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学校で人気な女の子と二人きりでカラオケに行くようになって、かれこれ一年経ちました。(旧題: C線上の愛華)  作者: 夏野恵


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7/7

第7話 でもそのズレが、たまらなく愛おしい。

「立野さん、悪い人じゃなかったねー」

「悪い人って思ってたの?」


思わず眉をひそめる。


立野さんと別れた後、私たちは教室で話をしていた。


「だってさ、宮永さんが誰か一人と仲良くするイメージないじゃん」


なにか弱みでも握られてるんじゃないかと思っていたらしい。


「もし私が弱みを握られてたらどうするつもりだったの?」

「私にも宮永さんの弱みを握らせてほしいってお願いしようかなって」


そこは私を助けるところでしょ。


私の顔を覗き込みながら、前田さんは続ける。


「宮永さんってさ、立野さんのことかなり気に入ってる感じ?」

「別に、そんなんじゃないけど」


視線を外しながら、小さな声で呟いた。


「ふーん?」と言って、前田さんはニヤニヤする。


もう、本当にそういうのじゃないんだってば。


授業が始まるまで、私は教科書をぱらぱらめくって時間を潰した。



*



「じゃあねー」


友だちに手を振って、校門で別れる。

いつもならそのまま帰路につくけど、今日はその場にとどまった。


立野さんを待つためだ。


今日はどうしても話したいことがある。

迷惑かもだけど、とっても重要なことだから。


話す内容を考えながら、立野さんが来るまで待ち続けた。



「あっ来た」


クラスメイトに声をかけられたあと、やっと立野さんが見えた。


一瞬だけ姿を隠して前髪をさっと整える。

スマホで確認して、立野さんから見える場所に移動した。


隣にいる西川さんを見て、心臓がきゅっと締め付けられる。


もちろんわかっている。

立野さんたちはそういう関係じゃないって。


でも立野さんが誰かと話しているのを見ると、もやもやした感情が溜まった。


「宮永さん、どうしたの?」


西川さんと別れて、立野さんは早歩きで近づいてくる。

大丈夫、大丈夫、と念じながら、私は口を開いた。


「近くの書店で問題集を買おうかなって思ってて、」

「うん」

「もしよかったら、立野さんにもついてきてもらいたいなーって」


さっき考えた口実を呟く。


嘘ではないけど、本当とは言えない口実だった。

いつか問題集を買おうとは思ってたけど、今日じゃなくてもいいし。


「もちろんいいけどさ、私そんなに詳しくないよ?」

「立野さんの方が私より詳しいと思うからさ」


「とりあえず行こ?」と少し強引に立野さんを連れ出した。



*



「昼休みのアレ、迷惑だった?」


しばらくしてから立野さんに話しかけた。

今は私が歩道側で、彼女が車道側を歩いている。


「私は別にいいよー」


なんてことのない様子で、立野さんがへらりと笑みを零した。


もう、そういうのがずるいんだってば。

動揺を悟られないように、視線を逸らす。


信号が点滅していることに気づいて、私たちは立ち止まった。


ほんの少しだけ立野さんに近づいてから口を開く。


「……あのときの立野さんが言ってたことってほんと?」

「どれのこと?」

「あー……」


どういえば普通っぽく聞けるかな。


「えーと、友だちじゃないってところ」


そう呟いてから、両手をぎゅっと結ぶ。


昼休みのとき、立野さんはやんわりと私たちの関係を否定した。

そのことが、5時間目の始まる前から引っかかっているのだ。


「実際さ、友だちって感じじゃなくない?」


さも当然のように、立野さんは口にした。


ナイフのように鋭いその言葉は、私の心にぐさりと刺さる。


私たちって友だちじゃなかったんだ。

1年近く一緒にカラオケに行ってたのに。


信号が青になり、足を引きずるようにのろのろ歩く。

立野さんはいつも通り歩くから、すぐに距離が生まれた。


でもすぐに立野さんは気づいて、歩くペースを合わせてくれた。


「実際さ、カラオケに2人きりで行く友だちっている?」

「……いないけど」

「だから友だちじゃないよねって」


「プラスの意味で捉えてほしいかも」と言って、立野さんは私に視線を向ける。


「……おっけ」


あーヤバい。

フォローされちゃった。


学生鞄を、なんとなく持ちなおす。


「……で、あともうひとつ聞きたいことがあって、」

「うん」

「ほら、最後らへんに立野さんが言ってたことなんだけどさ……」

「なんて言ったっけ?」


もう、ここまで言ったんだから察してよ。


「……受験勉強で忙しくなって、一緒に勉強することはなくなるってヤツ」

「あーアレね」


立野さんは視線を左上に流した。

なんとなく、視線の先にあるものを追いかける。


「まあ受験勉強は忙しくなるよね」

「……うん」


認めたくないけど、それは事実なんだろう。

少なくとも、これまでと同じように過ごせるとは思えないし。


「一緒にカラオケに行くのとかも難しくなると思うし」

「それはっ、そうだけど」


じくじくとした、嫌な感情が胸に溜っていく。


「大丈夫、大丈夫」と念じて心を落ち着けてみる。

ドロドロした感情は、ある程度抑えることができた。


視線を外して深呼吸してから、再び立野さんに視線を戻す。

こちらをじっと見ていた立野さんは「ふふっ」と笑ってから続けた。


「……ていうのもあるけど、前田さんの誘いを断るために言った感じだよ」

「どういうこと?」

「ほら宮永さん、あのとき嫌そうな表情してたじゃん」

「してた」

「正直だね」


だって他の人がいたら、立野さんのことを独占できないし。


「だから、口実として受験勉強を出した感じ」

「あーそういうことね……」


いま私が立野さんを連れ出してるのと同じかな。


「立野さんは前田さんが入るの嫌だった?」

「まあ受験勉強だけだったら入って欲しいなって思ったかな」


ちょっと胸が痛くなる。


やっぱそうだよね。

前田さん、成績良いし。


「でもカラオケは2人で行きたいかな」

「なんで?」

「うーん……」


「そう言われるとちょっと難しいんだけど……」と言って少し黙る。


私にとって、それは心地のよい沈黙だった。

鞄を持ち直したときに、立野さんは口を開いた。


「やっぱ2人の方がたくさん歌えるじゃん」


そういって私に少しだけ近づく。


その答えは数センチズレていた。

でもそのズレが、たまらなく愛おしい。


「立野さんってやっぱ立野さんなんだね」

「えっどういうこと?」

「言葉の通りの意味だよ」

「その言葉通りってのがよくわからないんだけど……」


そんな話をしているうちに、書店が視界に入ってくる。


私は気づかれないように、立野さんに数センチだけ近づいた。

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