↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校で人気な女の子と二人きりでカラオケに行くようになって、かれこれ一年経ちました。(旧題: C線上の愛華)  作者: 夏野恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/25

第9話 その、私の家に泊りに来てくれないかなって……

「そういえば、宮永さんのおじいちゃんの本読んだよ」

「どうだった?」

「面白かったねー」


割と正直な感想だった。


「難しそうだったんだけど、読んでいくうちに世界観が見えてくるというか」

「そうそう、マジでそれ!」


いつもより大きな声を出したのでびっくりした。

私の様子に気づいたのか、宮永さんは辺りを見回して申し訳なさそうにする。


「ごめん、ちょっとうるさくしちゃった」

「まあ大丈夫なんじゃない?」


このカフェ、今は私たち以外にお客さんいないし。


夏休みに入ってから、宮永さんと週に一回カフェで勉強会をしていた。

わからないところは質問したりしながら、それなりに真面目に取り組んでいる。


今はちょっとだけ休憩中。

注文したスイーツを食べながら雑談をしていた。


「そういえば立野さんって夏休みは友達と会ったりしてるの?」

「全く会ってないねー」

「一度もない感じ?」

「うん」


スマホで連絡とかはしてるけど、直接会ったことは今のところ一度もない。


「宮永さんはどうなの?」

「私も立野さんだけだねー」


「立野さんだけ」という言葉を聞いて、ほんの少しだけ嬉しくなった。

夏休みの間だけは宮永さんを独占することができている感じがしたから。


「まだカラオケ行ってないよね……?」


こちらの様子を伺うように、上目遣いで私を見てきた。


スイーツのお皿を少しだけ右にずらす。


「行ってないね」

「どこか予定ある?」

「そうだねー……」


スマホを開いて確認するポーズだけとって時間を稼ぐ。

どう答えるのが正解なのか考えるためだ。


「もし、言いたくなかったら全然言わなくていいんだけどさ」

「うん」


なに? と私の目を見て尋ねてくる。

宮永さんの涙袋めっちゃ綺麗だな、と思いながら口にした。


「宮永さんの第一志望の判定とかってどうなの?」

「あー……」


すぐに視線をそらして前髪に触れる。

やっぱり聞かれたくなかったのかもしれない。


それはそうだ。私だって、自分の志望校の判定とか偏差値の話とかはしたくない。


でもカラオケに行くんだったら確認する必要があった。


私たちは受験生。


勉強を差し置いて遊ぶことは基本的に許されないけど、宮永さんの判定がそこそこなら1回くらいカラオケに行っても大丈夫なんじゃないかなって思ったりする。


甘えかもだけど、甘えでいいじゃん。

私、宮永さんとカラオケに行くの好きだから。


「……何で知りたいの?」

「カラオケに行きたいからだね」

「判定とカラオケって関係なくない?」

「直接的にはないかもだけど……」


やっぱり言いたくないか。

うーん、困ったなぁ。


喉は乾いていなかったけど、アイスティーに口をつける。


「私は宮永さんと一緒にカラオケに行きたいんだよね?」

「……うん」


小さく、しかしはっきりと宮永さんは頷いた。


「でもずっと一緒に遊んでたら、他の受験生に追い越されちゃうかもじゃん」

「それは、そうだね」

「だから判定を見ながらカラオケに行く回数を決めようかなって」


「なるほどねぇ……」と呟いて、宮永さんは腕を組む。


カランカランとベルが鳴って、社会人の女性がふたり入ってきた。

手慣れた様子で注文を済ませると、雑談を始めて店内が少しだけうるさくなる。


宮永さんに顔を戻すと視線がぶつかった。

不安そうな目でこちらを見つめている。


数秒の沈黙があってから、宮永さんは口を開いた。


「立野さんも教えてくれるんだったら、私も言うけど」

「私はいいよ」

「じゃあ、立野さんから言ってくれる?」


もちろん、と呟いてから続ける。


