第20話 ……私はまあ、夜でも大丈夫かな。
「宮永さんってさ、今から家に帰るとしてどのくらい勉強するの?」
「そうだなぁ……」
勉強の話をしながら会計を済ませる。
今日の勉強会は社会科目をメインに取り組んだ。
覚えておけば正解になる問題もあるから、直前まで対策しておこう。
カフェから出ると、かなり寒くなっていた。
「めっちゃ寒いね」
「だねー」
私が頷くと、すぐに立野さんは恋人繋ぎをしてくれた。
立野さんの手のほうが冷たいじゃん、と思いながら歩き続ける。
「立野さん」
「んーなに?」
立野さんはゆったりこちらに視線を向けた。
「ほら、クリスマスあるじゃん」
立野さんはなんとも言えない表情で私の目を見てくる。
瞳の中にいる自分を見ながら話を続けた。
「それでさ、立野さんって家でひとりだと集中できないって言ってたよね」
「あー前に電話したときに言ったかも」
「だから立野さんの家で勉強会しても良いんじゃないかなって思ったけど」
クリスマスの日に、と小さく補足する。
よし、とても自然に提案することができた。
今回は言葉に詰まらなかったし、ちゃんと目を見ながら言えた。
顔はちょっと赤くなってるかもだけど、それは寒さのせいって言い訳できるはず。
「えーっと宮永さんはその日、どういうスケジュールにするイメージ?」
なにその事務的な感じ、これじゃ私の気持ちだけ一方通行みたいじゃん。
ちょっと嫌な気持ちになったので、立野さんの手をぎゅっと握った。
「ごめん宮永さん、ちょっと痛いかも」
「ふーん」
ほんの少しだけ力を緩める。
痛がる立野さんを横目に口を開いた。
「普通に立野さんの家で勉強して帰るってだけだよ」
「時間はどういう感じ?」
「今回は立野さんの家なんだから立野さんに考えて欲しいな」
いちおう泊まる可能性も残しつつ、立野さんに丸投げした。
立野さんから泊まることを誘って欲しかったから。
「宮永さんの帰りがちょっと心配なんだけど」
「どういうこと?」
「もし遅くなったらさ、夜道ひとりで帰るのは危ないじゃん」
良い感じの流れがきた。
もう一押しで家に泊まるって言ってくれそう。
「……」「……」
もう少しというところで、私たちの間に沈黙が生まれた。
たぶんどっちとも、相手が家に泊まることを言い出すのを待っている。
でも私から言うのは違うでしょ。
だって私、夏休みに誘ったじゃん。
「もうそろそろ手、」
「あっごめん」
私が言い終わらないうちに立野さんは手を離した。
立野さんとの間にあった熱が風にさらわれる。
立野さんとの距離が一気に遠くなった気がした。
改札を抜けてホームに向かう。
乗車して1分も経たないうちに、電車は動き始めた。
「さっきの話なんだけどさ、」
このままだとなかったことになりそうと心配していると、立野さんが口を開いた。
「24と25のどっちに来る?」
「24の方が良いかな」
24日は土曜日だから。
「じゃあ24日ってことで良い?」
「うん」
電車から降りて改札を抜ける。
いつも別れる場所まで来て立ち止まった。
改札を抜けた社会人たちはどんどん入り口から出て行く。
その様子を見ながら口を開いた。
「私は立野さんに教えてもらう立場なわけじゃん」
「そんなことないけどね」
「いや、そこは受験だし」
受験において点数は絶対だ。
それを無視することはできない。
「だから立野さんが大丈夫な時間まででいいよ」
何度目かわからないけど、決定権を立野さんに渡した。
渡された本人は困った様子でこっちを見てるけど。
「……私はまあ、夜でも大丈夫かな」
ギリギリ聞こえるくらいの声だった。
「私も夜まで大丈夫だけど」
「そっか」
「うん」
私が頷くと、立野さんは鞄を持ち替えた。
「……親がなんていうかわからないから、まずはそこからだね」
「そうかも」
「じゃあ後で何かあったら教えて!」
またね、も言わないで立野さんと別れた。
自動ドアを抜けて外に出ると、冬らしい寒さが身体を包み込む。
なんとなく夜空を見上げると、上弦の月が浮かんでいた。




