第22話 私は大丈夫だよ。
「じゃあ、電気消すよ」
「オッケー」
宮永さんの返事を聞いてから、すぐに部屋の電気を消した。
ベッドの中に入ると、宮永さんの気配を感じられる。
私の部屋に宮永さんがいるということを、今更ながら実感した。
胸の中で渦巻くのは漠然とした不安感。
でもその底には、言葉にできない昂ぶりがある。
色々な感情が綯い交ぜになりながら口を開いた。
「大学生になったら一人暮らしする?」
「たぶんするかな」
「立野さんはどう?」と宮永さんは私の腕に触れる。
「今のところはする予定」
「なに予定って?」
「良い場所が無かったらここから通おうかなって」
第一志望の大学はそこまで離れてないし。
「立野さんって一人暮らしに興味ないの?」
「あるけど、めちゃくちゃあるってほどではないかな」
「そっかー」
「宮永さんは?」
「私は一人暮らししたいなー」
「休みの日にゆっくり起きられるし」と言って笑みを零した。
顔が見えなかったから、首を倒して視線を向ける。
それに気づいたのか、宮永さんもこちらに身体を寄せた。
ぴったり密着して感じられる宮永さんの体温に、何とも言えない感情が燻る。
「立野さんの親って何時くらいに起きる?」
「いつもなら6時過ぎかな」
「じゃあ6時に起きないとだねー」
「一緒のベッドで寝てるの、知られたら困るし」と呟く宮永さん。
「……宮永さんは困る?」
エアコンがごうごう鳴る音に、私の声はすぐかき消される。
「私は大丈夫だよ」
「そっか」
期待通りの言葉が返ってきて、心拍数が一段と早くなる。
私の身体は、冬とは思えないくらいに熱を帯びていた。
宮永さんとぴったりくっついているからだと思う。
「ねぇ」
宮永さんは私の手をとんとんと叩いた。
すぐにその部分が熱くなる。
「なに?」
「今日はまだじゃない?」
「まだって?」
「……もう」
少し不満そうにしながら、宮永さんは私の手をぎゅっと握った。
「ごめん」
謝ってから、すぐに恋人繋ぎに変える。
隙間がなくなるくらい、手と手をくっつけた。
「立野さんの手って気持ちいいね」
「冷たいだけだと思うけど」
「そんなことないよ」
私にはちょうどいい温度だから、と言って手をにぎにぎする。
「……」
そんなのズルいでしょ。
この状況でそんなことしたら、そういう感じになっちゃうじゃん。
そういうことはしないようにって思って、別々で寝ようと思ってたのに。
でも宮永さんは、その境界線を軽々と越えてきた。
もっと宮永さんと深くつながりたいという欲望がとめどなく溢れる。
そしてその欲望は熱となって、胸の中に確かな輪郭を描いた。
「……宮永、さん」
「なに?」
震える口で名前を呼ぶと、すぐこちらに視線を向けてきた。
とても無防備な様子で、私が何をしても許してくれそうだった。
だから私は、宮永さんとの距離を限りなく詰めて——
「……んっ」
喉の奥で小さな音が漏れる。
少し遅れて、柔らかな感触が伝わった。
初めてだったから、それが唇だとはすぐにわからなかった。
でも宮永さんの唇だと理解した瞬間、ふわふわした柔らかさに脳が痺れた。
「……だいじょうぶ?」
唇を離して呼吸を整える。
口づけをしていたのはほんの少しだけ。
それなのに、どうしようもないくらいに身体が熱を帯びている。
「……」
宮永さんは何も言わなかった。
どんどん心の中に罪悪感が溜まっていく。
繋いでいる手が少しずつ冷たくなった。
「……だいじょうぶだから」
しばらくしてから、宮永さんは呟いた。
「だいじょうぶだから」という宮永さんの声が頭の中で何度も反響する。
どういう意味なのか、熱に浮かされている私にはよくわからなかった。
「……ごめん、ちょっとトイレ行く」
部屋から抜け出してトイレに入る。
すぐに鍵を締めて扉に体重を預けた。
「……はぁ」
深い溜め息をひとつ吐く。
行き場のなくなった熱を逃がすため、窓を少しだけ開けた。
*
「……はぁ」
立野さんが部屋から出て行ってから、私は思わず声を漏らした。
足みぎゅっと力を込めて、どうしようもない感情を紛らわせる。
立野さんは逃げた。
逃げた、という表現があってるかはわからない。
少なくとも、私はそういう風に感じた。
手持無沙汰になった手は、しだいに胸に伸びた。
人の部屋ですることじゃないとはわかっている。
でも、どうしても我慢ができなかった。
立野さんのことを考えながら、下腹部にまで手を伸ばす。
「……っ」
気持ちが高まっている最中に、トイレから水の流れる音が聞こえた。
慌てて服の乱れを直して布団に包まる。
しばらくしてから、立野さんが部屋の中に入ってきた。
「……まだ起きてる?」
いつもと変わらないトーンだった。
正直、立野さんの声を聞いてがっかりしてしまった。
今日はキス以上のことはしないってことがわかったから。
「起きてるけど」
「そっか」
「ごめん、私もトイレ行っていい?」
返事を聞かずに、立野さんと入れ替わって部屋から出た。
トイレの扉を開けてからすぐに入る。
窓に視線を向けると数センチだけ開いていた。
「……もう」
そっちだって我慢してたんじゃん。
湿っぽい溜め息を吐いてから、私はパジャマの袖を捲った。




