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学校で人気な女の子と二人きりでカラオケに行くようになって、かれこれ一年経ちました。(旧題: C線上の愛華)  作者: 夏野恵


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第19話 実際気に入ってるから。

「うぅ、さむい……」


毛布の中からもぞもぞ手を動かして目覚まし時計を止める。

すぐにその時計を中に引き込んで現在時刻を確認した。


6時5分——。


あと5分くらい寝れそうだなって思った。

もうちょっと寝たら最高の寝起きができそうだなって。


「でも今日勉強会する日だし……」


ちらっと立野さんのことが頭を過り、ぐずぐず起き上がった。


今は12月初旬、共通テストが近づいてきている。

とりあえず英単語帳をぱらぱらめくって頭を切り替えよう。


「”concede” は『譲歩する』だったっけ」


英単語を見てすぐに目を離し、上を見ながら意味を呟いて正解を確認する。


ちゃんと正解だった。


前までは謎の羅列だった単語も今ならちゃんと意味がわかる。

そんなことをしているうちに朝ごはんの時間になった。


部屋から出て階段を降りる。


夏休みは立野さんがいたんだよな、と思いながら朝ごはんを食べる。

ニュースではクリスマス特集が組まれていた。


「受験勉強はどう?」


東京のお店の特集をぼんやり眺めていると、お母さんが尋ねてきた。


「毎日たくさん勉強してるよ」

「受験生はみんなそうだからね」


「もっと頑張らないと」と言って、お母さんはテレビに視線を向ける。


そうだけどちょっとは褒めてよ。

なんで朝から嫌な気持ちにならないといけないの。


さっさと食事を済ませて朝の支度を始めよう。


食器をシンクに置いて、すぐにリビングから出た。

自分の部屋からヘアアイロンを持ってきて、洗面台の蛇口を捻る。


適温になるまで待ってから顔を洗い始めた。


洗い終わったらティッシュで顔を拭き、化粧水と乳液を肌にしみ込ませる。

わざわざティッシュなのは、韓国アイドルがおすすめしてたから。


ほんとに効果があるのかはわからない。


「……ちょっと時間ヤバいな」


デジタル時計で現在時刻を確認してから、少し急いでメイクに入る。


下地をぱぱっと作ってから、軽くアイラインを引いた。

うちの高校の校則でメイクはアレなんだけど、基本的に黙認されている。


髪のセットに移る。


前髪をコームで梳いてからヘアアイロンで整える。

そして横の髪は毛先を軽く内側に巻いて完成だ。


「そろそろ出ないと間に合わないんじゃないのー?」

「わかってるってー!」


急ぎ足で部屋に戻り、制服に着替えてから鞄とリュックを背負って階段を降りる。


パジャマを洗濯機に放り込んで、玄関に向かった。

すぐにローファーを履いて、軽く身だしなみを整える。


よし、今日もちゃんと可愛い。


「じゃあ行ってくるからー!」


お母さんの返事も聞かずに私は家を飛び出した。



*



「最近さ、マジで風強くない?」

「ほんとヤバいよねー」


前髪が崩れるから困る、という話をクラスメイトとしていた。


「そういう曲、昔流行ってなかったっけ?」

「あーそれはたぶん、」


曲の話をしようとする直前、担任の先生が教室に入ってきた。


「ごめん宮永さん、あとでね!」


女の子はすぐに自分の席に戻っていった。


すぐにチャイムが鳴って、担任の先生が連絡事項を話始める。

共通テストまであと40日を切ったから勉強を継続するように、とのことだった。


「12月といえばクリスマスだけど、受験生にクリスマスはないからなー」


先生が冗談っぽく言うと、笑い声がところどころから漏れる。


クリスマスについてぼんやり考えながら、私は先生の話を聞き続けた。



*


「ねえねえ、今年のクリスマスどうするー?」


お昼ご飯を食べているときに、同じグループの女の子が呟いた。


「私はちょっと話して終わりって感じかなあ」


彼氏のいる子が答える。


「前田さんは?」

「恋人いないし、普通に勉強だね」

「まあ前田さんってあそこ受験するもんね」


やっぱ勉強かぁ、と女の子が口にした。


「宮永さんはどう?」


他の子たちはそこそこ興味ありげな視線を向ける。


「私も前田さんと同じで勉強かなー」

「宮永さんまっじめー!」


少しいじるニュアンスを含ませながら、女の子たちは軽く手を叩く。


「ちょっと、恥ずかしいからやめて?」


私もその雰囲気に乗っかって軽くリアクションをした。



*



「じゃあ私、もう帰るねー」

「バイバイ」


放課後、みんなに手を振って別れた。


教室から出ると、前田さんもついてきた。


「途中まで一緒でも大丈夫?」

「いいよ」


前田さんと横並びになって歩き始める。

立野さんの教室を一瞬だけ確認してから階段を降りる。


校門で待っておけば、立野さんと一緒に行けそうだな。


「宮永さんってさ、第一志望校受かりそう?」


靴を履き替えているときに、前田さんがおもむろに尋ねて来た。


「まあ頑張ればって感じかな」


実際、私が合格できる可能性は五分五分くらい。

2回受験したら合格できるってわけじゃないんだろうけど。


「前田さんはどう?」

「私も頑張ればって感じなんだけどさ……」


「やっぱり本番次第ってところでもあるよね」と言って前田さんは靴を戻した。


「塾で勉強してるんだっけ?」

「してるよー」

「塾ってどんな感じ?」

「自習時間と授業がある感じかなー」


塾の話をしながら校門に向かう。


「じゃあ私、ここで」


校門を出てから西川さんに手を振った。


「待ってる人がいる感じ?」

「まあそうだね」

「立野さん?」

「うん」


隠すことなく頷いた。


「ほんと立野さんのこと気に入ってるよねー」

「まあね」

「あれ、前まで否定してなかったっけ?」

「実際気に入ってるから」

「そっかー」


「じゃあ私、塾に行くからー」と言って、前田さんは離れて行った。


前田さんに深く追求されなかったのは、周りを気にする余裕がないからだと思う。

それくらい勉強を頑張っている人もいるんだから、私もちゃんと頑張らないと。



*



「ごめん宮永さん」


スマホでちらちら時間を確認していると、立野さんに肩を叩かれた。


立野さんの肩は少し上下している。

小走りで来たのかも。


「じゃあ行こっか」

「うん」


すぐに私たちは横並びで歩き始めた。


「最近めっちゃ寒くない?」

「だよねー」


話をしながら立野さんをちらちら見て手を差し出す。


すぐに気づいて、立野さんは恋人繋ぎにしてくれた。


立野さんの手はびっくりするくらい冷たかった。

この子ほんとに生きてるのかなって心配になるくらい。


だから私は、立野さんの手をぎゅっと握って体温を移してあげることにした。

私の熱が立野さんの身体に残ってくれたらいいのになって思いながら。


駅に着くころには立野さんの手は私と同じくらいになった。


「そういえば担任の先生から聞いたんだけど今年の共通テストって……」


立野さんの話に相槌を打ちながら手を離す。


そのとき、私たちの隙間を縫うように冷たいそよ風が吹き抜けた。

立野さんの身体が冷えたら嫌だなって思って、少しだけ距離を詰める。


「だから英語は特に……」


私が近づいたことに気づかないまま、立野さんは話を続けた。

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