「私はA判定だね」


客観的な事実だけを伝えた。


「……ふーん」と呟いて、宮永さんはアイスティーを一口だけ飲む。

もう氷だけしかなさそうに見えるけど、宮永さんはグラスを大きく傾けていた。


「やっぱ立野さんってすごいね」

「そんなことないよ」


いつもB判定だけど、たまたまA判定が取れたって感じだし。


「立野さんはどうなの?」

「ちょっと心の準備させて?」

「いいよ」


アイスティーをストローでかき混ぜる。

薄茶色の液体は、グラスの中でゆらゆらと揺れていた。


「ちょっと隣来てもいい?」

「いいよ」


宮永さんは立ち上がり、私の隣の席に腰を下ろす。

そして数センチだけ、椅子を私に近づけた。


「ちょっと耳貸して?」


すぐに彼女の方向に重心を傾ける。

すると宮永さんは、小さな声でぽつりとつぶやいた。


「私、ぎりぎりC判定って感じなんだけど……」


体勢を元に戻して宮永さんに視線を向けると、彼女の瞳はうるうる揺れていた。

怒られている時の子どもみたいだな、と思いながらどう反応するべきか考える。


「まあC判定なら、夏休みに1回くらいカラオケに行ってもいいんじゃない?」

「ほんと?!」


大きめの声だったので、さっき入ってきたお客さんがこちらに視線を向けてきた。

ちょっと恥ずかしい。


「とりあえず、どの日が空いてるか教えてくれる?」

「私はいつでも大丈夫だよ!」


宮永さんは嬉しそうに口にした。


それって受験生としてどうなの?

まあ私も同じなんだけど。


スケジュールを考えていると、宮永さんはおもむろにスマホを取り出した。


「立野さんが良ければなんだけどさ、18日とかどう?」

「あーその日は空いてるね」


偶然空いてました、みたいなニュアンスで応える。

いつも勉強で忙しいという体裁は取っておきいから。


「その日にカラオケ行かない?」

「いいよ」


すんなりと予定が決まった。


「あとこれもよければでいいんだけどさ……」


宮永さんはスマホをテーブルに置いて、私に身体を寄せる。

テーブルに片手だけ添えて、宮永さんは私に耳打ちをしてきた。


「その日、私の家で勉強会しない?」

「宮永さんの家?」

「うん」


どうかな、と言いながら視線を逸らす。


「行ってもいいの?」

「いいよ」


まあカフェとかで勉強会をするよりは効率的かも。

声のボリュームを気にしなくてもいいし。


「じゃあ行こうかな」


宮永さんの家で勉強会をすることもすんなりと決まった。


「……それでなんだけどさ、私の家、その日親いないんだよね」


両親はさっき言ってたおじいちゃんのところに行くらしい。

宮永さんも行く予定だったけど、受験勉強を理由に断ったとか。


「だからその……」


そこで言葉が止まったので、視線を数センチだけ動かす。

間接視野でもわかるほど、宮永さんの顔は真っ赤だった。


「えーと、立野さんが良ければで良いんだけどね?」

「うん」

「もし嫌だったら全然嫌って言ってもらいたくって、」

「うん」

「その、私の家に、泊りに来てくれないかなって……」


言葉に詰まりながら宮永さんは口にした。


話の流れ的にそう言われるだろうなっていうのはわかっていた。

親がいないから泊まるように誘われるんだろうな、って。


でもいざ耳にすると、不思議と心拍数が早まる。


人の家に泊まるという経験がほとんどないからかもしれない。


「あくまでも勉強会のために、だもんね?」

「もちろんそうだよ!」


やっぱ勉強って大事だし、と宮永さん。


「じゃあ18日はカラオケに行って、宮永さんの家で勉強会をするってことで良い?」

「うん」


ありがと、と口にして宮永さんは元の位置にもどった。


対面に座る宮永さんと目が合う。

彼女も私の目をじっと見つめていた。


一瞬だけ、私たちの間の空気が揺れた。


「……じゃあ勉強始めようか」

「……そう、だね」


少し気まずかったので、すぐに勉強会を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。