46話 技術水準向上の試み 4
-サマリード領 ロコナ村近傍-
村での麦の収穫が無事に終わり、俺は12歳を迎えた。収穫後の作業も乾燥に移り、人手にも余裕が出て来たところで、メリッサにロコナ村への同行をお願いした。
「マリーナとこうやって馬に乗るのも久しぶりな気がするわ」
「収穫作業お疲れ様でした。ドランさん達も頑張って完成させたそうですよ」
既に村の水車小屋が出来上がったのは伝え聞いている。内部配置が一部済んでいないらしいが、稼働状態にはある様だ。
「ああ、出来上がったみたいね。中の道具の使い方が分からないって言ってたよ」
まぁ、そうだろうな。用途に応じて付け替える物だから全部組もうとすれば部品は当然余るはずだ。作ってはもらったが何をどう使うのかは説明していないからな。
「今日はその説明をします。折角の水車が勿体ないですからね」
「以前言ってた100倍って話は実際どうなのよ。割と期待はしてるんだけど」
あれは手作業に比べたらって話なんだがな。誇張した内容でもないので嘘ではない。
「口で説明しても疑念は解消されませんから。やってみるのが一番でしょう」
百聞は一見に如かずってやつだな。体験するのが一番だ。
村に到着して水車へと向かう。俺が来ると聞いてボンデ達も集まっていた。
「注文通りに作ってはみたんだが、組み合わせと使い方が分からなくてなぁ」
勝手に適当にされても壊れる元だしな。待って正解だ。ボンデ良い判断だぞ。
「今から準備してご説明しますね。そこの軒下に吊るしてある束を取って下さい」
刈り取った麦穂は束ねて軒下に吊るして乾燥させているのだ。これから見せるのはこの麦穂の脱穀だ。
小屋に入り、目的の筒と箱と覆いを確認する。どれも問題無い。予定通りの動作が出来るだろう。箱と覆いを組み合わせ、筒を所定の位置に取り付ける。水車の軸に組まれた歯車に今回の作業に対応した歯車を嚙合わせると、筒が箱の中で結構な速度で回り出した。
「これで準備が出来ました。この組み合わせが脱穀機になります」
「はい、持ってきたよ。この束をどうするの?」
「少し横に広げるようにして、その上側の隙間に入れて。そこで軽く揺らして下さい」
麦穂を隙間に入れると軽い叩く音が響く。中で何かが跳ねる音がして直ぐに止んだ。
「もう束を抜いていいですよ。先を見て下さい。脱穀されていませんか?」
「え・・・あ、無くなってるね。何やったのこれ?肝心の先はどこに行ったのさ」
「箱の下側は引き出しになっています。はい、そこを見て下さい」
引き出しを開けると、籾付きの麦が綺麗にバラけて転がっていた。
「こうすることで脱穀がかなり早く済みます。まずは皆さんでやってみましょう」
唖然としているメリッサに再度束を渡して試してもらう。箱の内側に硬い跳ねる音がして、直ぐに止んだ。束を抜くと既に穂先は無くなっている。
他の者にも順次試してもらう。皆なかなか顔の表情が戻らない様子だ。
「いやぁ、これ凄い早いよ。これが水車の効果なのねぇ。それとも箱の効果かな」
メリッサは少し落ち着いたかな。まだ若干興奮気味か。
「どちらもですよ。道具を上手く使えばこれだけの差が出るということです」
これは元々足踏み脱穀機として知られた物を水車で動かす様に変えた装置だ。組み方次第では籾取りまである程度の自動化を図れる。まぁ、そこは要検証だがね。
本来はクランクによる回転運動を使った道具だが、俺は歯車の歯数による差(要はギアの切替による高速化)を使って穂先を当てるだけの装置にした。
これなら数人が椅子に座っての作業が可能だし、その分だけ長時間従事出来る。コツを掴めば子供でもやれる内容にしたかったのだ。作業内容が簡単であれば、それまで労働力に数えていなかった者達が村の力に加算される。例えば子供や老人だ。その内容が基幹業務で重労働であれば、その業務に携わるはずの労働力が丸々浮く結果になる。
こうした工夫を重ねていけば人口が少なくても必要な人手は確保出来る。その人手を別の作業に回して村での仕事を拡張するのだ。
「多すぎる量を入れても効果が落ちます。場合によっては壊れますよ」
何をする気だ、メリッサ。その両手で抱えている束は降ろせ。そんな量は入らんぞ。
「一度にどのぐらいならいいのよ。試してみないと分からないじゃないの」
壊れると言っただろうが。早々に壊したらボンデ達が激怒するぞ。初めて見る一点物の装置で何故に冒険しようと考えるのか。俺は直したりせんからな?
