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異世界に転生したけどファンタジーなのは俺だけらしい  作者: 三十六
王都武芸大会編

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63話 王都への道のり 6

-シンタック 北門付近-


 陽が落ちる前に何とかシンタックに着いた。遠目に見ても他の領地との差が分かる。外領の街なのに立派な外壁で囲まれているのだ。

 門で招待状を見せるとすんなり通された。連絡は行き届いているらしいな。門を超えて街中に入ると幅広の道路が街の中心部へと延びているのが見える。

 驚くべき事に街中は石畳が敷かれている。目に映る範囲では全ての建物が石造りだ。


 なるほど、マイネルが言った通りだ。技術水準の土台が違い過ぎる。仮に王家に叛意を懐いたとしても、この差を目にすれば躊躇するだろう。やはり予想通り、恣意的に基幹技術を広めていないということだ。統治手法としては分からんでもない。王家の優位性を保つための施策だろう。


 良く見ると門の出入口付近は街灯が有る。オイルランプの様に見えるが、これが有るだけでも治安は格段に良くなる。街中には作られていない様だが、個別にランタンでも持って出歩くのだろう。擦れ違う馬車の中にはランタンを吊るしているものが散見された。


 夜間の明りに使えるほど油の供給が安定しているという事だ。ここに来る途中の街では夜間の明りは蝋燭か松明だった。まだ暗くはないので効果は分からないが、夜間でも人の動きが有るのは間違いない。


 暗くなってからも活動出来るというのは街としての発展度合いにかなりの差が出る。一日当りでは数時間だが年単位で見れば数百時間もの差が生まれる。商いの幅、種類、様式などの全てに違いが出て来るし、雇用が創出されて地域からの収益が格段に上がる。その収益を基に治安の向上と生活基盤の整備が進み、人口増加に繋がる。街から都市へと発展するために必要な条件がここには既に在る。外領のシンタックでこの状態ならマハルは更に発展しているだろう。


 街の中央部を抜けて東側の門へと進む。窓から眺めていたがほぼ全ての建物が石造りでどれも背が高い。通りに面した建物に限って言えば、だが。時折奥に見える建物はほぼ木造建築ばかりだ。街並みに恣意的なものを感じる。

 考えて見れば他領から来る者は大通りを通るし、その奥にはあまり入る事が無い。印象付けも兼ねて建設の優先順位を決めているのだろう。近くに目を奪われるとその奥までは目に入りにくいものだからな。

 

 しかし、タジク領以外との差は相当なものだ。残念だがサマリード領は辺境と言われても仕方あるまい。ここと並ぶには十数年は掛かるだろうが、せめて近隣の領地とは同等以上に技術水準を上げておきたいものだな。


 東側の門が視界に収まるところに宿の看板が見えた。今晩はここでいいだろう。小窓を開けてミランに停める様に指示する。受付で尋ねると部屋は空いているとのこと。駐車場に馬車を停めて宿へと入る。どうやら三人共、街並みの違いに圧倒されている様子だな。現代的な街並みを見慣れた俺とは衝撃の度合いが違うはずだ。どうしたもんかな。



 受付で鍵を受け取り、泊まる予定の部屋へと入る。少し天井が低いかな?それ以外は今まで逗留してきた宿と大差無い。寝具や椅子は質素な造りの物だし、差は出にくい。

 部屋に入ると揃って椅子に腰掛けて深く溜息をついた。まぁ気持ちは分かる。


「全然違うんだねぇ・・・何だか違い過ぎてさぁ。はぁぁ・・・」


「・・・そうだな。実際に目にすると差が有り過ぎて羨む気にもならんな」


「ですねぇ・・・トリスタンが片田舎に思えますもの。世界が違いますね」


 これは相当に劣等感を刺激された様だ。完全に打ちのめされている。皆目が虚ろで表情が暗いが、こればかりは仕方無いのだろう。


 俺には彼女達の様な感覚は無い。現代的な都市に慣れていた身からすれば、どちらも遥か昔の歴史劇に出て来る様な物ばかり。言ってみれば縄文式土器と弥生式土器の差みたいなもの。強化セラミックで出来た茶碗で食事していた人間が青銅器と鉄器の違いに鈍感なのと同じことだ。

