが時間差が生じる。普通は膨大な経験量と練習で身体で覚えて瞬時に最良の行動が出来る様にする。これを突き詰めると達人と呼ばれる様になる。この域になれば体力・筋力・瞬発力・持久力等も高い水準となっているだろう。発揮される能力は凄まじいものとなる。

 それ故に身体の耐久を損ないかねないので無意識的に抑制される。防衛本能の様なものだ。人間の身体は全力で常に動ける程には頑丈に出来ていない。どれほど鍛えようともこの部分は変わらない。加えて疲労するため集中力に限度が有る。


 俺は自分で思った通りに何度でも同じ動きを再現出来る。最大限の力を毎回発揮しても耐久に全く支障が無いので抑制も掛からない。身体構造上の制限も無いに等しい。常に、何度でも、繰り返し達人級の動作が可能なのだ。加えて目に頼らず周囲の空間を認識出来る。

 人体の構造上の制限を理解していれば相手の攻撃の軌道と範囲が見て取れるので、まず当たる事が無い。絶対に届かない位置取りを続ける事が可能だ。

 人間らしい動きを意識してきた結果として人体構造上の制限を理解している。相手の攻撃が届く範囲もその変化の幅も全て予測出来てしまうのだ。動きを読めれば合わせるだけで簡単に狙った場所に当てることも出来る。延々と相手の指だけに当て続けるなんて芸当も俺には難しいことじゃない。


 敵の攻撃をほぼ避けることが出来て、こちらは当て続けることが可能。しかも疲れないという条件だから負ける要素が無い。

 俺は既に新人戦での戦闘に興味を失っていた。本戦の出場者なら多少は張り合いも有ったのだろうか。まぁ、俺が出ることは無いから考えるだけ無駄かな。とっとと済ませよう。



-武芸大会会場 選手待機所-


 ブラックロータスの二回戦は不戦勝。相手側が辞退した。話を聞いたところ、直前の試合では結構な打ち合いで、勝つには勝ったが怪我も酷いとの事。ここで俺に勝ったとしても次はベルモンド。大怪我する前に棄権する判断をしたようだ。武器に制限を掛けていないのだから大怪我どころか死ぬことだって充分有り得る。組み合わせ的にも退き時だと考えたのだろうな。


 マリーナの二回戦の相手は目の前の女剣士らしい。もう残っているのが俺とこいつしか居ないから確定だな。名前を呼ばれたので会場へと向かう。アーガスよりは間違いなく弱い相手だろう。叩きのめすにしてもやり過ぎて大怪我させるのは気が向かない。とは言え避け続けるだけでは勝負が付かない。適度に打ち込んで力の差を認識してもらうしかないか。

 手加減しながらの戦闘というのは非常に疲れる。怪我させないように気を遣うし、その分時間も長く掛かる。だが何の恨みも無い相手を理由なく殺すのは躊躇われる。至短時間で終わらせるにはそれが簡単なのだがな。何とも難しいところだ。



-闘技場-


「・・・降参よ。何でアンタみたいなのが新人戦に出てるのかしらね」


 目の前の女剣士は持っていた武器を手放して両手を挙げた。開始して三分弱といったところか。

 相手の攻撃を躱しつつ石突でガラ空きの箇所を叩くということを只繰り返した。過大なダメージを与えずに理解させるには最も適した方法だろうと判断したのがこれだ。


 ゼベットとの訓練初期に彼がやっていた手法で、動きの無駄や隙を意識させて動作を洗練させていくための一般的な訓練法。ほぼ全ての者が武術を学ぶ過程で経験するので、何をされているのか気付き易い。教える者との間に相当な力量差が無いと出来ない方法でもある。こんな場面で役に立つとは思わなかったが。

 何にせよ、これで次は準決勝か。明日は大会の開会宣言が有るので本戦も始まる。俺の出番は午後からだな。そろそろ露店の鍛冶師も集まってくる頃だ。軽く見て回って様子を窺うことにしよう。



-王都マハル 特別区-


 会場を出てタニア達と合流する。


「お嬢お疲れ。だいぶ手加減してる様子だったね。ま、らしいっちゃらしいけどさ」


「あれって稽古の時に先生がやるやつでしょ?見てて分かったよ」


「賭け率の数字がどうなってるか、気になりますね」


 あんなのを見たらそりゃ倍率は相当下がるだろうよ。俺達は初期に買ったんで影響は無いが、今から買う奴らは全然旨味が無い数字になっているだろう。

 

 宿に戻ってまずは食事だな。ここ数日で周りの俺達を見る目がだいぶ変わったが、どうでもいいことだ。いつものように席に着きカレンを呼ぶ。


「すいません、注文いいですか」


「は~い、お待たせしました。何に致しましょうか」


 こんな時は彼女のテンプレ対応が有難い。


「店長のオススメを四つお願いします」


「はい、すぐお持ちしますね」


 個別のメニューは3人共粗方食べたらしく、昨日からこの注文の仕方をしている。モレットの料理はどれもハズレが無いとのことで、皆でこのオススメを楽しみにしているらしい。他の客も似たような感じになっているな。出てくるのが早いのも利点だ。


「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」


 今日は煮込み料理か。見た目はホワイトシチューだな。肉も野菜も大きめ。食べ応えが有りそうだ。味付けが分からないのは残念だが、メリッサ達の満足そうな表情からすると美味いのだろう。こいつらサマリード領に戻ったら舌が辛そうなんだが、大丈夫なんだろうかねぇ。食生活の充実も課題になりそうだな。困ったものだ。

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