「この道具は修理が出来ないので新たに作り直すことになりますよ」
詰まるまで入れれば恐らく歯車も割れる。小屋の機能自体が使えなくなるな。
「この大きさの束なら3つ程が適量でしょう。これで試して下さい」
地面に降ろしてから、束を3つ抜き出して彼女に渡す。ここまで教えないとダメか。
「うん、綺麗に取れたね。多分だけど、沢山やる方法も用意出来てるんでしょ」
その通りだ。変に欲張ってやらなくても、処理量を増やす方法は考えてある。
「予定通りに動く事が確認出来たので、この装置は横方向に大型化します。筒が長くなるので3人程度は同時に作業に当たれるはずです」
「3人でやれるなら相当早く済むね。今年の収穫量だとどのぐらい掛かるのかな」
「今乾燥させている量なら、5日もあれば充分終わると見込んでいます」
子供なら4人が並べる幅だ。慣れれば4日も掛からないだろうな。
水車小屋での説明を終えた俺は、続けて広場の水桶に向かった。皆も後ろから付いて来ている。道端に水道の一部が見える。異物が入るのを防止するために筧には蓋を被せている。軽く被せて紐で固定しただけだが充分だろう。管理もし易いからな。
水桶の周りには人だかりが出来ている。既に水が溜められているので用途は言わなくても分かるだろう。集まった村人達を前に、利用の仕方について説明を始める。
「水車を利用して川から水を引きました。この水桶を洗い場として活用して下さい」
皆頷いている。予想通りといったところか。続けて水門の説明だな。
「使えば汚れますし、ゴミも水底に溜ります。このハンドルを回せば水門の下側が開いて、水底に溜ったものが水と共に流れ出る仕組みになっています。流れて出ない汚れやゴミは水を抜いて掃除することが必要です。しかし、普段は水がずっと流れているので、これだけでも充分綺麗に使えるはずです」
ボンデが頻りに頷いている。水門の近くで覗き込んでいる。水が実際に入ってようやく仕組みを理解したらしい。これは水の流れる力や圧力も考慮に入れた構造だからな。俺が設計時に付けた細かい注文の意図に、やっと納得出来た様子だ。
「この高さにしたのは、1つに椅子に座って作業が出来る様にするためです。肩や腰の負担が軽くなります。2つに立って別の桶に汲み取るにも丁度良いからです」
さて、大事なのはここからだ。何事にも利点と欠点が有る事に気付かせねば。
「その反面、小さな子供でも簡単に登って来れるので、絶対に水桶に入れない様に注意をして下さい。折角の水桶が壊れてしまいますし、簡単に直せるものではありません。それに、皆さんの目を盗んで水遊びに興じ、気付いたら溺れていたということも考えられます。使わない時は水を抜いておく等の工夫をして使う様にお願いします」
現実に溜め池での子供の遊び半分からの事故は少なくない。俺が居た世界でも有ったのだから当然警告は必要だろう。
新しく便利な物が増えたら、大抵の場合は未知の危険を孕んでいるものだ。発覚して始めて気付くことが大半だが、前もって知っているのだから周知して未然に防止するべく対処しておかねばな。
一つの危険性に言及したら、皆でもそれぞれに考え出した様子だ。あれこれと周りの住人同士で語り合っている。これでいい。後は彼らで考えてもらおう。そのうちに洗い場や水車を利用するに当たっての彼らなりのルールを作り出すだろう。