 それに都市部と農村部では役割が異なる。当然だが街並みも全く違うものになる。恐らく彼女達はその点にすら気付いていないのだろう。

 とりあえず彼女達が落ち着くのを待とう。このままでは何も出来まい。


「マリーナは平然としてるねぇ。街中でも淡々と観察してた感じだったし」


「そう言えば、お嬢は全然驚いた様子が無かったな」


「そうなのですか。この街並みは威圧感を感じるので、私は緊張しっぱなしでした」


 そうだったのか。ミランは美味しい物を食べさせて、ゆっくり寝かせてやろう。


「私らと違って、お嬢には驚く程の物じゃなかったということか」


 タニアが何か思い違いをしている様子なので、ここは説明するべきかな。


「石造りの建物というのは珍しくは有りませんし。石畳を敷いた道路は考えていた物の一つなので『もう手掛けてるのか』程度の感想しか有りません。街並みの工夫は少し勉強になりましたけどね」


 メリッサは俺の顔をじっと見ている。何やら納得いかないという表情だな。


「明日の朝に良く街の様子を見ることです。この街は恐らくタニアさん達が思っているような印象を持つようにわざと作られています。城郭都市なのは確かですが、驚く程の物は無かったと思います」


「わざとってどういうことよ。仮にそうだとしても、何でそんなことするのよ」


「今まさに皆さんが感じている劣等感、王家には敵わないという気持ちを植え付けるのが目的です。勝ち目が全く無いのに反乱を起こす者は居ないでしょう?」


 三人共、心当たりは十分有る様だな。もう一押しか。


「街並みも全てが石造りなのは通り沿いだけ。一つ外の区画はほぼ木造でしたよ」


 皆が一斉に俺の方を向く。やはり誰も気付いていなかったらしい。


「良く考えてみて下さい。そもそも街中の住居を石で建てる必要が有るのか。石材を使うなら城郭建設など、別の目的に利用すると思いませんか」


 石材の切り出しと加工は素人には無理だ。そんなにコストが高い物を一般的な住居で土台工事以外で使うはずが無い。もっとコストが安い材木を素材に選ぶのが自然だ。煉瓦も大量に作れば安いが、そもそもモルタルやコンクリート有りきの選択肢だからな。


「まぁ、そう言われるとね。土台は兎も角、家はほぼ木材で作る物だし」


「全部石造りの建物って城とか砦ぐらいじゃないのかい」


 そこまで気付いていながら何故考えが及ばないのかねぇ。


「この街並みは防衛戦も考慮された造りだということです。通りの幅が広く、通り沿いの建物はどこも高い。内部に侵攻されたら建物から挟撃する想定なんでしょう」


「ああ、そういう・・・確かに横道が極端に少ないなとは感じていたが。なるほどな」


「そう言われると、確かに道路側には入口を見なかった気がしますね」


 加えて言えば窓がどこも小さめで位置も高めだった。防犯にしては厳重過ぎる。


「中央通りなのにお店が全然無いのは不思議だったけど、そういうことなのねぇ」


「徹底した石造りの街並みで技術水準の差を感じさせ、その役割に気付く人には威圧感を与えることも出来る。良く考えられた造りですよね」


 恐らく他領へ攻める部隊の待機所・集結場所としての位置付けもあるのだろう。馬車が余裕をもってすれ違える程に道幅が広いが、そう考えると納得だ。有事には前線基地に早変わりか。こうした知恵も王家との大きな差なのだろうな。


「初めて来たのにそんなところにも気付くとはね。やっぱマリーナは凄いわ」


「アタシらとはモノの見方が違うんだろうさ。いつもの事なんだけどな」


 つい先日も敵地みたいなものだと言ったはずなんだがな。緊張感が薄いなぁ。


「マハルはこんなものではないでしょう。驚いていてはキリが有りませんよ」


 あのマイネルが手放しで褒めるぐらいだ。こんなものではないだろうよ。


「それもそうだよねぇ。何だか王都行くの怖くなってきたなぁ」


「別に怖がることはないだろうさ。知らない物が沢山有って面白そうじゃないか」


「そうですね。王都ってどんな感じか期待しちゃいます」


 観光じゃないんだがな。まぁ、話をしているうちに落ち着いて来た様だからいいか。


「まずは食堂で何か食べましょう。マハルまではまだ遠いですから、ゆっくりと休んで明日に備えましょう」


 皆に席を立つ様に促して食堂へと向かう。少しは調子が戻った様だな。


 タジク領内に入ったのでこの先は盗賊に遭うことも無いだろうが、確率は無い訳じゃない。王都に着くまでは警戒は続けなければな。油断せず気を抜かない様に行こう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みしてしまいました。 とても面白いです!応援してます!
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