無視できない奴ら
龍だった物は、内臓とか鱗の破片とかを残して、きれいに解体された。龍は全身素材だから、捨てる箇所は殆どない。
魔石も発見した。高く売れる……売れるのかな?騒ぎになりそうな予感。
内臓はポメが高火力で灰にしてくれました。後片付けも完璧。
もう、ね。ポメラニアンが持ってくる物を籠に詰めるだけの簡単な作業でしたよ。
「わん!」
さぁ行くか、と籠を背負うと、ポメラニアンが何かを告げる様に鳴いた。ポメラニアンが見る方に目をやると、龍の丸焼きがあった場所に黒いモヤが渦巻いている。
「………?」
警戒して後ずさる。多分あのモヤはあれと同じだ。4層の崩落現場と僕が放り出された階層に漂ってやつ。直接の危険はないようだけど………。
「うん?」
黒いモヤが一箇所に集まり出した。渦巻きながら段々と黒が濃くなっていく。やがてそれは黒い塊となり………木箱になった。
「へぇっ?」
驚いた。宝箱が生まれる瞬間?うわー。
階層の主を倒すと宝箱が現れる、と戦士のおっちゃんから聞いた事はあるけど……もしかしてあれは主だったの?まぁ、3頭龍だもんね。伝説の魔物だもんね。階層主でも不思議はないか。で、主倒したの?うちのポメ。凄いなー。
木箱を手に取って開ける。中から出てきたのは短刀だった。柄に見事な装飾がしてある。キラキラした石が複数嵌め込んであるんですが、もしかして宝石?
刃にそっと触れてみると、切れ味は良さそうだ。持っていた小刀の刃がこぼれてきたから丁度いいや。
小刀を籠に入れ、短刀を腰にさす。そこだけなんか豪華になった。
「ポメー。行こうかー」
3頭龍の骨を咥えてぶんぶん振り回しているポメラニアンに声をかけた。ポメラニアンは骨を咥えたままご機嫌で先に歩く。
腹一杯肉を食べたからか、足に力が入る。やっぱり食事って大事だね。
その後、大トカゲや魔狐、大蛇などの魔物が出たが、全部ポメラニアンが燃やした。火を口から吐くんじゃなくて、全身から噴き出すのね。骨を咥えたままだもんね。気に入ったの?その骨。
更に一層上がった所で、ポメラニアンに連れられて本日の休息場へ。腰を下ろして靴を脱ぐ。ずっと歩きっぱなしなので、ふくらはぎは腫れているし、靴擦れも起こしている。あ、右足がやけに痛いと思ったら、中指の爪が剥がれかけてるや。
手拭いに水を垂らして足を拭いた。
「―――いった!」
足の傷に水がしみる。消毒液などないから、化膿を防ぐにはよく洗うしかない。靴擦れには酷くなると歩けなくなるからなぁ………今、切実に絆創膏が欲しい。
骨を齧っていたポメラニアンがトコトコと僕に近寄ってきた。
「わん!」
クルクル回る。キラキラと光が足を包み………おお、傷と爪が治った!ありがたい。僕はポメラニアンをわしゃわしゃ撫でた。
「ありがとうポメ。これで明日も歩けるよ!」
ポメラニアンは嬉しそうに尻尾を振って僕を見上げる。黒いおメメがかわいいったらない。
夕飯は3頭龍の肉だ。まだまだ沢山ある。
宝箱から出た短剣で肉を一口大に切る。うわ、凄くよく切れる。感動。
ポメラニアンにはスライスした肉と水。僕用の食事は肉にネギとナッツを絡めた。うーん、美味しい。野菜がネギしかないのが気になるけど………仕方がない。魔窟で採取した薬草っぽい草はあるけど、本当に薬草なのか、そもそも食用なのか分からない。
まぁ、お肉食べ放題なんて素敵な贅沢だから、存分に楽しもう。
食べ終わったら明日に備えて就寝。まぁ、空は見えないし時計もないから今日も明日も分からないけど、気分だね。
お休みなさい。
翌日もひたすら歩きだ。
もう4層分は確実に上がったんだけど、地上はまだなんだろうか?というか、地下にこんなに階層あるの?どんだけ深いのさ。
「あ、坂だ」
洞窟を抜けたら少し開けた場所に出た。そこに上へ向かう通路があった。
やったね。上層に行ける。次は地上だといいなぁ。
ポメラニアンは足取り軽くとっとこ登りの道を歩いていく。
僕もその後に続き、やがて視界が開けて―――。
別の階層に着いた。
そうだよね。そう都合よく地上に出られないよね。うん、分かってたさ。
少し落胆しながら、僕はその層に足を踏み出した。
光源もないのに明るい。魔窟の中なのに不思議だ。
地面には黒々とした土で、草がちょろちょろと生えている。
うん………なんか、とっても虫が出そうだね!
