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学校で人気な女の子と二人きりでカラオケに行くようになって、かれこれ一年経ちました。(旧題: C線上の愛華)  作者: 夏野恵


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第8話 私は2人だけのほうが集中できるかも。

「どういう問題集がいいかな?」

「この問題集とか友だちが使ってるって言ってた」


立野さんは中段にあった数学の問題集を取り出した。


「友だちって西川さん?」

「うん」


そうだよねー。

わかってたけど。


問題集の裏返して値段を確認する。

そこまで高くないけど、安くもないって感じ。


「立野さんはどの問題集を使ってるの?」

「学校で配布された問題集をずっと使ってる感じだね」

「高1でもらったアレ?」

「そうそう」


あれを使い込んでいたら、数学が得意なのも納得かも。


「とりあえず、あの問題集からやってみようかな」

「その方がいいと思うよ」


参考書コレクターになったら本末転倒だからね、と立野さん。

出し惜しみをしているだけなんだけど、好意的に捉えてくれたみたい。



しばらく話をしていたが、用も済んだのでレジに向かう。


手にしているのは、最近発売された第一志望校の赤本。

二次対策も並行でやらないとだよ、って言われたから買うことに決めた。


「……あっ」


ふとある書籍が目に映って足を止める。


「どうしたの?」

「えーっと……」


伝えてもいいのかな、という考えが頭を過る。

まあ立野さんだし、言っても大丈夫だろう。


本人も自慢していいって冗談で言ってたし。


「立野さんってさ、この人知ってる?」


本棚からある書籍を抜き出して、立野さんに見せる。


「もちろん知ってるよ」

「立野さんって読書とかするタイプだっけ?」

「全然しないね」


それでも、この人の名前は見たことがあるらしい。


「実はこの人、私のおじいちゃんなんだよ」

「えーマジ?」


「ちょっとその本見せて」と言われたので、立野さんに渡す。

ぱらぱらページをめくってから、立野さんはこちらに視線を戻した。


「私、この本買うよ」

「気を使って買うって感じなら、別にいいよ?」


買って欲しいから紹介したわけじゃないし。


「そういうのじゃなくって、勉強の合間に読もうかなって」


「ちょっと興味あるし」と言って立野さんはレジに向かった。



*



「夏休みどうする?」


書店を出てから、タイミングを見計らって口を開いた。


いつも駅前で解散だったから知らなかったけど、途中までは帰り道が一緒らしい。

だから私たちは、途中まで一緒に帰ることにした。


「うーんどうしよっか」


私たちの間に、少し冷たい雰囲気が流れる。


高3の夏休みにカラオケに行くのはさすがにマズい。

親から色々言われるだろうし、他の受験生に差をつけられる可能性だってある。


「週に1回カラオケに行くっていうのは、ちょっと厳しいよね」

「……うん」


胸がずきりと痛む。


「ひとまず、1回か2回とかにしとく?」

「そうだね」


そこが落としどころだと思う。


「勉強会は週1でできるかな?」

「迷惑じゃない?」

「私は全然っ!」


反射的に大きな声が出てしまった。


「私は、全然だよ」と適切なボリュームで言い直す。

立野さんは「そっか」とだけ呟いて口を閉じた。


ネガティブな考えをなんとか脇に押しやって、平静を装って歩き続ける。


「宮永さん」


名前を呼ばれたので、恐る恐る立野さんを見た。

目まで見ることができないので、口元あたりに焦点を合わせる。


「勉強会のことなんだけどさ」


すぐに目線が首筋まで落ちた。


「ちょっと言葉を選ばないといけないんだけど……」


心臓をぎゅっと掴まれるような感覚があった。

逃げたいという気持ちを抑えて、その場に留まる。


湿り気のある風が、私たちの間を通り抜けた。


「勉強会さ、ほんとに私だけで大丈夫かな?」


立野さんは少し自信のない様子で呟いた。


「前田さんとか西川さんみたいに勉強ができる人も一緒にいた方がいいのかなって思ったんだけど」

「勉強会をするのはオッケーなの?」

「もちろん」


「むしろ見られている方が頑張ろうって思えるし」と言って立野さんは笑みを零す。


よかった。

ほんとによかった。


「私は、2人だけのほうが集中できるかも」


あまり頭が回らないけど、思ったことをとりあえず言葉にする。


「教えるのって普通に勉強するよりも効果があるって言うじゃん? 立野さんも私に教えたほうが理解度も高まるし、そっちの方がお互いにとっても良いと思うんだよね。前に勉強会したときも立野さんの教え方上手だなって思ったから、できれば夏休みは立野さんと一緒がいいなって」


とにかく早口でまくし立てた。

他の子に入ってきてほしくなかったから。


「それなら、私と宮永さんの2人でする?」

「うん」

「じゃあ夏休みは週1で勉強会をするってことにしようか」


緩む頬を引き締めながら、「そうだね」と口にした。


「じゃあバイバイ立野さん!」

「ここで別れる感じ?」

「うん!」


「またね!」と手を振って、すぐにその場を後にする。



これ以上、立野さんのそばにいるとヤバいと思ったから。



*



宮永さんの後ろ姿が見えなくなってから、私はのんびり歩き始める。


さっきの宮永さん、めっちゃ嬉しそうだったな。


途中まで深刻そうな表情だったのに、勉強会を一緒にすることが決まったら顔がぱあっと明るくなった様子を見て、なんだか私まで嬉しくなった。


「ふぅー……」


勉強会をするんだから、ちゃんと質問には答えられるようにしておかないと。

宮永さんと同じ大学に行きたいし、2学期も何回かカラオケには行きたい。


とりあえず家に帰ったら苦手科目から手を付けようと思いつつ、私は帰路についた。

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