普通に蚊とか出そう。嫌だなー。
今世にもカブトムシっぽいのがいて、それを闘わせる遊びが人気なんだけど、僕は普通に苦手。
セミも嫌い。特にその抜け殻ね。
エオリアの木にみっしりへばりついていて、それを見た時は、心底ぞっとしたよ。
進んでいくと、低木も姿を見せはじめた。そして………うん。なんか跳んでるね!小さいのが!見ないよ、絶対見ない!
「ポメー。早くこの層抜けようね………」
ポメラニアンはちょっと振り向いて、小首を傾げた。分かってないよね。いいよ、僕は君の後ろ姿しか見ないから。
低木が密集してきた。その間を縫うように歩いていく。
足下で小枝を踏む。ふむ、火をつけるのに丁度いいな。拾っていこう。
ポメラニアンのかわいい足を目で追いつつ、手頃な枝を見つけては腕を伸ばす。
持ってきている薪も限りがあるからね。節約、節約。
前からボォっつと火が噴き出す音がした。
あ、カラス大のトンボが焦げて落ちていく。ポメが仕留めてくれたんだね。ありがとう!
さすが魔窟。あんなでかいトンボがいるんだね………。
もう、お家に帰りたい………。
スズメ大のバッタとか、ハト大のガとか、草の影から跳び出してはポメラニアンに焼かれる。
何なの、このお化け虫のオンパレード。タコみたいなクモが巣からぶら下がってるし………気絶しそう。
無事巣ごとクモが焼き払われ、前に進む。更に鬱蒼としてきて、雑木林っぽくなってきた。焚き火に手ごろな枝が一杯落ちているから、せっせと拾う。
「………ん?」
細かい震動を感じた。え?地震?震度1くらい?
じっと様子を伺っていると、その震動が段々大きくなってくる。地震じゃない?え、え?まさかあの鳴動とかいうやつ?対処法なんて知らないよ?どうするべき?頭庇う?
混乱している間にも震動は大きくなり、身体も揺さぶられた。地面の土が跳ね、木の枝が折れる。ん?もしかして何か接近してる?
突如、斜め前方の木がまとめて吹き飛んだ。現れたのは―――。
ダンゴムシ。巨大なダンゴムシ。インドゾウくらいありそうなダンゴムシ。
「う、うぎゃー!!」
僕は尻餅をついてわたわたと後退った。無理!無理だから!勘弁して!
ポメラニアンが体勢を低くし、歯を剥き出して唸っている。ダンゴムシがゆっくりこちらに向いて………。
「うわー!来るなー!ポメさん、やっちゃって!」
目を逸らし、後ろ向きになって、僕はポメラニアンに叫んだ。「わん!」と勇ましくポメラニアンが答える。
ゴォッと火の噴き出す音と熱気が届いた。続いて、勝利を誇るようなポメラニアンの鳴き声。
僕はゆっくりと振り向いた。顔を廻らせ、恐る恐る背後に目をやる。
「………………」
ダンゴムシは動きを止め、その大きな体躯から静かに蒸気をあげていた。




